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リ・イノベーション

    米山茂美著『リ・イノベーション ー視点転換の経営』(日本経済新聞社)

    新しい製品やサービス、事業システムの開発を通して、新たな社会的・経済的価値を創造する「イノベーション」に対して、本書のテーマである「リ・イノベーション」は、既に存在する知識・資源を改めて捉え直し、そこに新たな価値や意味を見出すことを指します。

    画像の鮮明さや操作性に競争軸があった家庭用ゲーム機に、「家族団欒」や「エクササイズ」という新たな利用価値を与えて新たな市場を産み出したWii(任天堂)、スポーツ飲料に「ラマダン(断食)時の脱水症状を予防する」という新たな意味付けを行なってインドネシア市場を拓いたポカリスエット(大塚製薬)などに加え、オープンイノベーションや技術広報によって開発者さえ気付かなかった新たな用途を産み出したTOTOや三洋電機、MAZDAなどの事例を通して「リ・イノベーション」の可能性や有望性を説いています。

    筆者は、企業がもつ知識や資源を別の文脈から“読み替える”ことによって新たな価値を見出すことを促す上で、多様性の活用が有効であるとしています。
多様性には、人材の多様性(ダイバーシティ)のほか、事業の多様性(多角化)も含まれます。特定の事業がもつ知識や資源に関する情報を社内に流通させることでそれらを異なる視点から捉え直すことができれば、事業部間の新たなシナジー効果(新結合)を生み出すことに繋がるというのです。

    そして、グローバリゼーションもまた、リ・イノベーションを促す要因になるというのが筆者の主張です。

    筆者はグローバル社会の現況(将来)を決してフラット化しているとはみなしておらず、むしろ文化的・制度的・地理的・経済的隔たり(CAGE)が厳然と存在し、それ故に、国際事業の中で企業が持つ知識や資源の意味付けが国や地域ごとに異なるというのです。

    前述のポカリスエットのほか、二日酔い防止ドリンク「ウコンの力」を美肌用製品に作り変えてタイの市場を開拓したハウス食品の例は、国際事業展開を行なおうとしなければ生じ得なかったリ・イノベーションと言えるでしょう。

    「イノベーション」という言葉は、時に高度な技術や独創的なアイディアによって“ゼロイチ”の製品やサービスを産み出すことを想起させますが、既存の技術や優位性に対して時代の変化に応じた新たな『意味付け』を行ない、ユーザーや社会にこれまでとは違った価値を提供する「リ・イノベーション」は、仮に莫大な研究開発投資や新たな研究開発チームの立ち上げを行なうことができないとしても、改めて「自社の強みや存在意義は何か」という対話を社内外で行なうことから始められるのではないでしょうか。

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