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採種園と実験林

演習"Forestry in Germany"での最後の演習は、forest genetics講座主催のもの。採種園に初めて足を踏み入れたこと、そして、実験林での説明から森林の研究というのは本当に長い時間がかかるけれども、それをきちんと世代を超えて確実に実施していくことが大事なのだなあ、ということを実感できた。やはり現場を見るというのは勉強になります。

まず採種園。Seed orchardと英語ではいうのだけれど、これが採種園という訳語になることを記事を書きながら知ったぐらいの初心者。日本にももちろんあるので(例えばこちら)、日本のそれを知っている方にとってはふーん、という感じかもしれない。セイヨウシナノキと白樺birchとスプルースのそれ。種を多く取るという目的にそって、大きく枝が張るように育てられていて、これが面白かった。普通のドイツの森林は木材生産を前提にしているので、幹がまっすぐに、大きな枝の張り出しを必要最小限に、という形に森林が形作られているのだが、ここだけは真逆。森林の作り方は、その用途に応じて変わってくるということを学んだ。

そして実験林場へ。最初はダグラスファーの林。ドイツ国内に導入するに当たり、アメリカやカナダの導入元の様々な土地気候条件のもとで生育してきたダグラスファーの実生から育てた苗を、成長度合いが統計的に集計できるような形で植え、その生育具合を調査しているもの。1974年に1~2年生のものを植えたというから、この日にみたダグラスファーは40年生のものということになる。同じダグラスファーなのに、同じ林場の中でも生育の具合が相当に違っていた。14か所の実生の苗のうち、やはり育ちの良いものとそうでないものがあり、育ちのいいもの4か所のものが推薦できる、というレポートがまとめられていた。このレポートは10年前に作成されたもの。結果が出るのに30年。

もう一か所はヨーロッパブナの実験で、これはドイツ国内を中心に24か所から集められた種から育てた林を2009年に評価したという実験が行われた。1959年に当時のゲッティンゲン大学森林学部(当時はゲッティンゲンではなくハンミュンデンにキャンパスがあった)の教授が企画したそう。50年先を見越した実験計画というのもすごいが、それをちゃんと実施できているという事実もすごいことだと思う。結果がまた面白く、当地に一番適したヨーロッパブナは実はもともと当地にあったものではなく、南ドイツの標高1000mを超える山地から取り寄せた種から育てた林分だったということ。とくに幹がまっすぐに伸びる確率からいうと、この区画のものだけが60%が基準を満たし、他のものは10~20%だったとのこと。結論として、在来種がもっとも生育に適したものであるとは言えない、ということなのだが、そもそも120年ぐらいのローテーションが一般的で、最終の氷河期が終わりヨーロッパブナが再び当地に侵入してきたのが6000年ぐらい前だから、たったの50回ぐらいしか更新できていない、なので、まだ在来種が当地に完全にフィットしたとは言えないのかもしれない、というコメントが印象的だった(コメント者が「これは思いつきだから後でまた調べておくよ」と言っていたことも付け加えておく)。長いスパンでものごとを見るのが森林科学の本質だと思う。

今回の演習を通して、採種園と実験林場の重要性を改めて認識した。改めて、というのは、これと同じことを僕が会員であるNGO緑の地球ネットワークが黄土高原北部の大同市で実践しているのを見たことがあるからだ。活動の初期である1990年代半ばまでは現地で木を植えることだけをしていたが、現在(2012年時点)、そのNGOの中国での主たる活動は、自然植物園と名付けた研究サイトでの新たな樹種の適合可能性を探ったり、はげ山が人と動物によるストレスを排除したなかでどういう経緯で自然を回復していく研究を中心に据えている。昨年他界された前代表の立花先生の戦略でそのような事業内容になったのだが、ドイツでその方向性の正しさを改めて知ることになるとは思わなかった。


オリジナル記事掲載日:2012年6月9日

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