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ノルウェー式Marious Bakkenの乳酸閾値トレーニング)


マリウス・バッケン(1978年生まれ)はノルウェーのランナーで、5000メートルが専門でした。バッケンは、2001年の世界選手権で9位、2002年のヨーロッパ選手権で14位、2005年の世界選手権で12位おなり、さらに1999年の世界選手権と2000年および2004年のオリンピックに出場。2001年、2003年、2004年に1500メートル、2003年と2005年には5000メートルのノルウェーチャンピオンとなりました。その後、2006年のヨーロッパ選手権では結果がでず、2007年以降は医学の勉強に専念し、長距離選手のトレーニング理論を研究しています。
ここでは彼の乳酸閾値とトレーニング強度に関する示唆をまとめていきます。

1998年秋、バッケンはノルウェーオリンピック委員会(Olympiatoppen)が主催する「トレーニング強度」プロジェクトに参加した際に、乳酸測定器「Lactate Pro」を使い始めました。このプロジェクトの目的は、国内の有望な中長距離選手に適切な強度でトレーニングする方法を教えることでした。

フランク・エヴァーツェンと著名な生理学者ソルティンによる以前の研究は、ケニア人選手が乳酸閾値の直下で多くのトレーニングを行っているのに対し、スカンジナビア人選手は過剰または過少の強度でトレーニングしており、どのくらいの強度で走っているかの感覚が乏しいことを示していました。

バッケンは乳酸測定器の技術は実際にどのくらいの強度でトレーニングしているかを確実に知る唯一の方法としており、もし測定器が使えるのであればケニア人のようにトレーニングするための以下のような点が運用上のポイントとなると述べています。

1. まず、正確な乳酸閾値テストを受けることが必要です。注目すべきは乳酸が蓄積し始める値です。これがトレーニングの基準値になります。ラボが利用できない場合、ラクテートプロのメーターでの乳酸閾値は3.0 mmol/lから4.5 mmol/lの範囲というのが参考になります。典型的な長距離ランナーなら3.0に近く(4.0から3.0)、中距離ランナーなら4.5に近くなります。

2. 乳酸閾値セッションは最低36分から最大60分まで続ける必要があります。典型的なやり方としては、4-5×10分/7×6分です。ケニア人はセッションをかなりゆっくり始め、後半にかけて徐々に速くなり、約45-50分がLTです。これを週に数回行うことがトレーニングの基礎です。

3. ほとんどの長距離ランではLTで走りますが、アフリカ人はスピード感を自然に持っています。セッションの最初には血液を取り、各ラン/インターバル後に乳酸測定器を使用して、セッション全体でLTの約0.3-0.5下であるべきです。最初はこのペースが遅く感じるかもしれませんが、進むにつれてその効果がわかります。

4. 乳酸を蓄積しないように体を教えることで、レースで速く走り、疲れない能力が飛躍的に向上します。セッション全体で「心地よくキツイ」という感覚を持ち、各ランの後にさらに2、3インターバルできるようにします。

5. LTでの過剰なトレーニングはオーバートレーニングを引き起こす可能性があるため、ほとんどのセッションでLTの0.3-0.5下で走り、最後のインターバルでLTにすることが非常に重要です。ケニア人はこれに優れています。高地ではLTの直下と直上/直上の違いをより感じやすくなります。「追い込んだ方が良い」という考え方はLTトレーニングでは不要です。

トラックでの練習

トラックでのトレーニングは、通常のハードなセッション(6-10 km)で乳酸は4から8 mmol、レースシーズン中は10以上になります。快適/ハードという感覚だけでは十分ではなく、数値で理解する必要があります。

トラック練習では各インターバル毎に乳酸が増加します。重要なのは蓄積の曲線です。前のランから乳酸を次のランに持ち込むので、安定した増加とすることが重要です。これにより、体がトレーニング効果を吸収し、死に物狂いの練習にならないようにします。(トラックで死に物狂いになるケニア人は不思議なことにほとんどいません。彼らは非常に設定のキツイ練習はやりますが、それでも終了後にもう一、二回走れます。)

一部の選手やコーチは乳酸測定器を手に入れると、毎回のワークアウトやインターバルごとに血液を採取することな多いですが、バッケンの著書では乳酸測定器は、「正しい強度で走る方法を理解するため」に使用するべきと述べられています。繰り返すことで選手は正確に感覚として最適なスポット、閾値をつかめるようになります。

さらに、選手のトレーニングにLTを組み込んだ後、セッションの種類を4または5つのカテゴリーに分けると効果的です。

長距離ランナーの場合、ゾーン1は1.5未満の乳酸、ゾーン2は1.5から2.0、ゾーン3は2.0から3.0のLTゾーン、ゾーン4は通常のトラックセッションで3.0から8、ゾーン5は純粋な乳酸作業(テンポ作業)です。これにより、選手は自分の乳酸レベルに基づいてさまざまなトレーニングを関連付けることができます。乳酸測定器は、選手が実際にどのくらいの強度で走っているかを目で確認することができます。また、選手とコーチの間で、どのくらいの強度で走っているかについての意見の相違がなくなります。


心拍数より乳酸測定器が優れているのか

心拍数は日々、時間帯、睡眠、エネルギーなどによって変動しますが、乳酸閾値での乳酸レベルは通常、日々同じです。選手が疲れている日でも乳酸測定器に従って走らせることで、規律を保てます。

ケニア人がLTトレーニングをほとんど行わないと言いますが、これは事実です。しかし、それはレースシーズン中だけで、それ以外の期間はケニアのエルドレットや他の場所に戻ります。そこでの多くのトレーニングは、「ファートレック」または「ロングラン」と呼ばれるものの多くがLT閾値で行われます。彼らのトレーニングは軽く、ゆっくり始まるものの、彼らが動き始めるとその後のラン全体でLT付近まで追い込んでいるようです。

また、「ケニア人が乳酸測定器を使わずにこんなに速く走っているのに、なぜ使う必要があるのか?」という疑問が出るかもしれませんが、彼らは高地で生まれ、自然にLTで走る感覚を持っているという点が異なります。私たち非アフリカ人はそうではありません。彼らは私たちよりも自分の体と密接に結びついています。私たちは技術的な利点を最大限に活用して、彼らのトレーニングを模倣するだけでなく、さらに良くする必要があります。
(ちなみに、1500世界記録保者のエル・ゲルージはこれらのAEセッションを2.50 – 3.10/kmのペースで行い、少しずつ速くしていくトレーニングをしていました。このペースは30-45分間維持されます。彼にとっては、この速度は乳酸閾値の直下、つまりLTトレーニングなのです。)

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