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勤労者皆保険と従来の適用拡大論議の距離



勿凝学問428

第5回経済前提専門委員会(2023年8月24日)での発言


 勤労者皆保険と従来の適用拡大論議は異なるもの。そういう話を先日した。
 時、第5回社会保障審議会年金財政における経済前提に関する専門委員会(2023年8月24日)――以下、経済前提専門委員会と呼ぶが、この会議については、次のnoteの冒頭を参照。
公的年金の財政検証、生産関数そして全要素生産性など|kenjoh (note.com)

この日は、有識者ヒヤリングとして河野龍太郎氏が「日本の潜在成長率に影響を与える諸々の要因について 社会保障制度のアップグレードは潜在成長率を改善させるか」を報告。
その時のコメントとして、「勤労者皆保険というものと適用拡大は話が違います」と発言している。

○権丈委員 どうもありがとうございました。 日本の社会保険に適用除外規定がありますね。勤労者が全員入っているわけではない。使用者に非正規の雇用を推奨する制度になっています。非正規のほうがいいですよと言っているわけです。本来は社会保障としてあってはならない制度であり続けたわけで、だから、適用拡大というのは長く最優先の課題だったんですね。しかし、この国の政策形成過程がこの改革を阻んできたというのを私は前回のこの前提会議でも話したのですが、この国の政策形成過程の特徴としてレントシーキング社会というのがあって、この性格が適用拡大を阻んできたんですね。

ここで、前回のこの前提会議でも話したという、その内容は、次のnoteに。
レントシーキング社会における低い生産性|kenjoh (note.com)

 ところが、今は政府が彼らの支持基盤からの要望に反するような、あるいは不人気な勤労者皆保険ということを言い始めてきています。制度が矛盾を抱えて、デッド・ウエイト・ロスが高くなって肥大化してくると、社会システム的にどうもそういう動きが出てくるみたいです。ただ、遅過ぎたというのがあるのですが、従来の適用拡大とは言わば次元の異なる適用除外規定の見直しが今、掲げられています。
その勤労者皆保険というのは適用拡大のことだというように矮小化する論も今、いろんなところから出てきているわけですけれども、勤労者皆保険というものと適用拡大は話が違います。勤労者皆保険は、昨年の全世代型社会保障構築会議ではオリジナルの勤労者皆保険という意味でまとめられていて、今、進めなければならないのは、河野さんが心配されている非正規雇用を促す性格を取り除くことです。ぜひこの適用拡大ではなく、勤労者皆保険を進める必要があることを言い続けてもらえればと思います。
○河野様 はい。
○権丈委員 年金局がかわいそうだったのは、制度、ニアリーイコール歴史なのですけれども、そういうことを知らない人たちが年金の世界に参入してきて、破綻論をはじめとして、支給開始年齢の引上げというのもそうだったのですが、フランスとかだったら労働法と年金法がセットに動くので、支給開始年齢を引き上げたら定年延長まで同時に動くとかいうのが大陸諸国はあるので、日本とはちょっと状況が違うのですが、そういう年金とんでも論を掲げる人たちを「間違えているよ」と正していくことに、年金局は膨大なエネルギーを費やさざるを得なかったんですね。だから、そういうことに彼らの限られた資源が使われていた、つまり、年金とんでも論者たちというのが真になさねばならない改革をクラウンディングアウトしてきたわけです。日本の年金が本当に変えなければならない改革に対して使われるべき年金局の人的リソースが、本当にかわいそうなくらいにとんでも論を正すことに使われていたというのがあります。
 ただ、2020年の年金改革で与野党共同提出の修正案というものは共産党を除く全会一致で通るようになって、少しばかり年金回りの政治環境は改善されてきています。
ただし、河野さんも言われている在職老齢年金というのは、前回は政府は廃止を目指していたのですけれども、ただ、当時の立憲民主党の山井さんなどが高所得者優遇だと批判をして、与党も面倒だねということで、在老の改革を取り下げています。これを変えるには政治的にはなかなか難しい。だから、ぜひお力を貸してもらえればと思います。彼らは高所得者優遇という批判をしてきます。ワークロンガーという、極めてこの国で高い価値に従属する話が再分配の話であって、優先するのはワークロンガーなのだということを言い続けていかなければいけないところがあって、これはなかなか難しいところがあります。
 これは質問になります。最後の財政について、今、話したように勤労者皆保険を進めれば、使用者が非正規を雇うインセンティブが消えます。・・・

勤労者皆保険とは

では、勤労者皆保険と従来の適用拡大論議はどのように異なるのか。『もっと気になる社会保障』には次の文章があるので、詳しくは、先を読んでもらえればと思う。


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