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アはアーケードのア 第27回『スペースクルーザー』(1981年/タイトー)

“ドラマティックシューティング”の先駆けの一つ

 『スペースクルーザー』は1981年にタイトーからリリースされたスペースシューティングゲームです。

 1981年というと、『スペースインベーダー』のブームからまだ2~3年しか経っていない時期ですが、この数年のゲームの変化は凄まじく、ハードウェアとゲームデザインがまさに歩調を合わせ、大きく進化し続けていました。

 そんななか発売された『スペースクルーザー』についてのぼくの印象は、タイトーにおける“ドラマティックシューティング”の先駆けというものです。

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 ドラマティックシューティングとは、ここでは敵キャラクターが次々出現し、ストーリーの流れを感じさせるゲーム展開があるシューティングゲームという意味合いで使っています。

 1970年代のアーケードゲームには、「展開」というものがほとんどありませんでした。『ブレイクアウト』『アステロイド』にしても、『スペースインベーダー』『ギャラクシアン』にしても、基本的にどこまで行っても同じシーンの繰り返しで、そこにあるのはほぼ難易度の変化だけなんですね。

 それが、1970年代の終わりごろから場面が展開していくゲームが生まれます。シューティングにかんしていえば、おそらく『オズマウォーズ』や『アストロファイター』辺りがその嚆矢ではないかと思います。複数の敵キャラクターが順番に出現し、ステージの最後にはボスらしきキャラクターも登場します。そこには明確にストーリー性、物語性が存在します。

 もちろん、『スペースインベーダー』や『ギャラクシアン』でもバックストーリーを感じることはできました。いわゆるナラティブと呼べばいいのでしょうか。しかし、具体的な「展開」、目で見える「進行感」というものに乏しく、ドラマ性の大部分はプレイヤーの想像力に委ねられるものであったと思います(ただ、それはそれでビデオゲームならではの楽しみかたであり、魅力でもあるのですが)。

 ハードウェアの進化に伴い、ゲームにストーリー展開の概念が生まれるのは必然でした。前述の『オズマウォーズ』『アストロファイター』に続き、各社が『ムーンクレスタ』『スクランブル』『スペースオデッセ―』のような多彩な展開を持つシューティングゲームをリリースしていきます。

 そんななか、タイトーが満を持して世に送り出したのが『スペースクルーザー』でした。スペースクルーザーを操作し、宇宙を進み、次々と現れる敵UFOを撃破し、スペースステーションで自機をパワーアップさせ、最終的に敵星の基地を破壊するゲームです。

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 オープニングにはパースのかかった発進シーンがあり、ゲーム内容についても敵の撃破にとどまらず、アステロイドをかわすステージ(一応破壊もできるのですが)や、パワーアップイベントがあり、また最終ボスをバックグラウンド面で描くことで巨大さを表現するなど、この時期としてはじつに多角的に工夫の施された作品でした。

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 前述のアステロイドステージがユニークで、後半に自機が左右に流される“スリップゾーン”なるギミックが登場するのですが、この発想はおそらく同社のレースゲームである『スーパースピードレース』系から来ているのではないでしょうか。レースゲームのギミックをそのままスペースシューティングに転用したわけです。

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 考えてみると、当時のレースゲームはトップビューで車の挙動もリアルなものではなく、いうなれば、画面の上のほうから次々と降ってくるライバルカー(障害物)を左右にかわすような遊びでしたので、『スペースクルーザー』のアステロイドステージとほとんど同じようなものだったといっても大げさではないと思います。

 また、敵のエイリアン軍団が3機編隊で三角形のフォーメーションを組んで攻撃をしかけてくるシーンは、同社のシューティングゲーム『トライアタッカー』のアイデアが元になっているのかもしれません。

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 自機を操作してスペースステーションにドッキングするシーンを見ると、前年の日本物産のヒット作『ムーンクレスタ』が最初に思い浮かぶのですが、これに類するアイデアは黎明期の定番ともいえ、同社『ルナレスキュー』にもその源流を見ることができる気がします。

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過渡期の“弾を当て難(にく)い”シューティング

 この時期、敵が「プレイヤーのショットを当てにくい動き」をするシューティングゲームがよくありました。すべてのゲームがそうであったわけではないのですが、意識的に「いかにプレイヤーの弾を当てさせないか」という思想でつくられていたと思しきものも少なくなく、この『スペースクルーザー』もその一つだったようにも感じます。自機のショット性能があまり高くないこともあって、なかなか狙って当てることが難しい。

 そもそも現代シューティングの始祖的存在である『スペースインベーダー』は、かなり当てやすいゲームでした。隊列が密集していて、敵の数が多いうちは動きも遅く、残り数が減ってくると移動速度が上がるものの、あくまでシンプルで規則的な動きであるため、狙い撃つおもしろさの点でとても優れていました。

 ところが『スペースインベーダー』以降、各社のシューティングゲームは差別化のために敵の動きがどんどん多彩になっていきます。UFOという例外を除き、実質的に単一の敵しか存在しなかった『スペースインベーダー』と違い、さまざまな敵を出して展開をつくる以上、種類ごとに性能を変えることは必然でした。

 ただ、最初のころはハードウェアの制約上、敵の動きがあまり速くできなかったので、トリッキーな動きでもまだ当てやすかったんですね。『オズマウォーズ』にしても『アストロファイター』にしても、現代の目で見るとゲーム全体の速度が本当に遅い。

 やがて、ハードウェアの性能が上がってくることで、敵の速度もどんどんアップしていくのですが、この時期はシューティング制作のノウハウがまだ十分に深まっておらず、予測のしにくい機械的な動きをする敵も散見されました。編隊を組むこともなくまばらに飛んでくる敵も少なくなかった。

 多くのゲームでは、自機ショットの連射やワイドなどの性能進化が追いついておらず、それも相まってまあ当たらない(当てにくい)わけです。悪くいえば、こちらのショット性能と敵の動きが噛み合っていない(ショットや敵がまばらというのは、リソース的にスプライトが足りなかったという理由もあったでしょうけれど)。

 ぼくの印象でその傾向がとくに強かったのが、『テラニアン』『アストロブラスター』辺りで、この『スペースクルーザー』もかなり当てにくいゲームでした。ありていにいうと、ちょっと荒っぽい。

 前年の『ムーンクレスタ』もなかなか当てにくいゲームでしたが、敵がある程度固まりで動いてくれて、移動速度もそこまで速くなく、中盤のパワーアップ以降の開放感もあって、絶妙なバランスを突いていました。『ギャラクシアン』も、その辺りの巧みさは同様だったと思います。

 『ムーンクレスタ』や『ギャラクシアン』、そして『スペースインベーダー』も当てはまると思うのですが、とくに敵が最後の一匹になると移動速度が上がるなどしてすごく命中させにくくなる。苦労して狙い撃ってやっと仕留めるという要素が、遊びのなかで重要な位置を占めていました。

当てにくい敵が存在した時代的な事情

 ほかにも、こうした当てにくい敵が存在した理由として、このころのゲームはアイテムやステージギミックの類いもほとんどないなか、二桁どころか、場合によっては五指に満たない種類の敵で全行程をまかなっていたので、開発者側としては、簡単に倒せてしまうとすぐに次のステージへ進めてしまい、あっという間にすべてのネタが割れてしまう危惧もあったろうと思います。

 つまり、この時期つくり手としては、ここまでに書いてきたような、当てたか外したかを遊びの主軸にせざるを得ない制作的な事情もあり、それをゲームデザイン上、うまく消化できるかどうかがシューティング開発者に課せられた大きなテーマの一つだった、ということだと思うのです。

 その後、時代が進むうちに、敵の種類をもっと増やせるようになって「どんどん先へ進ませていいじゃん」となり、同時表示数も格段に増えたことで、「敵をいくら破壊されようと、敵と敵弾をガンガン出して、難易度はそこでつければいい」という考えかたが主流になっていきました。

 わかりやすい例が、弾幕シューティングの始祖ともいえる東亜プランのゲーム群です。これらのゲームではもはや動きを読んで狙い撃つという要素はかなり薄められていて(皆無ということではありません)、敵はきわめて素直な軌道でゆっくり移動します。武器によっては自機のショットの効果が画面全域に及ぶようなものもあり、敵がちょこまか動いて当てるのに苦労するようなことはほとんどなくなりました(下記画像は東亜プラン『飛翔鮫』フライヤー)。

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 このころには、全部が全部は簡単に破壊できてしまわないよう、耐久力の高い敵を設定するという考えかたが確立したことも大きいでしょう。

 もう少しトリッキーな動きをするゲームもあるにせよ、現代において『スペースクルーザー』のようなゲームはほとんど見なくなったように思います。 了

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