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「謙虚なコンサルティング」

  エドガー・E・シャイン著(金井壽宏 訳) 『謙虚なコンサルティング 〜クライアントにとって「本当の支援」とは何か』

  マサチューセッツ工科大学(MIT)の名誉教授であり組織心理学、組織開発の第一人者であるエドガー・シャイン教授の著作を、組織論やリーダーシップ論において日本を代表する研究者である金井壽宏先生が訳した贅沢な一冊です。

  本書は、「自分が話す」スタイルのコンサルティングを否定した上で、コンサルタント(支援者)とクライアントが築くべき適度な距離感(レベル2※①)と、その関係性からもたらされるプロセスコンサルティングやアダプティブムーブ(※②)の有効性を説いていますが、そのプロセスで求められるなコンサルタントとしての姿勢(※③)と技術(適切な質問をする力)について、筆者自らが関与した事例を通して懇切に解説しています。

  題名である“謙虚なコンサルティング“とは、問題の複雑さやクライアントの切迫感、複雑さゆえにどうすればよいか初めは分からないことを受容し、その上で「なんとかして役に立ちたい」という思いで「全開の好奇心」と「思いやり」をもって全力を尽くす、という支援者の姿勢を指し、それを妨げるのは「内容の誘惑」、すなわち自分の専門分野をいかに活かすか(どう商売に結び付けるか)という邪念です。

  あらゆる経営課題に対して中途採用が唯一絶対の解決策であるという”自分ありき“の提案を行ないがちな人材紹介コンサルタントが、客観性と冷静さを取り戻す上で必読の一冊でもあります。


※①;人間関係における信頼と率直さのレベル
Level -1= ネガティブな敵対関係、不当な扱い
Level 1= 認め合うこと、礼儀、取引、専門職としての役割に基く関係
Level 2= 固有の存在として認知する(個人的な知り合い)
Level 3= 深い友情・愛情・親密さ

※②;アダプティブ・ムーブ
診断→分析→提案という一連のコンサルティングプロセスにかかる時間とリスクを省き、クライアントとの会話のの中で生まれる「本当の懸念」と「組織に関する緊急の課題とその原因」に対する気付きに基く瞬時の打ち手。
それは問題に対する解決策ではなく、状況を改善したり次のムーブへ繋がる、より診断的なデータを引き出したりすることを目的とした行動。

※③;謙虚なコンサルティングに求められる姿勢
i) Commitment(積極的な気持ち)
力になりたいという気持ちが整ってから行動を起こす。仕事になりそうかどうかではなく、力になりたいという気持ちが導くままに行動し、クライアントの問題が解決できそうかを判断する
ii)Caring(思いやり)
未来のクライアントとその人が話すことに集中する。自身の経験に基く予想をしない。間違いなく役に立てると思う物事(自分の専門分野)に敢えて耳を傾けない。
iii)Curiosity(好奇心)
何が起きているのか見当もつかないという場合は好奇心を全開にする。相手と接する最初の瞬間から積極的かつ熱心に相手の話に耳を傾ける。

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