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物語を持つ組織文化

組織の変革が必要とされるとき、あるいはその組織で働くメンバーにとって何らかのバージョンアップ(変革)が求められるとき、皆さんはどのような方法を取られますか?

タウンホールミーティングで経営トップとのコミュニケーションの場を持ち、対話を通じて浸透させていく。研修プログラムやワークショップを構成して、全員に必修受講させる。これら以外にも有効な方法があると思います。
どんな方法を取るにせよ、そのプログラムが成功したと言えるかどうかは、新しい文化が組織のメンバーに浸透し、誰に聞いても同じように語る状態になることではないかと考えます。だから、そうなるまであの手この手で継続してやり続ける必要がある。そうしないと、組織変革への働きかけの効果はどこかで失速しかねない。

組織文化には明文化されているもの、明文化されていないがその組織のメンバー皆がそうだと確信的に信じている価値観や行動規範などがあります。
明文化の如何に関わらず、聞けば誰もが異口同音に語るもの、それこそが組織文化のコアだとすると、なかなかそのレベルまでに持っていくのは大変です。それくらい組織文化には元鞘に戻ろうとする強力な回復力を持っていると考えています。
もし変革のプロジェクトが組織文化レベルの変化をも必要とするとき(※そういうレベルの変化を必要としないプロジェクトもあると思います)、 後戻りしないための何か良い方法は考えられないものでしょうか?

社会学者のモーリス・アルヴァックスの集合的記憶論というのがあります。

モーリス・アルヴァックスは集合的記憶論として『記憶の現在主義(現在における過去の再構成)』『記憶の物質性・空間性』を上げたが、この二つの特徴は過去の出来事を直接的に体験した当事者以外の人たちにも『過去の記憶の共有(過去の記憶による心理的・行動的な影響)』が起こり得るということを意味している。
(出典:「M.アルヴァックスの集合的記憶と歴史の社会学」, 
https://esdiscovery.jp/knowledge/basic/social01/socio013.html)
 
直接的に体験した当事者以外の人たちにも『過去の記憶の共有』が起こり得るものならば、この「集合的記憶」を組織内、チームに作り出して、それを共有することで組織文化の持続力だけでなく、時には新しい文化自体も浸透させていくことができるのではないか?

組織の中には、時代を超えて語り継がれる逸話、あるある事例、○○語録などがあります。人々の間で共有されているこれらを、「組織が持っている物語」とします。この「物語」が組織の中で果たしている機能は、M. アルヴァックスが指摘する「集合的記憶」を想起させるスイッチであり、これによって「私達はこういう存在なのだ」ということを想起しているものなのかもしれません。

「物語」は組織文化を具体化したもので、そうした語り継がれる「物語」があるから、組織文化は強固にもなる。一方、異なる組織文化の前では何らかの化学反応を引き起こすことがある。特に相容れない「物語」に対しては強烈なアレルギー反応を組織に起こさせる。

故に、組織文化にアプローチしなければならないとき、組織の中で受け継がれている「物語」を知ることから始めると良いのかもしれません。そして、その文化を変えていかなければならないとき、「物語」の改版、または新たな「物語」を創り出す必要がある。つまり、「変革を組織文化に定着させる」とは、組織内に流れている、メンバーが共感し、語り継いでいる「物語」の中に新しい1ページとして書き込まれるまでやり抜くということなのだと考えます。

企業には歴史があります。この「歴史」を語ることで組織の「物語」か顕在化し、空気のような組織文化が扱いやすくならないでしょうか。
そして、誰もが記憶できる「歴史」の一コマを共有することで、その組織文化への共感とbeliefを生み出す。

大きな変化を伴う変革プロジェクトでは、時には迷走し、遅延が発生し、メンバーも疲弊させてしまう、厭戦気分を生んでしまうことさえあります。当初のビジョンやゴールもリセットしなければならなくなることもあるでしょう。
こんな時も組織の中の「物語」は私達に力を与えてくれるものになるはずです。

「物語」を持つ組織文化。組織変革には新たな「物語」の1ページが必要になる。変革をマネージするチェンジマネジメントのスキルがプロジェクトマネジメントとは別に必要とされる理由は、「物語」を扱う必要があるからでしょう。ここはクリエイティビティとイマジネーションが要求され、コンテンツキュレーションの作業を伴う世界なのだと思います。


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