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【日本シリーズ第1戦】痛恨の逆転負け、高津監督の決断はあるか

 オリックスの優勝――。阪神淡路大震災のあの日、まだ未就学児であった私からすれば、その光景は本のなかで展開される歴史に過ぎない出来事だ。そう、水島新司御大がドカベンで描いた、1番にイチロー、2番に殿馬。あれが、私の中のオリックスの優勝だ。

 2021年11月20日。オリックスは日本シリーズの第1戦を迎えていた。公式の予告先発発表はなく、オリックスの中嶋聡監督のみが先発山本由伸を明言。一方ヤクルト・高津臣吾監督は煙に巻いたが、今やエース格となった奥川恭伸なのは明らかだった。

 世間一般の初戦の展望は日本を代表する投手、山本に対してヤクルトが奥川でどれだけ渡り合えるのか、というものだった。解説陣も山本が2勝する前提でオリックス有利とする者が多くいた。それほど山本由伸という存在は絶対的なものであると言える。

 蓋を開けてみれば、試合は予想を上回る投手戦を見せた。オリックス・山本はストレートの走りがいつもほどではないと判断し、決め球をフォーク主体へ切り替え0を並べた。対するヤクルト・奥川も正確無比の投球で、山本に引っ張られるように好投を続けた。

 先制点を献上したのは山本だった。6回、ここまでつけ入る隙がないと思われた山本だったが、ヤクルト打撃陣の徹底した待球作戦の効果が表面化しだした。球数は早くも100球を超え、ボールが荒れだし、四球でランナーをためたところを6番・中村悠平に捉えられる。ヤクルトは結果的に、この回で山本をマウンドから引き摺り下ろすことに成功した。

 しかし、パ・リーグ覇者のオリックスも黙っていない。7回表、奥川は代打のモヤに高く浮いたボール球を痛打され同点ソロを浴びる。普段は出さない四球も戦略に組み込み、のらりくらりとかわしていた奥川につけ込んだ。しかし、奥川も後続は絶ち、7回をこの1点のみで抑えて見せた。

 ここまでの流れで誤算だったのは、オリックスの方だったと思う。山本が先制点を献上することは計算外とは言わずとも、考えたくないルートだったはずだ。ましてや6回で100球を超えてとなると予想外と言っていい。それだけヤクルトの作戦が徹底されていたと言えばそうなのだろうが、それにしても上手くはまったものだ。

 一方でその後のモヤの同点弾は、ヤクルトサイドとしてはまあ仕方がない。許容範囲内だ。難敵・山本相手の試合がふりだしに戻ったに過ぎない。現にヤクルトはその後、村上宗隆のツーランホームランで勝ち越しに成功する。ヤクルトの誤算は間違いなくこのあとだ。

 勝ち越したヤクルトは100球目前の奥川を諦め、継投へ。セットアッパーの清水昇から、守護神スコット・マクガフへつなぐ、いつものパターンだった。しかし、まず8回の清水が本調子でない。

 T-岡田に安打を許し、安達了一を粘られた末に歩かせるなど、この回32球。抑えるには抑えたものの、内容的にも球数的にも明日以降に引きずりそうな投球だった。

 そして最大の誤算だったのはマクガフ。9回先頭の売出し中、紅林弘太郎にヒットを浴び先頭出塁を許すと、代打のアダム・ジョーンズが貫録の四球で後続へつなぐ。そして1番・福田周平。ターニングポイントとなったのはおそらくここだった。脳裏に日本シリーズ進出決めた小田裕也のバスターがよぎる中、中嶋監督はセオリー通り送りバントを選択。これを処理したマクガフが三塁封殺を狙った。

 バント自体は上手いものだった。もう少し三塁側へ強く、と注文を付けられないわけではないが、おおむね問題のないバントだ。しかし、マクガフはあえて三塁へ転送。タイミングは際どくもアウトに見えたが、マクガフの送球がそれたこともあり三塁・村上のグラブから、ボールは無情にもこぼれた。

 決めれば起死回生のプレイを失敗し、ピンチを広げたヤクルトに、オリックスの勢いを止めるだけの力はもう、残されていなかった。続く2番・宗佑磨に同点打、3番吉田正尚にあっさりサヨナラ打を浴び、初戦は万事休すとなった。

 さてここで改めて、9回のことを考えてみたい。継投に入った以上、9回2点リードでマクガフをマウンドに送るのは当然だ。ランナーをためるのも、まあ想定内ではあろう。問題はバント処理だ。あそこはわざわざ三塁封殺を狙うシーンであっただろうか。1死2・3塁で御の字ではなかったか。三塁封殺が出来ても、タイミングが際どいため恐らく一塁には転送できない。出来上がるのは1死1・2塁のシチュエーションだ。リスクに見合うかというと、微妙だ。

 あそこでアウトが取れなかったがゆえに、結果的に吉田正との勝負を避けられなかったともいえる。1死2・3塁であれば、その後の展開がどうあれ、吉田正を避けて当たっていない杉本裕太郎との勝負を選択できた。その選択肢を潰すことになったのも痛かった。

 また、この逆転劇を呼んだ遠因を考えると、8回の清水が余計なランナーを出して打順を進めてしまったことにもある。野球に「たられば」は禁物とはいえ、清水が3者凡退で抑えていれば、マクガフが上位と当たることはなかったかもしれない。

 では問題は第2戦以降の起用をどうするか。短期決戦では判断の遅れが致命傷となるのは、皆様ご存知の通りではあるが、セットアッパーと守護神がどちらも調子を崩していては、打てる手も限られる。リリーバー出身の高津監督が決断を下すのか、注目だ。

 1戦目。結果だけ見れば、オリックスが下馬評通り山本で先勝しただけだ。しかし、ヤクルトとしては若きエース奥川が投げ勝ってオリックスに痛手を与えるという青写真が、手の届くところにあっての逆転負け。中身を見ればダメージは大きい。

 ただ普通に山本に負けるより、勢いを与えてしまう結果となった第1戦。このままの勢いでオリックスが押し切るか。ヤクルトが押し返すか。第2戦はこのあと18時開始である。


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