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出る杭を打ちたくない(自戒をこめて)

自分でも「良くないな」と思っているけどなかなか止められないことの一つに、あまり良く知りもしないのになんとなくネガティブな印象を持って、その印象を自分の中で固定してしまう、ということがあります。

最近この本を読みながら強く感じたことで、自分の悪い癖でもあるし、世の中を覆う「ちょっと重苦しい空気」の原因でもあるように思うので、本の内容を振り返りつつ、どうしたらこういうマインドを払拭できるのか?を考えてみたいと思います。

タイトルは非常に重々しく読む人を選ぶ感じなんですが、実際に読んでみると、志を持った自民党の若手議員が互いの異なる価値観、意見をぶつけ合いながらも「新しい国家のビジョン」を形にしていく様子や、中堅議員も巻き込んで徐々に自民党全体の方針に影響を及ぼしていくストーリーは「半沢直樹」とか司馬遼太郎の歴史小説「坂ノ上の雲」を読んでいるような感覚で、夢中になって一日で読み切ってしまう面白い本でした。

「失われた30年」と「ポスト2020」

私は常々、今の日本を覆う閉塞感、失われた30年の根本的な原因は、戦後、日本の奇跡的な復興を支えた「アメリカに追い付け追い越せ」という目標が1980年代に達成され、その後の国家としての目標、ビジョンを決めきれなかったことにあると思っています。

そして「人生100年時代の国家戦略」は小泉進次郎、村井英樹、小林史明を中心とする自民党若手議員が「2020年以降の経済財政構想小委員会」という自民党内の委員会で、「2020年以降の新しい国づくり」について500日間に渡って喧々諤々の議論を行い、血の滲むような奮闘の末に「新時代の社会保障改革ビジョン」という、新しい「国家のビジョン」を提示するまでの過程を追ったノンフィクションです。

以下、少し長いですが30年間誰もできなかった「新しい国家ビジョンの策定」という難題に挑戦し長い討論の末に発表した、ビジョンの骨格となるメッセージとなりますので是非ご一読下さい。

レールからの解放
- 22世紀へ。人口減少を強みに変える、新たな社会モデルを目指して -

2020年以降を「日本の第二創業期」と捉え、戦後続いてきたこの国のかたちを創りなおす。それは「人口減少」という確実な未来の中でも、日本が成長していくために、必要不可欠な変化である。

これまで日本社会は、一本道の「レール」を走り抜くような生き方を求めてきた。受験に始まり、新卒での就職、毎日休みなく働き続け、結婚して子どもを持ち、定年後は余暇を過ごす̶̶「20年学び、40年働き、20年休む」という人生こそが普通で幸せな生き方だ、と。

それに基づき、終身雇用慣行や国民皆保険・皆年金などが生まれ、これまでは実際によく機能してきた。戦後日本が一丸となって努力し、ゼロから奇跡的な飛躍を遂げ、今日のような豊かさを持てたのは、そのような日本型経済モデルの賜物である。

しかし、人口減少による少子高齢化、さらに「人生100年」生きていくことが当たり前になる未来に、もはや戦後のやり方は通用しない。レールによる保障は財政的に維持できないばかりでなく、私たちが望む生き方とズレが生じてきているのではないか。

「一度レールから外れてしまうとやり直しがきかない」そんな恐れから小さなチャレンジにも踏み出せない。価値観が多様化しているにも関わらず、人生の横並びばかりを意識し、自分らしい選択ができない。 かつて幸せになるために作られたレールが今、この国の閉塞感につながっている。

政治が、その「レール」をぶっ壊していく。
もっと自由に生きていける日本を創るために。

新卒や定年なんて関係ない。「65歳からは高齢者」なんてもうやめよう。現役世代の定義そのものから変えていく。

100年を生きる時代だ。いろんな生き方、いろんな選択肢がある。
10代のうちから仕事や起業という道もあれば、大学卒業後すぐに就職しないという選択もある。転職を重ねるのも、学び直しをするのも当たり前。いつだって子育てや家族のケアを最優先できる。何かに失敗したとしても、何度でもチャレンジできる。

学びも仕事も余暇も、年齢で決められるのではなく、それぞれが自分の価値観とタイミングで選べる未来へ。政治が用意した一つの生き方に個人が合わせるのでなく、個人それぞれの生き方に政治が合わせていく。そうすればきっと、100年の人生も幸せに生きていける。

それは同時に、働き方・生き方・教育の位置づけ、そして社会保障を見直すことにつながる。真に困った人を助ける全世代に対する安心の基盤の再構築は、小さなチャレンジや新しい人生の選択の支えになる。 子育て世代の負担を減らし、現役世代を増やしていくことで、日本社会全体の生産性を高め、人口減少しても持続可能な社会保障になる。

簡単なことではない。しかし、終戦直後、敷かれたレールも無い中で、一人ひとりが挑戦を続け、世界に誇る唯一無二の社会モデルを確立したのが日本という国である。むしろ先人たちが遺した豊富な資産と、日々進化する新しい技術がある今、できないことは何もない。人口減少さえも強みに変える、22世紀を見据えた新しい社会モデルを、私たちの世代で創っていきたい。

出典:https://www.jimin.jp/news/policy/131960.html

読んでみて、どんなふうに感じましたか?

捉え方は様々だと思いますが、私はこの文章を読んだ時に「しっかりと時代の空気感を捉えた力強いメッセージだな」と、感心しました。

「レールからの解放」という象徴的なメッセージはコンテクストデザイナーという肩書を持つ元博報堂の高木新平(1987年生まれ)さんが生み出したもので、高木さんの力も多分にあると思いますが、いろいろなところに配慮しまくって結局何が言いたいのか良く分からなくなる政治家っぽい表現ではなく、きちんと一般人に向けた「メッセージ」になっているところに、小泉議員を始めとする委員会の中心メンバーの感度の高さを感じます。

「セクシー大臣」という揶揄について

私はこの本を読んで素直に「この超難題に挑戦する委員会の中心、まとめ役として機能している小泉議員ってすごいんだな!」と驚きました。
そこで真っ先に考えたのがこのnoteのタイトルである「出る杭を打ちたくない(自戒をこめて)」です。

「セクシー大臣」

皆さん覚えていますかね?小泉議員が環境大臣になってすぐの頃に参加した国連のイベントで「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」と発言したことから話題になり、小泉大臣を揶揄する表現として生まれた言葉です。セクシー大臣(笑)ですね。

私はこの発言がクローズアップされてワイドショーやネットの玩具にされているのを見ながら違和感を感じていました。

あれ、みんな小泉進次郎が「一介の議員」だった頃はかなり高く評価していたのに「大臣」という肩書を持ったら随分叩くようになるんだな?と。

「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきだ」

あらためてこの発言を読み返してみても、特段問題のある発言だとは思えません。複雑で難しい気候変動問題に多くの方に関心を持ってもらうためには「セクシー=魅力的、興味関心を惹くように」取り組むべきだという意図の発言で、誤解されやすいかもしれませんが、至極まっとうな発言だと思っています。

それがなぜか「セクシー大臣(笑)」になってしまった。

発言自体より、この嘲笑の根底にある「出る杭は打たれる」という日本社会の風潮の方が問題で、ある一定の段階までは「おっ、頑張ってるな~!」と気軽に応援できるのに、本当に影響力を持つポジションになると(出る杭になると)とたんに叩き出す。

この風潮ってなんなんでしょうね?

「ことわざ」になる位なので村社会的な日本文化の根っこにある特徴なのだと思いますが、ちょっと調べてみるとお国柄によってかなり異なる価値観があるようです。

アメリカには”The squeaky wheel gets the grease.(キーキー音を立てる車輪は油をさしてもらえる)” すなわち、「黙っていては注目されない」というまったく逆の意味を持つことわざが存在します。自己主張を必要とするアメリカらしい表現です。

面白いですね。「ことわざ」から見える根本的な文化の違い。アメリカでは「出る杭になりなさい」と教えているわけです。

出る杭を打ちたくない

私は特定の政党を支持していませんし、今までの選挙で自民党に投票したことは一度もないくらい、自民党に興味のない人間です。

ですが、「人生100年時代の国家戦略」を読んで自民党内部の議論の様子を初めて具体的に目にすると、思想的な左右の振れ幅が大きいことや(党内に多様性が内包されている)、議論の末にそうした価値観の違いを乗り越えて一つの結論を出した時の団結力、実行力の高さなどは良い意味での驚きがあり、自民党が長く政権を担っている理由が垣間見えた気がします。

自分でも自覚があるのですが「まだまだこれから、将来有望だね!」という時には応援できるのに、いよいよ存在感が高まってくると「ちょっと待てよ?」とストップをかけたくなる。

そのこと自体は「自分に影響を及ぼす可能性が高まった」ことに対する自然な反応だとも思えるのですが、良く知りもしないのに「なんとなく批判してしまう」という自分の癖を直したい。

「出る杭は打たれる」という日本社会の伝統的な反射に惑わされずに、この人は何を話して、具体的にどんな行動をとっているのか?をきちんと知った上で評価するようにしたいなと。

2020年以降の日本がどうなるのか?

私たち自身は日本をどういう国にしていきたいのか?

日本以外の国に脱出する予定の方以外は「関係ない」「興味ない」と切って捨てられる問題ではないですし、これからの日本に出る杭を打っている余裕は無いと思うので、小泉議員を中心とする自民党若手議員が今後どうやって「ビジョンを具現化していくのか?」に注目していきたいです。

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