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経営者保証に関するガイドラインの改定と実務上の留意ポイント

経営者保証に関するガイドラインの改定と実務上の留意ポイント

牛島総合法律事務所 Client Alert 2022年8月31日号

1. 経営者保証ガイドラインの改定

令和4年3月4日、新たな準則型私的整理手続として「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が策定されたこと、また、同年4月1日付で中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターが統合し中小企業活性化協議会が発足したことにより、同年6月、「経営者保証に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)が改定されました。
これにより、保証債務の整理の対象となり得る保証人には、中小企業活性化協議会による再生支援スキームや中小企業の事業再生等に関するガイドライン等の準則型私的整理手続の申立てを行っている者も含まれることとなりました。

本ガイドラインでは、経営者による個人保証が、事業展開や事業再生等を阻害する要因となっていることに鑑み、企業の各ライフステージにおける事業展開やや事業再生等への企業の取組み意欲の増進等に資するものとして、一定の経済合理性が認められる場合には、対象債権者の回収見込額の増加額を上限とし、一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅などを経営者たる保証人の残存資産(保証債務の整理後に手元に残すことができる資産)に含めることができるとされています。
本ガイドラインに法的拘束力はありませんが、関係当事者がこれを自主的に尊重・遵守することが期待されています。

本ガイドラインの内容及び留意すべきポイントは、以下のとおりです。

2.  本ガイドラインの適用対象となり得る保証契約(本ガイドライン第3項)

本ガイドラインは、以下の4つの要件全てを満たす保証契約が適用対象となります。

  1.  主たる債務者が中小企業であること。

  2.  保証人が中小企業の経営者たる個人であり、下記の場合に該当しないこと。

    • 実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者の配偶者(当該経営者と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が保証人となる場合

    • 経営者の健康上の理由のため、事業承継予定者が保証人となる場合

  3.  主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等について適時適切に開示していること。

  4.  主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。


3.  経営者保証に依存しない融資の一層の促進(本ガイドライン第4項)

経営者保証に依存しない融資の促進のため、対象者は下記の対応に努めるものとされています。

(1) 主たる債務者及び保証人

  1.  法人と経営者の関係を明確に区分・分離する体制を整備することにより、法人個人の一体性の解消に努め、その結果を対象債権者に適切に開示する。

  2.  経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を調達するため、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。

  3.  対象債権者からの情報開示の要請に対し、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。

(2) 対象債権者

  1.  経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図る。

  2.  上記3(1)で示した経営状況が確保されたことに加え、経営者等から十分な物的担保の提供がある等の要件が将来に亘って充足すると見込まれるときは、経営者保証を求めない可能性、代替的な融資手法を活用する可能性について、主たる債務者の意向も踏まえた上で検討する。


4.  経営者保証の契約時の対象債権者の対応(本ガイドライン第5項)

 対象債権者が経営者と保証契約を締結する場合、対象債権者は、以下の対応に努めるものとされています。

  1.  保証契約を締結する際、保証契約の必要性、履行範囲の勘案、保証契約の変更・解除等の可能性について、主たる債務者と保証人に対して、丁寧かつ具体的に説明する。

  2.  保証金額は、形式的に融資額と同額とせず、保証人の資産及び収入の状況、融資額、主たる債務者及び保証人の適時適切な情報開示姿勢等を総合的に勘案して設定する。


5.  既存の保証契約の適切な見直し(本ガイドライン第6項)

 保証契約の見直しの申入れ時及び事業承継時、関係者は、次の対応に努めるものとされています。

(1) 保証契約の見直しの申入れ時の対応

  1.  主たる債務者及び保証人
    申入れに先立ち、上記3(1)に掲げる経営状況を維持するよう努める。

  2.  対象債権者
    主たる債務者及び保証人からの保証契約の変更・解除の申し入れに対して、経営者保証の必 要性や適切な保証金額等につき、真摯かつ柔軟に検討を行うとともに、その検討結果について主たる債務者及び保証人に対して丁寧かつ具体的に説明する。

(2) 事業承継時の対応

  1. 主たる債務者及び後継者
    対象債権者からの情報開示の要請に対し適時適切に対応する。特に、経営者の交代により経営方針や事業計画等に変更が生じる場合には、その点についてより誠実かつ丁寧に、対象債権者に対して説明を行う。

  2. 対象債権者
    前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、保証契約の必要性等について改めて検討し、適切な保証金額の設定に努め、主たる債務者及び後継者に対して丁寧かつ具体的に説明する。

    前経営者から保証契約の解除を求められた場合、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案しつつ、保証契約の解除について適切に判断する。


6. 実務上留意すべきポイント

しかしながら、上記3、5(本ガイドライン第4項、第6項)に記載される各要請をすべて満たすことができる中小企業は必ずしも多くはなく、上記3のように経営者保証なくして融資を受けることや、上記5(1)のように保証契約を見直すことを求めるためには、専門家のアドバイスに従いながら、相当慎重な準備が必要となるものと思われます。

たとえば、オーナー企業において役員報酬・役員貸付等をクリアにし経営者の資産と法人の資産を明確に分離することには困難を伴うケースもあり、また、業績が不安定な場合において財務状況や経営成績の改善のための具体的な方策及び借入金返済の計画などを説得的に説明することも容易ではありません。

さらに、貸借対照表や損益計算書以外の勘定明細・資金繰り表、事業計画等についても情報開示が必要となってくるものと思われます。

(参考資料)


弁護士  猿倉 健司

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牛島総合法律事務所  Ushijima & Partners
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