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泥炭地を歩く

今週は泊りがけで、"Forestry in Germany"の演習に参加。ニーダーザクセン州の北部、ハンブルクの東方のいくつかの森とエルベ川沿いの生態系保護地域を歩いた。

リューネブルガーハイデ(Lüneburger Heide)は泥炭地帯の広がる荒野なのだが、それがだんだんと森林に戻ってきている様子をいくつかのスポットを移動することで展望することができた。これはもちろん、人の手によって森林を取り戻しつつあるということ。かつて、人によって森林が荒野に変わっていったのが、再び人の手によって森林に変わりつつある。

このあたりを含むドイツ北部の地質は砂地が多い。もしくは泥炭層。エルベ河の下流に位置していることがその主要因だと思うが、砂地の上に成立していた森林が人の手で取り去られ、18世紀ごろになると「砂漠」と形容されるような生産性の低い土地が広がるようになっていたそうだ。アメリカへの移民が多く出たのもこの地域からだったそう。

当時の写真を見せてもらったのだが、確かに砂漠。ドイツに砂漠という言葉は似あわないが、かつてそういう風景が広がっていたのは事実。そういった状況を変えるきっかけとなったのが、19世紀半ばからはじまった植林活動なのだそうだ。当時のハノーバー王国が農民から荒野を買い取り、そこにマツ(スコッツパイン)を植える事業を始めた。当時の地質条件ではマツだけが育つ条件だった。それが今150年ほどたって大きく育っている。150年前にわずか数%であったニーダーザクセンの森林被覆率は今では25%近くまで回復した。その状況を今の僕たちが見ていることになるが、ずっとこうだった、と思い込んではいけない。

秋になると野原一面がピンク色になる。これを目当てに多くの観光客が訪れる

この地域の森林管理署の責任者の方の話によると、現在の課題はスコッツパインの単層林から他の樹種を交えた混交林への転換をどのように進めていくか、という点にある。混交林のメリットはいくつかあるが、強風対策や生物多様性といったことが大きいのだそう。合わせて経済的にも、樹種毎に高い値段がつくタイミングで販売できるので、単純林よりも長期的に高い収入が見込めると想定していると言っていた。これが本当かどうかはちゃんと調べたいと思うが、コンセプトとしては面白い。言い方を変えると、ある時期にはオークが、別のある時期にはスプルースが人気になるから、それぞれ人気が出たときに択伐して売るんだ、ということ。そんなにうまくいくかな、という気もするが、もしそれが本当ならば、混交林を支持する大きな理由になるだろう。

上記の絵はおよそ100年前に描かれたもの。放牧地としてリューネベルクハイデが使われていたことを示す証拠の一つ。ドイツでも日本でも、人間の活動と森林資源の盛衰は密接につながっている。
日本の山も、今はほとんど緑であるけれども、明治ぐらいまでさかのぼれば、特に都市近郊ははげ山が多かったことはよく知られている。参考:林野庁のサイト


オリジナル記事公開日:2012年6月2日

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