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映画鑑賞#5『関心領域』

Day:2024/6/6
Theatre:TOHOシネマズ西宮OS


『関心領域』観てきました。といってももう20日も前。

↓ネタバレマックスです↓

事前になんとなく聞いていた情報は、
「アウシュビッツ強制収容所の隣に住んでた家族の話」
って程度。

なんかそれだけ聞くとちょっと「戦時中の感動家族もの」かな?とすら思ってたんです。

いやーなかなか気持ち悪い映画でございました。

主人公はアウシュビッツの所長ルドルフ・ヘス。嫁と子供5人、あと使用人が数人暮らしているアウシュビッツと塀を隔てて隣にある家が舞台。

まぁめちゃくちゃナチ側だったんですね主人公。なんか、ユダヤ人家族のお話だと勝手に思ってたんです。


ルドルフ・ヘスは実在したアウシュビッツ所長で、実際の証言等を元に作られた映画のようなので、ほぼドキュメンタリーに近いものになるか。

もう一つ情報として持っていたのが、
「音響関係でなんか受賞してるみたい」
ってこと。

それも楽しみの一つだったんですが、いやーなるほど。終始めちゃくちゃ不快でございました。観終わって一日頭痛に悩まされたくらいに。

とにかく舞台はヘス一家の家で、アウシュビッツは塀しか映らないんです。一切。
隣でユダヤ人が強制労働&大虐殺されて毎日焼却されまくってるんだけど、それは背景で鳴っている音でしか表されていないんです。

もう冒頭から、不安になるほど長い暗転と悪魔的アンビエントで幕を開けて、そこから末っ子の赤ん坊の鳴き声もとにかく不快、アウシュビッツ背景音ももちろん不快、
ずっっっとなんです。絶対に意図的に。

何やら後から調べると、舞台となった家は実際の元ヘス邸らしく、
その家とアウシュビッツの距離を考えると、これくらいの音が毎日鳴っていただろう、
という緻密な計算で背景音が録られているらしい。
その辺が「音響で受賞」した点なんだろうけど、いやーほんとに気持ちが悪かった。

終盤、現在の「アウシュビッツ博物館」が映るシーンがあるんです。
そこでもスタッフが掃除機をずっとかけてましてね、あれは不快な音を出すためだけの掃除機でしょう。


変なタイトルだなーとは思っていましたが、観終わってみるとなるほど。

『関心領域(The Zone of Interest)』。

まぁ人は関心、興味のある物事しか目に映らない、みたいなことですか。

家族の中で特に「ヤバい」のが嫁なんですが、彼女はとにかく夢の邸宅を手に入れれたことに大満足で、まだ仕上がっていない庭について期待を膨らませる日々。
ファッションや噂話に興味のある普通のおばはんで、前に行ったフランス旅行が楽しかったからまた行きたいなーなんてはしゃいで眠りについたり。

ユダヤ人から剥奪したコートを着て、鏡でチェック。
「ユダヤ人」「剥奪」といったワードは関心がないので全くスルーで、「似合うかしら」にしか興味がない。
背景でユダヤ人の叫び声が聞こえようとも耳に入らず、プール付きで自らデザイン中の庭を大満喫。
井戸端会議でも「隣のアウシュビッツ」の話は全くなく、ご近所さんの不倫がどうとかの噂話。

まぁそういう映画です。

嫁以外の家族は少なからず影響を受けてて、赤ん坊は常に泣き叫んでるし、娘は夢遊病にかかったり、息子は気性が荒くなったり収容所ごっこしたり、ヘス所長も自分の業に一応苦しめられてたり。

ヘスが昇進してベルリンの方に赴任することになった際、嫁は夢のマイホームを手放したくない一心でヘスに単身赴任をすすめます。
そこで嫁は子育てのためにもここは自然豊かでいい環境だ、的なことまで言い放ちます。

家族の異変にすら見えてない、関心がないという化け物っぷりを演出するシーンでしたね。

とにかく嫁の「関心領域」が顕著で気持ち悪かったですね。


ただこれはいわば人間の性質で、「人は関心のあるものしか目に入らないし聞こえない」という性質。僕だってその点には心当たりありまくるんです。

「ユダヤ人が毎日殺されているお隣のアウシュビッツ」に関心があるかないかは、かなり道徳によるものだけど、道徳は他人に作られるものだったりするので。
ユダヤ人は人間じゃない、と教えこまれればそうなってしまうのも頷けるというか、頷いてはいけないんだけど。

だから嫁が悪かと問われるとそうとも言い難く、しかしまぁただただ不気味で怖かったのは間違いない。

なんというか、僕が受け取ったメッセージは
「人には関心領域というものが存在する」
ということだったんです。僕にもある。と。

「もっと世界で起きている出来事に関心を持ちましょう!!」というメッセージというよりは。

だから人間って残酷だな、あー頭痛い。
って帰路になりました。


僕の関心領域で言うと、僕はアウシュビッツやホロコーストのことは知ってはいても、
「その地域に住む子供が普通に学校とかいくのか」
とかは考えたことなかったです。
行ってるんですね。
学校行くし、恋するし、パーティするし。

あとアウシュビッツがドイツじゃないのも知りませんでした。ポーランドの郊外にあるんですね。
40年代のドイツ人が、都会にすむより郊外でのんびり暮らすことに憧れていることも結構意外でございましたね。

歴史を箇条書きで見る時にそこの「暮らし」の部分までは見えないので、そういえば確かに、と考えさせられました。学びです。


ヘスが子供と近くの川で遊んでた時に、人骨が流れてきて、急いで子供を連れ帰って念入りに体を洗うシーン。

ヘスがユダヤ人女性を買ったあと、念入りにち○こだけゴシゴシ洗うシーン。

胸くそでしたね、ユダヤ人ってそんな汚いとされてたんですね。

でもやっぱりそれでいうとヘスはかなりユダヤ人を意識してるんです、汚れとしてですが。
まぁヘスは所長として現場でガッツリユダヤ人殺しまくってるんで当たり前ですが。

それに対して嫁は本当にアウシュビッツもユダヤ人虐殺もそんなものないかのように生活してるんですよね。嫁こそが「関心領域」の権化っすよやっぱ。怖い怖い。


とにかく非常に重く、不快で、怖い映画でした。

アウシュビッツを舞台にしておきながら一切アウシュビッツ内を描かないのはすごいなぁ、とは思いました。

あと途中、サーモグラフィー映像で女の子がユダヤ人の作業場にリンゴ置いたりするシーンが挟み込まれていて、
ヘス家の娘が夢遊病を患って夜中廊下にいる、ってシーンが2回あって、2回ともそのシーンの後にサーモグラフィー女子が出てくるから娘と関係あるのかなんなのかよくわからなくて。

帰ってから解説を見ると、地元のポーランド人の女の子なんですね。ろくに食事をとってないだろう収容所のユダヤ人のために夜中作業場に食べ物を置いていたんだとか。

そういう話が実話としてあるみたいで、それを引用してる、ってことみたい。


こんなん初見でわかるわけないし、そもそもいるんかな、そのシーン。結構「???」ってなってこのシーン。エンディングまで引きずってもうてんけど。


面白かったかと言われれば、面白くはなかったです。
すごい映画かと言われればすごい映画なんでしょう。

「関心領域」というテーマについては考えさせられました。僕にも見えてないもの聞こえてないものがたくさんあるんだろうな、って。

そう、ホロコースト映画じゃないんじゃないかな、これ。
人の「関心領域」という性質を、アウシュビッツという舞台を使って表現した、って感じ。

ナチがどうとか、ユダヤ人がどう、とかではなく、人間の性質について描いたホラーでございますねー

とにかく頭痛くなりました!!笑


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