10年ぶりにヘアサロンに行った話。
高校に上がった頃くらいから、長いこと自分で自分の髪を切っていた。自己満足というか、むしゃくしゃした拍子に切る場合が多いので、大抵ショートヘアーにして、後頭部は見えないから適当でいいや、と開き直って。最近は少しはマシに切れるようになってきた気がしているが、まじまじと見るとやはりでこぼこらしい。相変わらず自分には見えないので、別に気にしていないのだが。
成人式のヘアアレンジをしてもらう為に髪を伸ばして、その際に多少髪を整えて貰ったのが最後のような気がする。少なくとも10年はヘアサロンに行かずに済ませていた筈である。
で、もう30も過ぎて、自宅の洗面所に新聞紙敷いてむしゃくしゃしながら髪を切るのもどうなのだろうと気になった。むしゃくしゃをすっきりさせる為にやってるんだが。
周りの女友達たちがヘアアレンジの話やトリートメントの話などしているのを聞いて、ほーん、ふーんと興味のない相槌を打つ自分が急に嫌になった。そういったことに興味のない自分は格好悪い気がした。その動機もどうなんだか、いいのか悪いのかよくわからないが。
で、カットとカラーをやってくれる近場の店を探そうと思ったのだが、私がそもそもヘアサロンに足を運ばないのは、ヘアサロンという存在そのものが猛烈に苦手だからである。
ヘアサロンって病院に似てないか?医者との相性が悪いと問題が伝わらない。問題が伝わらないと自分の状態が改善されない。そうなるともうそこには行きたくなくなる。だから相性のいい場所を探すことに労力を割くことになる。
「あー、まぁこんな感じならいっかぁ」と思えるくらいの満足感、もしくは納得出来る施術を受けないとなんだか損をしたような、他のことにお金使えばよかったかな…と後悔するような。
と、これはひとつのおそらく一般的なヘアサロンに行くのを渋る理由かなと思ったものを挙げた例なのだが、私がヘアサロンを猛烈に苦手な理由はもうひとつある。このもうひとつはもしかしたら理解がされにくいことかも知れないと思ってこうして後から話すことにした。
私は、ヘアサロン(美容院って今はもう呼ばないんだろうか?)とは、女性が行くところだという認識をしていた。私は自分の体が女性であることが結構な頻度で嫌になるタイプの女だ。
この体で損をしたことは多く思い出せても、特をした記憶は全然ない。私という人間を判断する時の大部分の要素として肉体を観察されるのが嫌だ。性的に見られるのが嫌だ。損得を抜きにしても、女性の身体的特徴として男性よりも筋骨粒々とした体を作りにくい点も嫌だ。子どもを作る際には私の体に種が植え付けられるのが嫌だ。体格のせいで舐められるのが嫌だ。これは男性に生まれていてもあり得たことかも知れないが。
だからといってじゃあ男になりたいのか、と言われたら、なれるんならなりたいけど、今生の自分の体格をそのまま改造したところでなりたい男性にはなれないので、これは結局無い物ねだりなのだ。
で、ヘアサロン。私の中で「女性が行くところ」であるヘアサロン。すっごく行きたくない。自分が女であることを突きつけられる気がしてすっごく行きたくなかった。なので避けてきたが、本当に上記のような理由が原因で行きたくないのか、ただひたすらに億劫で行きたくないのか、自分でもわからなかったので、友人に付き添ってもらって、友人の家の近所(私の家からは一時間くらいかかる場所)のヘアサロンに行ってきた。友人曰くオタクのスタッフさんがいるということと、友人がいてくれたら緊張したりしても少しはそれが緩和されるんじゃなかろうか、と見越しての付き添い依頼だった。友人は快く引き受けてくれたので、お言葉に甘えて紹介してもらった。
そして結論からいうと、こういうものは場数と、やはり相性が大事なのだろうなと思った。友人がいてくれたから些か緊張は解れたものの、自分の中のカットの理想をうまく伝える努力が足りなかったと思う。結局後日自分で少し手を加えた。
で、髪のことはまぁまた伸びるし伸びた時に改めてそのヘアサロンに行くかどうかはその時に考えればいいとして、もうひとつの問題については、自分にはやはり根が深そうだった。
ただ億劫なだけなら、現地への出発前に猛烈な腹痛に襲われたり、泣くほどつらいと感じることはなかった筈だ。緊張だけなら普段は腹痛のみで済んでいる。
自分の性自認については、なんとも言いがたいのが自分の中の正直な感想である。男性には憧れるけれど同時に男性に苦手意識もある。男性から自分に女性を求められると物凄くしんどい。女として意識されるのがすごくしんどい。
ただ自分のことを男だと思ったこともないし、どうしようもなく女性的な感性でもって生きているなぁと思う。
しかし、言ってしまえばたかが髪を整えるという行為の前にどうしてこんなにも自分の性別を意識して苦しむのかがわからない。まだわからないまま過ごしている。
とりあえず、今度は気が向いたら、1000円カットみたいな店にも行ってみようかなと思った。ヘアサロンという場所そのものへのコンプレックスを拗らせているだけかも知れないし…。
カットについてはもっと勇気をもってあれこれ注文すべきだったと反省が残ったけれど、髪を染めてもらうのはなるほど楽だった。値段を聞いたら「switchのゲームソフト買えるやんけ」と思ってしまったオタク脳が恥ずかしいが…(※オタクであることが恥ずかしいのではなくゲームソフトと染髪料金を比較してそれならゲーム買いたいなと思った金銭感覚を恥じている)。
ヘアサロンのスタッフさん曰く、市販の染髪剤よりもちゃんとしたところで染めてもらった方がキューティクルが保てるそうで、確かに髪の傷みの少なさは段違いだ。普段から髪のことを全然大事にしないで生きているので、歴然とした差に驚いた。
値段にはちょっとびっくりしたが、染めてもらった髪は明るくてかわいいので結構気に入っている。
そして髪を整えてもらった後は友人の家でお互いの好きなゲームが原作のアニメを見ながらピザを食べるという夢のような時間を過ごしたので、一日の満足度としてはなかなかのものだった。ドミノ・ピザ、初めて食べた。美味しかった。
不安定な自意識のなかで延々悩むよりも、こうやってピザうめぇな、みたいなことだけ考えて生きていたいな。それができたら苦労はしないのだが。
今日はこんなもんで。
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