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暖房負荷と冷房負荷

暖房・冷房の省エネに欠かせない概念「暖房負荷」と「冷房負荷」について説明します。

室温を上げる熱・室温を下げる熱

熱は高い温度から低い温度へと流れます。例えば、冬、外が寒い時は、窓や壁を伝って熱が部屋の内から外に流れ出ていきます。逆に、夏のよく晴れた日は屋根に日射があたって屋根の表面が非常に高温になるため、部屋の外から内に熱が流れ込んできます。

また、太陽からも電磁波というエネルギー形態で熱が伝わります。このエネルギー形態を建築環境工学では日射や放射(太陽からは主に短波長放射)と言ったりします。天気の良い日には窓から日射が入ることにより室温が上昇します。

さらに室内では熱そのものが発生します。例えば、ガスコンロやIHヒーターなどで調理を行うと大量の熱が生じます。テレビや冷蔵庫からも熱が発生します。最近ではパソコンなどのACアダプター等からの発熱も多くなっています。さらに、住宅に住む人自身からも熱が発生しています。

これらの熱が室内にたまっていくと室温がどんどん上昇します。逆に、室内から(室外に)熱が逃げていくと室温がどんどん下降します。つまり熱の移動には、室温を上げる熱と室温を下げる熱(正確には熱移動)があります。

メモ 2021-08-11 (4)

壁・窓・屋根・床のことを外皮と言いますが、外皮を伝わって(伝導)流れる熱の向きは、部屋の内と外のどちらの温度が高いかによって変わります。(正確には部屋の外の温度とは気温ではなくて、日射があたる影響も考慮した相当外気温度という概念が必要です。)換気も室内外の空気の温度の関係によって、流入か流出かが決まります。一般的に、日本の冬は外の方が温度が低いので熱は流出する一方ですが、夏や中間期では日中と夜間とで外気温度が変動し熱の移動向きが変わることがありますので注意が必要です。

また、窓開けによって空気を入れ替えることを「通風利用」あるいは「自然換気利用」と言ったりしますが、これも広い意味で「換気」と言えます。

熱のバランス

この室温を上げる熱と室温を下げる熱のバランスが重要です。家計に例えるとわかりやすいと思いますので、ここでは、室温を上げる熱を「収入」、室温を下げる熱を「支出」と言うことにします。「支出」よりも「収入」の方が多い場合は室温があがっていきますし、逆に「支出」の方が「収入」よりも多い場合は室温がさがってきます。差し当たって例えるなら、室温は「貯蓄額」とも言えるでしょう。

メモ 2021-08-11 (5)

暖房負荷

室温の変化は、「支出」と「収入」の熱のバランスに応じて決まることを書きました。冬は、一般的に、室内から室外に逃げていく熱が多くなるため、多くの場合、「支出」が「収入」を上回るため、暖房をしていないと室温が徐々に下がります。適切な室温は 20 ℃ 前後と言われています。室温が下がることを防ぐために、室内の空気を加熱しないといけません。この加熱しないといけない熱の量を暖房負荷と言います。

メモ 2021-08-11 (6)

暖房負荷が増加するにつれて、暖房エネルギー消費量も増加します。

暖房負荷を下げるには?

熱の大まかな流れを示します。

メモ 2021-08-11 (7) - コピー

暖房負荷の増加要因は「支出」つまり、主に室内から室外に外皮を通して流出する熱と換気を通じて流出する熱です。

これは、断熱性能を上げるか、熱交換型換気設備を導入することにより、暖房負荷を減らすことができます。(ただし熱交換型換気設備を導入すると、一般的に換気の搬送効率が落ちて換気エネルギー消費量(モーターの消費電力量)が増えますので、慎重な判断が求められます。)

暖房負荷は熱の取得を増やすことによっても減らすことができます。暖房負荷を減らすために家電からの発熱を増やすのは本末転倒ですが、日射により流入する熱を利用することは有効です。日射により流入する熱を増やすには、開口面積を大きくとること、日射熱取得型のガラスを採用すること、不用意に遮蔽部材を用いないことなどが挙げられます。ただし、開口部面積を増やすと断熱性能の低下を招きがちになります。高日射熱取得型でかつ断熱性能が良い窓を選定することが重要です。また、日射熱取得を多くすると夏の冷房負荷の増加や室内環境の悪化を引き起こすため、夏と冬とのバランスをとった判断が必要となります。

冷房負荷

室温の変化は、「支出」と「収入」の熱のバランスに応じて決まることを書きました。夏は、一般的に、日射が原因で室外から室内に入ってくる熱が多くなるため、多くの場合、「収入」が「支出」を上回るため、冷房をしていないと室温が徐々に上がります。適切な室温は 26~28 ℃ 前後と言われています。室温が上がることを防ぐために、室内の空気を除去しないといけません。この除去しないといけない熱の量を冷房負荷と言います。

メモ 2021-08-11 (6) - コピー

冷房負荷が増加するにつれて、冷房エネルギー消費量も増加します。

冷房負荷を下げるには?

熱の大まかな流れを示します。

メモ 2021-08-11 (7)

冷房負荷の増加要因は「収入」つまり、日射などにより室外から室内に入ってくる熱移動です。日射熱を上手に遮蔽することで冷房負荷を減らすことができます。

日射による熱は屋根などの不透明な部位から入ってくる場合と窓などの透明な部位から入ってくる場合に大別されます。

屋根などの不透明な部位では、その部位の外側表面で日射が吸収されます。その結果、表面温度は非常に高温になります。熱は温度の高い方から低い方に流れますから、外側から内側への伝導による熱移動が置き、最終的に室内に熱が放熱されます。この熱を遮蔽するには断熱をすることが最も効果的です。屋根などの断熱は冬場の断熱性能向上にも役立ちますから、夏にも冬にも効く一石二鳥の手法とも言えます。よく断熱は冬のためにやると誤解する人が居ますが、日射があたる部位については夏においても非常に有効な手法です。他の方法としては、そもそも日射による表面の温度上昇を防げばよいですから、日射を当てない、日射を反射する、などの手法も採用することができます。日射を当てない手法として、壁の外側に穴あきブロックを用いることや通気層を設けることなどが有効です。また、日射を反射するには、日射の反射率を上げるためのペイントをするのが効果的です。日射の反射率はほとんどその色味によって決まりますから例えば白色系のペイントをすることによって日射を反射し、表面の温度上昇を防ぐことができます(ただし反射した日射の影響で周りからは眩しくなるため、隣人などの外部環境への配慮も必要です)。

メモ 2021-08-11 (8)

透明な部位、つまり窓ガラスからの日射流入は、軒・ひさし等の日よけを設置する、ブラインドやロールスクリーンなどの日射遮蔽部材を設置する、日射熱遮蔽型のガラスを選択するなどが考えられます。もちろん窓の面積を小さくすることも有効ですが室内の光環境も十分に考慮した上での慎重な判断が求められます。様々な日射遮蔽手法がありますが、1つ注意が必要です。あまり遮蔽をしすぎると、冬の暖房負荷を減らすために日射熱を利用する機会を奪うことに繋がります。理想的には、冬は日射を取得し、夏は日射をなるべく遮蔽するという設計が良いですが、なかなか難しく(その手法については後述します)、夏と冬とのバランスで設計することが重要と言えます。

メモ 2021-08-11 (9)

夏の日中、外気温度が高い場合にはあまり有効ではないかもしれませんが、それ以外の時期、例えば、中間期、あるいは夏場であっても夜間など、外気温度が少し下がってきた時には、窓開けによる自然換気による排熱も有効な手段です。どのようにしたら自然換気の量を増やすことができるのかについてはまた別の機会に述べますが、換気量を増やすことで室内に溜まった熱を排熱し、冷房時間を減らすことができるかもしれません。

また、建物の設計による手法とは違いいますが、内部発熱を減らすことも重要です。住宅ではなく非住宅建築物になりますが、データセンターやオフィスビルでは内部発熱が大きく、冬でも冷房する場合があるほどです。住宅ではそこまではいきませんが、省エネ型の家電を採用するなど、内部発熱を減らす努力も重要です。

日射取得と遮蔽をどう両立させるか?

冬は日射を取得し、夏は日射を遮蔽したいという、一見、相反する性能をどう両立したらよいでしょうか?夏のことを考えると日射の遮蔽は非常に重要なため、遮蔽型のLow-Eガラスを採用しつつ、冬は徹底的に断熱をすることで暖房負荷を抑制するなども選択肢の一つかもしれません。一方で、冬に窓から日射を最大限に取り入れるかつ夏に遮蔽する方法があります。付属部材の活用と適切な日よけの設計です。

ブラインドやロールカーテン、オーニングなどの遮蔽部材は居住者が操作することによって開けたり閉めたりすることができます。居住者の協力も必要となりますが、付属部材を有効に活用することを考えても良いかもしれません。

適切な日よけ(ひさし)の設計も重要です。冬と夏とでは太陽の位置(太陽高度)が違いますから、適切な長さに日よけを設計することにより、冬は日射を取り入れ、夏は遮蔽するということが可能になります。太陽高度は地域(緯度)によっても異なりますから、地域に応じて太陽高度がどの程度になるのかといったある程度の詳しい計算が必要とはなるものの有効な手法と言えます。

メモ 2021-08-11 (10)

まとめ

暖房負荷と冷房負荷について説明しました。また、暖房負荷と冷房負荷のそれぞれについて、どうやれば減らすことができるのかについても述べました。

暖房負荷を減らすのは断熱性能をあげるなどをすれば良く比較的考え方は単純かもしれません。一方で、冷房負荷は日射による室内への熱流入をうまく設計する必要があるため、ある程度の熱の流れに関する知識とそれを実現する設計力が必要となってくるといえます。

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