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『Graham Bell』★★★★★(4.6)-音楽購入履歴#19

Title:  Graham Bell(1972)
Artist: Graham Bell
Day: 2024/4/8
Shop: disk union osaka
Rating:★★★★★(4.6)



4月に買ったレコード、一枚忘れていました。なんならこれがその日のメインといえる一枚だったのに!



ニューカッスル界隈


イングランド北東部のニューカッスル・アポン・タイン(略:ニューカッスル)という地域はイギリスで最も強い方言を持つらしく、その方言のことを「Geordie」というらしい。

ジョーディ弁ってところだろうか。それでそこに住む人々のこと自体を「ジョーディ」って呼んだりするんだとか。

英語の訛りってどんなもんなんか、とチラッと調べてみたところジョーディ弁では

How are you?

(ハウ アー ユー)

Ya aalreet?

(ヤーリート)

になるんだとか。これはすごいな。
語尾が違うとかイントネーションがどうとかのレベルじゃないもんな。
日本でいうと東北弁とか、いやもはやアイヌや琉球に近いのかしら。


だからって『Graham Bell』がニューカッスルならではの独特な音楽をやってるんだ!って話ではないんですけどね。


ニューカッスルにはそのまま「ジョーディ」って名前をバンド名に掲げたグラムロックバンドがいるわけなんだけど、
おそらく1番有名なニューカッスル出身バンドはアニマルズかと。
元祖英ロックバンドと名高いシャドウズもニューカッスル出身らしい。


そんな中で個人的に1番ニューカッスル的なバンドだと思ってるのがリンディスファーンで。
英フォークロックバンドとして知られてるけど、フォークというよりはカントリーなニュアンスが強くて。英国版カントリーというか、ロンドンでは生まれない音楽なんだろうな、って感が強くて。

そんなリンディスファーン周りの界隈を勝手に「ニューカッスル界隈」と呼んでるわけなんだけど、その上にはしっかりアニマルズのアランプライスがいたりして、
面白いんですよね、こうやって地域ごとにロック史を見るのも。

以前ブログでその辺をまとめたので貼っておきます↓


とはいっても僕が入手して聴いたニューカッスル界隈はリンディスファーン、その中心人物のアラン・ハルのソロ、リンディスファーンから分離したジャックザラッド、あとスキップビファティ

ニューカッスル界隈についてのブログを書いて、関連アルバム集めるぞ!と意気込んだのがもう約4年前で、今年やっと一枚グラハム・ベルのソロ唯一作72年『Graham Bell』を入手した、という現状。


アランハルはリンディスファーンを結成する前にThe Chosen Fewというバンドでシングルを数枚リリースしていて、
そのThe Chosen Fewからアランハルが脱退して代わりにグラハムベルをボーカルにして始動したのがスキップビファティ。

そのスキップビファティ解散後にグラハムベルはいくつかのバンドを転々として、72年にリリースしたのが今回買ったLPというわけだ。



ロバートプラントになれた男


僕がニューカッスル界隈に興味を持ったのはもちろんリンディスファーンにハマったことがきっかけだけど、それ以上にスキップビファティというサイケバンドの存在が大きかったりする。

僕がサイケ好きであるのは前提としてあるんだけど、本当にいいバンドなんです。68年唯一作は『夜明けの口笛吹き』に匹敵すると思ってるくらい(ちょっと盛ってはいる)。


それで、サイケの魅力ってフレーズだったり展開だったり、音色だったりアレンジだったりの比重が大きくて、あんまり演奏技術的なところが取り上げられることは少なくて。

もちろんジミヘンやクリームもサイケバンドに括られるわけだけど、彼らのスーパープレイヤーとしての評価はブルースロックやハードロック的側面に起因しているわけで。

だからスキップビファティのボーカルとしてグラハムベルに興味津々ではあったけど、彼が「超優れたボーカリストだ」という視点は全くなかったのです。


もちろんいい声だなーとは思っていたけど、それよりも繋がりに興味があって、グラハムベルはスキップビファティの後元ナイスのブライアン・デヴィソンのバンドで歌ったり、後にプラスチックオノバンドとYesでドラムを叩くアラン・ホワイトと一緒にやったり。

今回買ったアルバムでいうと、元キングクリムゾンのメル・コリンズとイアン・ウォーレスが参加していたり。

そういう繋がりに対する興味で買ったわけだけど、グラハムベル、めっちゃ優れたボーカリストだったの。


なんだったらそういった有名どころと一緒に演れたグラハムベルは幸運なボーカリストだなぁ、とすら思っていたんです。

それが180度ひっくり返って、

あーこの人ロバートプラントになれたはずの人なのに、運に恵まれなかったんだな

というのが『Graham Bell』を聴いた後の感想。

『Graham Bell』はソウル味がかったブルースロックの大傑作で、やはりブルースになるとボーカルの力が明確になるのか、圧倒されましたねーー


ブルースロックの大傑作


僕はブルースにとにかく疎くて。
ロックにハマりだした頃はそれこそジミヘンもクラプトンも聴いたし、ロバジョンのコンピだって買ったし。

だけど自分の好みがどんどん明確になっていくにつれてブルースから離れてることに気づいて。それで気づけば「ブルース苦手な人」というレッテルを勝手に自分自身に貼り付けてしまって。

ブルースが苦手な理由は結局のところ先に書いた「サイケの魅力」の逆のようなもので。
アイデアや展開やアレンジよりも、演奏者のプレイによる魅力が大きすぎるところにあるんだと思う。

僕は「メタルなんてスポーツやん」と言ってしまうタイプの人間なので。流石にそこまでの暴言をブルースに吐くつもりはないが。


それでもブルース要素の強い好きなアルバムはたくさんある。

ボブ・ディランの『追憶のハイウェイ』と『ブロンドオンブロンド』だったり、ピンクフロイドの全アルバムだったり。

ただディランはディランという人間を崇拝してるところがあるし、ピンクフロイドは紐解けばブルースロックだけどやっぱりそのプログレッシブな世界観と音作りと発想が魅力だし。


もう少しブルース味の強いのでいうと、『レッドツェッペリンⅢ』ジョーコッカーの1stだろうか。

この辺ははっきりとブルースかっこええ!!!ってなった気がする。
特に〝あなたを愛し続けて〟を初めて聴いた時は身体中がブルーに染め上げられたような感覚に襲われた。


そして長いスパンを空けて、この『Graham Bell』に久しぶりにブルースの素晴らしさを教わったわけで。
世間的には「ブルースロックの名盤」とは言い難いと思うけど、こんな僕を震え立たせたわけだからこりゃブルースロックの大傑作ですよ(なんじゃそりゃ)。



『Graham Bell(1972)』


さて『Graham Bell』。

電話を発明したあのグラハムベルと同名の男の1stソロアルバム。

66年にソロシングルを1枚リリースした後、

67,8年にスキップビファティで、

69年はHeavy Jelly(スキップビファティの変名)、

70年に元ナイスのブライアンデヴィソンのバンドBrian Davison's Every Which Way、

71年に元スキップビファティの面々がやってたArcとアランホワイトと『Bell+Arc』、

そして72年にこの1stで唯一のソロアルバム『Graham Bell』をリリース。

その後はゆるりと表舞台から姿を消してしまう。

あとはThe Whoのロックオペラアルバム『トミー』のオペラ版に出演したりもしてたらしい。


まぁそんな感じで実際には残念ながら世間の注目をそこまで集めれなかったアルバムです。


プロデューサーはボブ・ジョンストン
ボブディランやサイモン&ガーファンクル、レナード・コーエンをプロデュースしたバリバリのアメリカンフォーク系のプロデューサーだ。

そんなボブジョンストンが何故このイギリスのマイナーシンガーのプロデュースをしているのかというと、これもおそらくはリンディスファーン繋がり。

ボブジョンストンはリンディスファーン71年2ndと72年3rdをプロデュースしていて、71年2nd『Fog on the Tyne』は4週連続で全英アルバムチャートの1位を記録するヒットとなった(これはまじで名盤)。

そんな中で、71年の『Bell+Arc』、そして72年の『Graham Bell』もボブジョンストンがプロデュースしている。

71,72年にニューカッスル界隈は揃ってボブジョンストンにお世話になったというわけだ。


レコーディングはロンドンとナッシュビルの2箇所で行われたようで。
そんなことでアメリカのミュージシャンも割と参加している。ベースのティムドラモンドはニールヤングの72年『ハーヴェスト』とかで弾いてるアメリカ人で、ギターのロンコーネリアスは70年付近のディラン作品で弾いてるアメリカ人。

なので英国ブルースロックというよりも米国ルーツロック的な、アメリカーナなニュアンスの強いものになっているような。

参加メンバーとしてどうしても目を引くのがメルコリンズイアンウォーレスだと思う。
第何期かはわからんけど(笑)71年4th『アイランズ』の頃のキングクリムゾンのメンバーだ。

僕はそんなことでプログレアルバムなんだと身構えていたわけだけど、蓋を開けてみるとめちゃくちゃブルースロック。

でもそれも実はもう少し考えてればわかることで、そもそもメルコリンズとイアンウォーレスは(ボズバレルも)、クリムゾンでのアメリカツアーで現地のブルースとソウルに魅せられたことでクリムゾンを辞めていて、
クリムゾン脱退後は3人揃って英ブルースの父アレクシスコナーと合流してがっつりブルースロックアルバムを作っている。
ちょうどそれがこの『Graham Bell』の72年とほぼ同じ時期の話で、メルコリンズとイアンウォーレスはブルース熱真っ只中での参加というわけだ。


フロントカバーは『Bell+Arc』やアランハルソロ作品等この界隈でのみ名前を見かけるian vincentiniというデザイナーが担当してるが、【photography】としてヒプノシスがクレジットされてる。こりゃ驚き。


アルバムは全10曲。内4曲がカバーなんだけど、このカバーがどれも秀逸。


A-1.Before You Can Be A Man

オリジナル。
激ソウルで幕開け。特にA面はとにかくソウルとブルースの要素が強い。
メルコリンズって割と色んな作品に参加してるけど、今作は思った以上にバンドの中心に位置していた。これも特にA面。
グラハムベルの歌と声が良すぎることにこの一曲だけで気づける。


A-2.The Thrill Is Gone

B.B.キングの70年ヒット曲のカバー。
B.B.キングのスローブルースをさらにスローにした名カバー。
まじで〝あなたを愛し続けて〟に匹敵する名スローブルース。この曲で完全にくらった。
ピアノとオルガンとメルコリンズのサックスソロ、どれもが完璧で美しい。
グラハムベルはかすれ声、しゃがれ声でいながら伸びまくる声。スキップビファティでの彼のサイケも最高だったけど、完全にブルース歌いなんだなぁと確信。


A-3.After Midnight

J.J.ケイルのカバー。エリッククラプトンが70年1stアルバムでカバーしたことでよく知られてる曲。
リズミカルでノリのいいブルース曲だけど(クラプトンバージョンは特に)、グラハムベルはこれまたスローアレンジ。
だらしなさがたまらん名カバー。だらしない歌い方もできるのねー。
メルコリンズのサックスソロから始まるアレンジも秀逸。


A-4.Down In The City

グラハムベルはハーモニカも上手い。


B-1.Watch The River Flow

B面はボブディランの〝川の流れを見つめて〟のカバーから。
こちらは割と原曲に近いカバー。これもいい。


B-2.Too Many People
B-2.How Long Will It Last
B-3.The Whole Town Wants You Hung
B-4.The Man With Ageless Eyes

B面のオリジナル曲は鍵盤で参加してるボブ・ウィルソンとの共作が並ぶ。
基本的にナッシュビルで活躍した鍵盤弾き兼ソングライターのようで、ソウルフルなA面に対して割とカラッと爽やかなカントリー風な曲や、スワンプっぽかったり、ザ・バンド的なアメリカーナだったり、かと思えば70'sストーンズ的だったり。


B-5.So Black And So Blue

クリス・クリストファーソン71年2ndアルバムのラスト曲のカバー。
原曲は〝Epitaph(Black&Blue)〟というタイトルで、70年に死んだジャニスジョプリンを想って作った曲だとか(クリス・クリストファーソンとジャニスは親交があったようで)。
原曲はピアノをバックに歌う切ない曲たけど、グラハムベルはオルガンをバックに神聖にカバー。これがまためちゃくちゃいい。

クリス・クリストファーソンは俳優としてのイメージが強くて、『ビリーザキッド』が好きで観てたので。
それで音楽の方は聴いた事がなかったんだけど、これを機に聴いてみたらレナードコーエンなみのバリトンボイスでカントリーを歌い上げてていい感じでございますね。

俳優兼ミュージシャンってなんか敬遠しちゃうんですよね。西部劇『リオブラボー』が好きすぎて、リッキーネルソンは俳優と認識しちゃって音楽の方聴いてなかったり。

ってか、西部劇好きなのにカントリー&ウエスタンミュージックは別にそこまで好きじゃないことが大きいわ。今気づいた。



いやーめちゃくちゃいいアルバムですね。

ちょっと曲単位のYouTube音源が冒頭2曲しかなかったのでフルアルバムYouTubeを貼っておきます。

サブスクにはないので是非こちらで一度聴いてみてくだせー

ちょっとリンディスファーンだとかスキップビファティだとかのニューカッスル界隈として期待していた音楽とは違ったんですけど、
めちゃくちゃいい出会いでございました。
生涯大事にしようと思う一枚!!

裏ジャケ

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