【ワクチン予約】不正な”潜入取材”はいかがなものか
新型コロナウイルスワクチンのワクチン接種をめぐって、記者がでたらめな番号でサイトから予約申し込みをし、予約サイトの欠陥性を訴える記事を朝日新聞系列の雑誌サイトAERAdotと、毎日新聞が掲載しました。
私は約20年間の記者時代がありますが、いわゆる潜入取材はほぼ経験がありません。基本的には正攻法で、正面から相手にぶつかっていくことを信念としていました。記者が身分を偽って取材したり、目的をあいまいにしたままで取材してはならない、と教えられてきたからです。
今回、でたらめな予約をした記者は、すぐに予約キャンセルしたといいます。それは「やってはいけないこと」と自覚したからで、違法とはいえないまでも、少しでも「不正」と認識したからではないでしょうか。報道機関側は記事に「公益性があった」と反論していますが、戸締りをしていない家に黙って侵入して、何も盗らずに引き上げたことを、「相手の不用心を警告するためだ!」と強弁するでしょうか。こうした手法には大きな疑問があります。
確かに、報じる意味はあったと思います。予約サイトに不備があることを知りながら、接種の迅速な実行を優先した防衛省は、不備にどう対応するかについて説明がありません。そこを突くのは報道の役割だと思うからです。
しかし、今回の騒ぎで、報道の「目的」と「手段」の正当性を混同してしまっている人が多いと感じます。江川紹子さんの記事「『ワクチン予約システムに欠陥』~この報道は犯罪?不適切?~メディアへの抗議や批判を検証する」もそうです。きちんと専門家に取材して書き上げた記事であることは評価しますが、「犯罪性」と「目的」にしか焦点を当てておらず、今回の問題は「手段」であることにほとんど触れられていません。
「報道の自由」は守らなければなりません。ネットの意見には、報道機関側を「刑事告発する」という意見も少なからずあり、寛容の精神が冒されていて、行き過ぎであると感じます。ワクチン接種の迅速性と、予約システムの完全性という二律背反的な問題については、なかなかこうすべきだという、断定的なことが言えません。だからこそ、多様な意見を尊重しながら、前へ進む努力を怠ってはならないと思います。
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