見出し画像

イーロンさんの冒険(4)

SpaceX設立と資金調達

ロシアでのロケット購入が失敗に終わり、イーロン達のアメリカ帰国から3ヶ月後の2002年5月6日に設立されたSpaceX。この時点では2月にIPOしたばかりのPayPal株(イーロンは11.7%保持)を大きな資金源としてあてにしていたが、創業メンバーが実際に市場で持ち株を売れるようになるまでのロックアップ期間は通常IPO後から90〜180日。つまり5月に会社を設立した直後はそこまで手元にキャッシュがあったわけではない。とは言え、X.comの売却などで$20M弱は持っていたので、会社を自己資金だけでスタートしたのである。

イーロンが最初に誘ったメンバーは、前回登場した後に世界最高峰ロケットエンジン設計者と称されるトム・ミューラー。業界のベテランでロシアにネットワークがあるジム・カントレル。そしてChris Thompson(クリス・トンプソン)である。トンプソンは後にSpaceXでFalcon 1と9のロケット本体, そして輸送をする部分であるDragonの設計を担うエンジニアである。彼らそれぞれの物語は、また別の回に書くことにしよう。

そしてイーロンはロシア行脚の仲間であり、これもまた業界のベテランのマイク・グリフィンも誘った。しかし彼の返事は「とてもエキサイティングなんだけど、俺は年齢も上でキャリアも積み重ねてしまっているし、いまさら西海岸に引っ越す気もないのでやめておくよ。Good luck!」と辞退したのだった。

しかし!

グリフィンのこの判断が後にSpaceXの命運を分ける事になり、そしてもっと言えば航空宇宙産業全体にとって大きな結果をもたらすとはこの時には誰も想像できなかったのである。その話はのちほど。

とにかく南カリフォルニアのLAX空港がすぐ近くにあるEl Segundoの倉庫にオフィスを構え、SpaceXはスタートしたのである。

画像1


そして会社設立の2ヶ月後の7月にeBayがPayPalを買収すると発表(実際の買収完了は10月)。買収額は$1.5B。当時の為替レートで約1860億円である。その時点でイーロンは税引き後で制約なしの約$170M(210億円)をキャッシュで手にすることになるのである。このうちのトータル$100MをイーロンはSpaceXに突っ込むことになる。ちなみにその額で「ロケットの打ち上げを3,4回はできる」という計算だったらしい。

画像2

創業物語は、必然のような偶然と奇跡的タイミングの連続で成り立っている事が多いが、PayPalの買収もまた天佑としか思えない。これがなければ保有株のロックアップ解除後にじわじわと市場で売ることになったので、時間ももっとかかったし、得られる額も恐らく少なかっただろう。そして普通の起業家なら、いわゆるエグジット(株式売却)で得たお金は個人資産として一部取っておいたりするものだが、イーロンはそんなことはつゆほども思わないくらいに常人から見れば「狂っている」のである。彼にとっては全てを「オールイン」で次の未来に賭けるのは当然。なにしろこれは人類を宇宙につれていくための彼のライフワークとなるのだから!

(その5に続く)
その0
その1
その2
その3

<小話2>過去に自分の創業した会社は2社なのに、計4回も追い出されているイーロン。今回こそは外部からのお金なんていれてなるもんか、全部俺がやる!ということで$100Mを自分の会社に突っ込むのでありました。のちにTeslaのために残りのお金を入れていなかったら、おそらく最終的には全部SpaceXに入れていたでしょう。シリコンバレーの連続起業家で、結果としてVCとのやりとりなどで嫌な目にあった人は、同じようなことをよく言います。なにごとも等価交換なので、事業を加速するのと引き換えに何かは失うわけです。当時のイーロンの内なる冨岡義勇がこう叫んだに違いありません。#知らんけど#鬼滅の刃

画像3




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?