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大学教授の夏休みを満喫。むしろ働いてる。でも充実しているワケ

 小中高では、すでに2学期が始まっていると思いますが、うちの大学は9月下旬まで夏休みが続いています。大学キャンパス内も閑散としており、訪れる人たちもまばらです。
 私自身は今春、新聞記者から大学教員に転職したばかりということもあって、元同僚からは「夏休みがたっぷりあってええなあ」とうらやましがられることしきりです。新聞記者時代、最初の10年間は長期の夏休みというのはとった記憶がなく、せいぜいお盆に3日間連続ぐらい。それでも事件や事故、災害など突発的なことがあれば飛び出していき、遠出の旅行など夢のようでした。

 では初めての大学での夏休み、何をしているか。ほぼ毎日、大学の自分の研究室に通っています。一番大きな仕事は、「科研費」と呼ばれる研究費を国から頂くために、「独自の創造的な」新しい研究計画を生み出すことです。平ったくいえば、世間があっと驚くような学術的な発見をし、それが社会に大いに役立つものを頭を絞って考えに考えています。


 大学の教員を含めて全国の研究機関から毎年、秋になると研究計画書が国側(日本学術振興会)に集められます。研究者から選ばれた審査員が計画の採否を判断し、採択と認められれば研究費が得られるという仕組みです。
 昨年度の科研費は計2678億円が割り当てられています。研究内容や研究費の総額によっても異なりますが、その採択(合格)率はおおよそ3割しかありません。学問の常識(定式)を覆す「挑戦的」な研究計画の採択率は、たった1割ほどです。これはすごいと自負する研究でも、7割から9割の研究計画は、ボツになってしまうのです。その競争に打ち勝つため、私も含めて大勢の大学教員はこの夏、しのぎを削っていると思われます。

 授業があった時期は、学生相手にすでに構築された学問を教えていれば済みましたが、研究となると、何もないところから新しいモノを生み出す苦悩があります。つまり、1を2にするのは簡単だが、0を1にする難しさです。これまで先人たちが生み出した、自分の研究に関係するありとあらゆる文献を渉猟し、それらを読み込んで、何がまだ明らかにされていないかを探しています。朝から晩までそんなことをやっていると、脳がどんどん熱をもっていき、情報量でパンクしそうになります。

 新聞記者時代を思い返せば、記事になるようなネタを見つけ、スクープにつなげる作業と似ています。何が新しい情報か、足で稼ぎ、嗅覚を働かせて、現場を走り回って人に会っていたころを思い出します。とてもしんどい作業ですが、自分が書いた記事が社会に影響を及ぼすというやりがいもありました。それと同じスタンスで新しい研究は何か、社会や人類にとって何が役に立つかを考える。そうした充実した夏休みを過ごしています。

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