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木星を食べる人 #小説SF惑星バトル

 ――わあ、きれいだね、キヨシ。
 ――うん、星空って、ずっと見てても全然飽きないよね。ミカちゃん、ほら見て、あそこ。あの星、すごく大きい!
 ――わあ、ホントだ! すごい、すごい! どれくらい大きいのかな――

 キヨシとミカが指さした星――ぉぉゆ7号Face星は、遥か彼方、地球の単位で言えば、三億光年離れた場所にあった。星々の中でも比較的遠い距離にあるはくちょう座のデネブが、2616光年。私たちのいる銀河の隣の銀河――アンドロメダ銀河は、なんと253万光年の距離にある。
 しかし、ぉぉゆ7号Face星は、その百倍の距離にあったのだ! その距離にもかかわらず、その星はきれいに観測できた。しかも一等星だ! もしかしたら、デネブよりも輝いている。そう――キヨシが言うように、その星は大きかった。それは、彼が想像するよりも遥かに大きなスケールだったが。

 では、そんなぉぉゆ7号Face星はどんな惑星だったのか。実は――この星は、七千万年前に爆発した。それは、じゅみゅぉぷっぷんぷ$銀河全土を巻き込む爆発だったという。
 その光の一部でも地球に届けば、きっとひとたまりもないだろう。なにせ、巨大惑星の爆発だ。超新星爆発のさらに上の段階、超-超新星爆発には確実に届く衝撃に違いない。それは、爆発の後にブラックホールを百個生み出すレベルである。ブラックホール百個! とんでもない数だ! だが、安心してほしい。なんて言ったって、三億光年の世界なのだ。光が地球に届くまで、あと二億年と少し残っている。その頃には私たちも墓の中だろう。安心して、ペヤングソース焼きそば超超超超大盛でも食べておきたまえ。

 しかし、その爆発で多数の死者が出たという。@@あ@@っぱ星のレポートによれば、ぉぉゆ7号Face星の全人口である七百万人のほとんどが死に至ったらしい。
 地球人である私たちが驚くべきは、そのような巨大な星であったにもかかわらず、生物が存在していたということだ! なんせ、地球の重力の六千万倍だぞ!? 君たち、小説家っぽいひ弱な身体でさえ、三十億キロ。そんなの、生存できるわけがないじゃないか!
 ――というわけで、次にぉぉゆ7号Face星人について話そう。だがちょっと先に断っておく。今までの記述は、ぎりぎり地球人の常識で物を語れたが、ここから先はまったくもって奇想天外。私の語りも、常軌を逸することがあるということをどうか理解してほしい。――多分、君らの前頭葉を破壊してしまうこともあるだろう。許してくれ。では、話そう。

 おびびびびびびびびびゃばびぼびびびびびぶぼあびえびぶびびばいべうえいびびにあびえええうべべべべべえぼばキヨシ死ねキののヨぼぼぼシ死ねぼぼぼぼぶぅっぅたゅぉぃみ耳の未耳耳まあまのびびびびまうえゴミがあみみみむろんだまあまあゴミがあああああ、お前らごみお前らごみお前らごみあまままままあまあああああ――え? 悪口が聞こえたって? いやいや、君の前頭葉がおかしくなっただけだろう。――そう、ぉぉゆ7号Face星人もそういうやつらなのだ。意味不明な言語の中に、悪口が混ざっているような――そういう奴ら。
 全身は綿毛でおおわれている。綿毛のおかげで、超級の重力に適応できているのかもしれない。綿毛からはいろいろなものが生えている。左下にはバオバブの木が、右下にはおならが生えている。おならからは毛がボーボーに生えているという噂だ。この前、その毛をラーメンの面に使ったら、一人死んだというニュースを見た。そして、色んな方向に茶色いとげが生えていて、このとげを使って逆上がりをしているんだそうだ。そして忘れてはならないのが、綿毛から覗く二つの大きな目。この目を見たら最後、頭に浮かぶぎょろ目に一生苛まれて、不眠症で死ぬらしい。また、綿毛には「笑」という文字の入れ墨も入っている。温泉に入れなくて残念だ。
 周囲には、口が二つ浮いていた。一つは、ちょうど斜め右に飛んでいる。そこからリンゴを食べるんだそうだ。一方で、下方にも口が浮遊していて、そこからは木星を黙々と食べる。木星を黙々と、木星を黙々と食べる。大事なことなので三回言いました。木星を黙々と食べるんだそうだ。彼らの好物は木星。えーブリーデイ、アイリッスントゥマイハートといいながら黙々と食べるらしい。木星って美味しいよね。私もめんつゆにつけて食べたことがある。ちょうど、ブロッコリーのような味がするんだ。
 後、ICチップも食べる。君達はたまに、SDカードなどを失くしたことがないだろうか。あれは、ぉぉゆ7号Face星人が食べている。あるいは、卒論の前に必ず壊れるパソコン。あれも――ぉぉゆ7号Face星人が食べている。彼らは縦横無尽に宇宙を行き来し、あらゆるものを食べるのだ。要請さんの仕業? ノンノン。ぉぉゆ7号Face星人のしわざだ。

 さて――ここまで話して、きっと君たちは一つだけ違和感を覚えたんじゃないだろうか。そう、彼らには――頭がないのだ。
 彼らは言語を持っていた――がしかし、彼らはその言語をほとんど使用することができなかった。なぜなら――頭がなかったからだ。
 頭がなければ喋れないし、考えることもできない。だから――言語は使えない。ただ――彼らは唯一話すことのできる言葉があった。それは、

 ――頭ってどこだ?

 彼らはひたすら、その言葉だけを反芻した。試しに、彼らの授業風景を覗いてみよう。

 キンコーンカーンコーン。
「頭ってどこだ?」
「頭ってどこだ。」ガタガタッ。
「頭ってどこだ?」ガタ。キキーッ! バン。「頭ってどこだ?」
「頭ってどこだ……?」「アッタマッテドコダ!」
 キンコーンカーンコーン。

 という感じだ。
 ――ほとんどのぉぉゆ7号Face星人は、「頭ってどこだ?」と言い続けながら死ぬ。生まれてから死ぬまで、ずっと頭を探し続けるのだ。そして、一生頭は見つからない。頭は――彼らの見つからない場所に隠されていた。
 しかし、一億人に一人、偶然頭を見つけてしまうぉぉゆ7号Face星人がいる。その人は、「頭ってどこだ……?」と呼ばれるらしい。……ええと、そうか、これじゃあわかんねえな。ええと――名前打つのめんどくさいな、@@あ@@っぱ星か。@@あ@@っぱ星のレポートによれば、「ワンピース」と呼ばれるようになるらしい。頭を探し続ける人は、たいして「ツーピース」と呼ばれる。得てして、「ワンピース」となったぉぉゆ7号Face星人は、世界を支配する能力を手に入れるようになる。先ほど、全人口を含む、ほとんどのぉぉゆ7号Face星人が超-超新星爆発に巻き込まれて死んだと言ったが、実はこの「ワンピース」だけが残ったのだ。今でも、ときどきパソコンがぶっ壊れるのは、この「ワンピース」のせいである。

 以上が、ぉぉゆ7号Face星の生態系だ。
 残念ながら惑星はもうはるか前に失われてしまったが、地球ではまだ、あと二億三千万年は観測できる。もし、望遠鏡をのぞく機会があるのなら、ぜひ、ぉぉゆ7号Face星を探してほしい。きっと、綿毛のような生物が、その表面をうようよと這っている様子を見られるはずだ。

 ――でもミカちゃん、あの星がどんなに大きくても、
 ――うん、キヨシ。
 ――僕たちの愛にはかなわないね……ごふっ!?!?

 そのとき、キヨシの前頭葉は破壊された。

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