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「半年顔を出し続けると一員になれる」移住者が地域に入り込む立ち回り術【日本仕事百貨元編集長 中川晃輔さん】

地方で根を張って生きる人たちのホンネとリアルをお届けする「ケンジン」インタビュー。今回は、フリーライターとして活動されている中川さんにお話を伺いました。
中川さんは、求人サイト「日本仕事百貨」の元編集長。2021年10月に千葉から長崎県東彼杵町へ移住し、現在はさまざまな地域コミュニティに参加されています。
移住先で地域に入り込んで活動するためのコツは何か。中川さんの「立ち回り術」を話してもらいます。

中川 晃輔さん 千葉県柏市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。在学中のインターンを経て2015年に株式会社シゴトヒト入社。求人サイト「日本仕事百貨」の編集者として、全国の企業や自治体を取材し、2018年5月より同サイト編集長を努める。現在は長崎県へ移住してフリーライターとしての仕事の傍ら、地域のさまざまな活動にも取り組んでいる。

移住は「思い切った決断」ではない

中川さんは、2021年10月に千葉から長崎へ移住しています。移住のきっかけは何だったのでしょうか?

中川さん
移住したのは2021年10月です。
取材を通じて出会いが増えるのは楽しいですが、もっと身近な人との関係性を大事にしたいと思うようになりました。地方に移住した方が関係性の中で生まれる仕事もあり、「よそ者」ではできないこともあると考え移住しようと思ったのがきっかけです。
それと、以前はパソコンの前で過ごす時間がすごく長くて...。もっと身体を動かしたかったのもあります(笑)

フリーライターの傍らで地域での仕事にも積極的に取り組んでいるとのことですが、どのような活動をされているのでしょうか?

中川さん
僕が住んでいる長崎県東彼杵町は、お茶の産地として有名です。普段は業務委託として「日本仕事百貨」のライターをしていますが、茶摘みの時期になれば茶摘みを手伝ったりしています。
ほかにも海岸の清掃をしたり、罠猟をしている方から骨付きの猪肉をいただいたり。柿をもぎに行こうとか、季節ごとに色んなお誘いをいただきます。

中川さん
僕の場合は本当にあちこち出掛けた経験がやっぱり大きくて。2015年に新卒で会社に入ったんですけど、その当時は移住なんてまったく考えられませんでした。
「日本仕事百貨」は現地に足を運ぶことを大事にしているメディアなので、取材を通じて人口100人ほどの離島の会社を訪問したり、北は北海道から南は沖縄まであちこち行っていると、そのハードルは自然と下がっていきました。だから新しい土地で暮らすことは、全然思い切った決断ではなかったんですよ。

地域に入り込むためには、まず「居心地の悪さ」を受け入れること

どのようにして地域との関わりを深めていったのでしょうか?

中川さん
地域のコミュニティと積極的に関係性を作っていくことが難しいと感じる人も多いですよね。
東彼杵町は移住者の先輩も多く、オープンなまちですが、誰かが常に世話をしてくれる訳ではありませんでした。いざ地域の集まりに行ったら、顔見知り同士で自然に会話が始まって、顔と名前を覚えるので精いっぱい、とか。「意外とそんなにちやほやされないぞ」と。
ただ、そこで外に出て行くのを辞めないことが大事だと思っていて。どういう振る舞いをしたらいいか分からないけど、とりあえず「場に出続けること」を半年ぐらい続けていると、地域の一員として受け入れてもらえているように感じる瞬間が少しずつ増えていきました。

「場に出続ける」ガマンも必要ということでしょうか?

中川さん
別に外交的なキャラを演じる必要はありません。
とりあえず居続ける。「なんかいるぞあいつ」というのが色んな場面で続くと、3〜4回目ぐらいで初めて喋りかけてくれる人もいます。
最初のそういった「居心地の悪さ」「居所の無さ」を受け入れることが、どんな場所に行くにしても大事なポイントだと思います。

地域に入り込んだことで、どういったメリットがありましたか?

中川さん
地域の集まりに顔を出し続けていたら知り合いが増えて、そこからお仕事の話をいただきました。
ほかにも採用に困っている会社の社長さんに採用のアドバイザーとして伴走したり、SNSを通じた広報戦略やライティングの需要もあると思います。
できれば写真を撮れる人で発信を一緒に考えてほしいとか。「本当はやりたいけど、誰に頼んでいいか分からない」という悩みはけっこうあると思います。

「場に居続ける」ことでライターのお仕事も含めて、活動の幅を広げているのですね?

中川さん
そうですね。やっぱり場に出ていくことは大事です。
僕の場合、ライターの仕事1本でやっていくことはちょっと難しいだろうなと感じています。
「ライター1本で食ってます」と言えるのはカッコイイ。ただ、それはひとつの理想でもあるのですが、自分にはできないし、本当に名乗れるぐらいおもしろい文章を書く人って実際のところひと握りだと思うんですよね。
それだけをみんなが目指そうとすると多分苦しくなっていくとも思っています。僕自身はそれだけっていうのは正直ちょっと苦しい部分もあって前向きに移住を検討していました。
仕事で培ったものを活かしつつ、さまざまな仕事を組み合わせて生きることは、ある種人間の生き方として自然だと思います。もっとそれがスタンダードになってもいいのかなって。

移住先選びのコツは期待値を上げすぎないこと

移住したいなと思い始めたときは、何から始めたらいいでしょうか?

中川さん
僕の感覚としては、何か気になるな、旅行とかで行ったことあるなとかでもいいですけど、ざっくりとエリアを絞ってその辺をちょっと車で走って、気になるところをいくつかピックアップしてみる。その後で、やっぱりこっちかなとおもうところにもう一度滞在してみることをおすすめしたいです。
僕は九州をぐるっと回ってみて、東彼杵町のほかに熊本の南阿蘇村が気になったので、それぞれ1週間ずつ滞在して。その後あらためて、東彼杵町のお試し住宅に1週間滞在して最終的に決めました。
3ヶ月ほどまとまった時間をとって、1週間程度の滞在を何度か繰り返していくと、けっこう移住に対する視野が広がっていくと思います。

現地に行ってみることが大事ということでしょうか?

中川さん
はい、でも僕は仕事柄ハードルが下がってたのもあるし、まあ単身だったので動きやすかったのは正直ありますよ。
同じように単身で動きやすい人にとってはおすすめですね。あと、事前の期待が高過ぎるとやっぱり何事も裏切られることはあるじゃないですか。だから期待を持ちすぎないことはポイントかもしれないですね。
もちろん早く安心したい気持ちはあるんだけど、僕はそれを働かせないために直感に頼っています。毎回新しく知ることの方が多いので、そういう風に選ぶと新鮮で面白いですよ。

~ケンジンからの学び~
地域コミュニティには積極的に飛び込もう。ただし、無理して社交的に振舞わなくてもいい。大事なことは最初の「居心地の悪さ」を受け入れること。地域の集まりに居続ければ、周りが地域の一員として認めてくれる。