地域まるごとフィールドにした探究学習のススメ【一般社団法人まるオフィス 加藤拓馬さん】
地域ぐるみで教育に取り組みながら、子供一人ひとりの「生きる力」を育む学びが注目されています。今回は、そんな学びをサポートする「探究学習コーディネーター」の加藤拓馬さんにお話を伺いました。
加藤拓馬さん
1989年兵庫県生まれ。1995年に阪神・淡路大震災で被災。兵庫県神戸市から姫路市へ移り住む。大学4年生のタイミングで東日本大震災を経験。ボランティアとして気仙沼を訪れ移住。2015年に一般社団法人まるオフィスを発足し、現在に至るまで代表理事を務める。
地域での探究学習のカギは「コーディネーター」と「ヨソモノ」。子どもの可能性を広げる多様なモデルケースとは
加藤さん
気仙沼では、中学生とか高校生が一人ひとつ好きなテーマを設定して、何かプロジェクトを起こすことにチャレンジしていて。僕らがその壁打ち相手だったり、地域の人とのつなぎ役をするんです。先生たちとも連携しながらコーディネート、サポートするのが主な仕事ですね。
探究学習に取り組む学校は増えているのですか?
加藤さん
新しい学習指導要領では「探究していきましょう」っていうことがすごく打ち出されているので、探究学習に取り組む高校は増えてますね。ただやっぱり、先生が「探究学習を始めてもどうしていいか分からない」ってなったときに、僕らみたいなコーディネーターが一緒になって考える機会が生まれるんですよね。
「地域に出る」って先生にとっても必ずいい学びに繋がると僕は確信していて。地域と繋がる価値を「自分の学びにも繋がるんだ」って本当にイキイキと語ってくれる先生に何人も会ってきたので、その感覚をいろんな先生が感じられる教育現場になればいいなと思っています。
高校生からも結構ポジティブな意見が多くて。「大人たちが楽しそうにチャレンジしている!」みたいな。被災してから復興に立ち上がる過程で、地元の大人が本気だったっていうのもあるだろうし。
あとは僕らや大学生みたいに外から来た人間が地域をかき混ぜることで起きたプロジェクトとかもたくさんあるので、そういった意味でこれからは、大学生のようなヨソモノが地域に必要だなって改めて思っていて。
外からのリソースが入るまちであるか、それをコーディネートできる人間がいるのかどうか。それさえあればどこでも教育魅力化は起こせるんじゃないかなと思ってます。
加藤さん
震災直後は大学生が東京から気仙沼にめちゃくちゃ来たので、大学生が結構身近だった小学生とかもいて。ボランティアに来てくれた大学生が遊んでくれることが結構あって、それに刺激を受けて、「僕も大学生になりたい」みたいにがんばる子がいるんです。
やっぱり大学生がもっと身近にいて、当たり前のように課題解決のためのプロジェクトをやってる環境ってめちゃくちゃ大切だなという気はしていて。それをどうやったら起こせるんだろうってずっと考えてます。そこが今の大きなミッションですね。
身近さって大事なんですね。
加藤さん
モデルケースの数じゃないかなと思っていて。いろんな種類の大人に触れて、「YouTuberになりたい」、「研究者になりたい」、「パイロットになりたい」、「アイドルになりたい」とか。やっぱり身近になればなるほど、その背中を見て目指す可能性は高くなる。そういった意味で大学生も多様な大人の一部として、まちにいるといいよね。
田舎の方がいい学びがある!? 「個別最適化された学び」が当たり前の今、一番大切なのは「自分ごとにできる問いやテーマに出会えるかどうか」
加藤さん
田舎の方がいい学びがあるっていう世界観をつくりたくて。今は将来の選択肢を考えた場合、都市部に進学した方がいろんな出会いもあるし、いい先生もいるし、大学の進学とかキャリアに繋がりやすいし、みたいな感じで。田舎での教育は都市部での教育よりも質が下がるイメージがまだまだあるんだけれども。
オンラインや、探究学習が当たり前になって、「個別最適な学びが大事だよね」っていう時代では、ローカルの方がフィールドとして強みはあるんじゃないかなと思っていて。
どういうことですか?
加藤さん
まず数学、国語、社会などの教科学習って、今は全部オンラインでインプットできるじゃないですか。個人に合わせた探究学習を通して学びがより深まっていくのであれば、一番大切なのは自分ごとにできる問いやテーマに出会えるかどうか。
それを応援してくれる本気の大人や伴走者がいるかどうかだと思っていて。実は地方には、手触り感のある課題がめちゃくちゃたくさんある。地域課題をテーマにしたときにすごい協力的な地元の大人もいるってなると、探究的な学びは結構ローカルの方が向いてるなって思うんですよね。
加藤さん
今、大学入試も変わり始めていて、「中学・高校時代に探究学習をして、学びや気づきがあって、こんな成長があったんだ」っていことをある意味進学にも使えるようになってきた。となると、「都会に集まるより田舎に散った方がいい学びがあるぞ」みたいな新たな常識が生まれてくると(笑)。そういう社会になるといいなって考えてるんですよね。
地域はあくまでも学びのフィールド。10年後の未来、地域の関係人口を増やしていくには
気仙沼を好きになる人が増えそうですね。
加藤さん
結果的に地域への愛着も育まれるとは思っています。ただ、あくまでも学びによって非認知能力を伸ばしていくことが僕は狙いだと思っていて、結果的に地域への愛着が副産物として生まれてくると思います。
そこの議論は結構尽きなくて。「何のために地域の教育をして、何のために地元企業は子供たちの教育のために時間とお金を割くんだ」と。「それはこの子たちが将来地元にUターンしてきて地元経済が活性化するためでしょ」って言われて「いやいやそうじゃない、そうじゃないんですよ」みたいな議論はずっとやってますね。
「まちに関係する人口をどう増やしていくか」っていう考え方はすごく大切だなと思っていて。たとえUターンしなかったとしても、地元に何かしら関わりたいなと思う人は確実にこの学びで増えていると思っているので、それでいいんじゃないかなって思うんですよね。
地理的なものってこれから10年かけてすごくあやふやになってくると思っていて。今まではみんなリアルなオフィスで働いているから、働く場所と住む場所は切り離せなかった。けれどもみんなが仮想空間にオフィスを持つようになったら働く場所と住む場所は切り分けて考えることができると。今まで以上に住まいとか人の移動が多様化していく。そうなると、Uターンするかどうかなんてあまり関係なくて。
そう考えるとわくわくしてきますね。
加藤さん
10年後もしかしたらそういう世界になっているかもしれない。そんな世界で価値があることは、たった1つでもいいから、遠隔であっても地域に関わるプロジェクトに携わっているとか。そういうプロジェクト参画人口なんだろうなあと思いますね。
ただ、一方で歳をとったり、子育てをはじめたときに「拠点があった方がいいよね」という議論にはなると思っていて。でも「自分の働く場所はメタバースにあります」「ぶっちゃけどこへ住んでもいいです」ってなったときに選ぶのはいい学びがある街なんじゃないかなって。いい教育や学びがあって、刺激を受けて成長できるコミュニティがある。何歳になっても学び直しができて、高めあえるような仲間がいる。そういうまちが最終的に選ばれるんじゃないかなと思っていて。
そうするとやっぱり「ローカルでこそいい学びが生まれるよね」っていう世界観に変革していって、そこに人が集まって来るんじゃないかなと。いい学びがあるまちが各地方に点々としている社会が、僕がこの事業をやってるゴールです。