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地域おこし協力隊、総隊員数8,000人時代を前に・・・

総務省によると平成30年度の統計で全国に5,359人いるとされる地域おこし協力隊(以下、協力隊)は、令和5年度には約1.5倍の8,000人に拡充することが目標とされています。8,000人という数値は人口でみれば夕張市に匹敵する数値です。

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各年度ごとに在任中の協力隊総数:総務省データより作成

制度のひとつの成果指標と思われる定住率についての調査結果をみると、平成31年3月31日までに退任した協力隊は合計 4,848人、そこから活動地と同一市町村内への定住者が2,464人で50.8%、活動地の近隣市町村内への定住者が581人で12.0%でした。これらふたつを合わせたものを定住率とすると62.6%となり隊員の約6割が地域に定住した、と書かれています。

もしこの定住率のまま8,000人となったと仮定すると、定住するのは約4,800人、地域外に移動されるのは3,200人。定住率6割が高いのか、は私には判断がつかないところですが、せっかく移住した協力隊が三年以内に3,200人も地域を出ていってしまうのは絶対数としてさすがに多いと感じます。(もちろん各自それぞれの事情があるので、定住しないといけないとかは言うつもりは全くありません)

そして忘れてはいけないのが協力隊ひとりに割り当てられる予算は年間で400万円を上限。これに単純に8,000人を掛けで400万円×8,000人= 320億円、とかなりの額です。私にはもはや感覚の掴めない数字であります。

制度を使っている協力隊である私自身があまり制度のことをあぁだこぅだ言うのもどうかなと思いましたが、多額の予算をかけて大勢の人を移動させる制度です。大幅増員が見込まれる以上、より良い形で次に繋がってほしいと思い、気になる点について現場から書きます。


活動目的、活動内容の具体化、明確化

定住率を上げることを考えると、採用における地域や自治体としての「活動目的、活動内容の具体化、明確化」は改善の必要があると思います。

現役の協力隊として自分自身も経験しましたし、周辺の協力隊もこの辺りで地域や自治体と意思の疎通が十分にできていない部分があると感じています。活動内容が退任後の定住に繋がらない、採用前に聞いていた内容と違う、活動内容が地域の意向と異なる等という話は耳にすることが多いです。

実際、毎年実施されている協力隊アンケート結果でも「今後の課題、意向等」という大項目にある「活動目的、活動内容の具体化、明確化」に対して回答者から「課題がある」という回答が出ています。

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平成30年度地域おこし協力隊アンケート結果より

この状況で採用枠を増やし、採用のハードルが下がれば、活動目的が不明確なまま協力隊を採用する場が増える可能性もあります。

もちろんこれは地域や自治体だけの課題ではありません。私自身にもいえることですが、情報収集や地域や自治体と課題や活動内容についての意見交換を採用前にもっとできたことがあったと思っています。


協力隊の現場の声を届ける

また、協力隊からは現場の声を外に届けるさらなる努力も必要だと思います。先ほど引用した協力隊アンケートの回答率は38.9%に止まり、協力隊の半数以下の声しか反映されていませんでした。SNSやブログでの発信も大切ですが、制度面を見直すとした場合、直接的に制度設計側へ意見を出せるアンケートも重要です。

同時にこのアンケート自体も改良の余地があると考えます。現在アンケートはURLが書かれたpdf文書が回覧されることで回答できるようになっていますが、誰が回答済みかどうかは確認できません。匿名性は維持したまま回答の有無の確認機能があれば未回答者に回答を促すことができます。現在の状況では、回答する気になった人のデータだけが取られ、他の声がとりこぼされているか可能性があります。

同時に質問内容についても一度再考する必要があると思います。現在の内容では、どのようにしてその地域を決めたか?その情報源は?という採用PRに関連した質問が多い一方、活動が地域経済にどう影響を与えているかという質問は少ないと感じます。


増員の前に各自が一歩立ち止まって今後のためにできることを考える必要があると思い本記事を書きました。一筋縄で語れることでないのは重々承知ですが、ただでさえ経済に余裕がないこのご時世。地域にとっても協力隊にとってもいい制度運用を考えてみませんか。

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ちなみに「今後の課題、意向等」の大項目の中で「大きな課題である」の数値がもっとも高かったのは「その他」の79%です。「その他」って何でしょう?曖昧な表現ですが、少なくともアンケート回答者の大多数が何らかの課題意識は持っているようです。加えてアンケートを毎年取っているにも関わらず、あまりその結果についての話を見かけないのもひとつの課題かもしれません。

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平成30年度地域おこし協力隊アンケート結果より


* * * 参考文献 * * *

地域おこし協力隊 人数推移
総務省ホームページ

平成 30 年度地域おこし協力隊に関する調査 調査研究報告書
JOINホームページ


令和元年度地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果
総務省ホームページ



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