見出し画像

アルメニアのポップスに見るマイクロリズム

打楽器のリズムに着目して、まず聴いてみてほしい。
何か普通と違う、不思議な感じがしないだろうか。最後の8分音符が短くて、前につんのめる感じで、毎回次の小節に入る。個人的には、最初にそういう印象を受けた。

1.分析

「ただの6/8拍子なのでは?」という感想を持つかもしれない。

そこで、ソフトウェア上で6/8のグリッドに曲全体として小節の頭が合うようにして波形を表示させてみた。
以下、波形上で打楽器のわかりやすい位置を選んだ。曲の2:37あたり。
※この部分だけではなく、曲全体を通して打楽器は同じように鳴っている。

画像2

6/8というのは、1小節に8分音符が6個入るということ。この曲では、基本的に1小節に打楽器が6回全部鳴っている。上の画像でも緑色の1小節の枠の中で6個分の起伏があるのが分かるだろう。黄色い縦線は6/8の均等なグリッドを表す。
もしただの「均等な6/8」だとしたら、打楽器のリズムがこのグリッドに合うはずだが、画像を確認すると、実際には合っていないのがわかる。

最初の一つを少し前にずらしてみると、こうなった。

画像2

1つ目の音は大幅に前にずれ込んでいるが、他の5つの音は黄色い縦線に合っており、長さ自体は普通の8分音符でほぼ均等に演奏されている。

つまり、ここからわかることは、
6/8ではあるが、最初の8分音符が若干長めに演奏されている。そのため、次の小節の起点との調整のために、最後の8分音符がその分短くなっている」ということだ。

2.マイクロリズムとは?

楽譜上で通常表される音価からの極小のズレのことのようだ。特にDAWを使って作曲している人は、音の長さについてグリッドを基準にするので、特にズレに関して、あまり敏感ではない傾向があるように思う。
「マイクロリズム」の用語・概念自体は、オスロ大学の教授であるAnne Danielsenの論文を中心に用いられているようだ。

民族音楽におけるリズムを、そういった「マイクロリズム(微小なリズム)」の視点から研究している論文も少なからず存在する。

今回のSilva Hakobyanの曲を皮切りに、アルメニアの民族音楽をマイクロリズムの視点で研究したら、とても面白いものになりそうだ。もちろん、今回の曲がアルメニア音楽のリズムの特徴を反映したものかどうか、私には判断できない。しかし、「ポップス」というジャンルではなかなか見られない顕著な特徴であることは確かだ。

------------------------------------------------
アルメニア音楽に詳しい方がいらっしゃいましたら、ぜひ参考文献、音源などご紹介いただければ大変幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?