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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第11話 大きな知財と小さな知財

 知的財産権で保護される対象にはさまざまなものがありますが、今回は特にスケールの大きなものと小さなものについてご紹介したいと思います。
 まず意匠からです。意匠法の保護対象は長らく「物品」に限定されていましたが、2020(令和2)年4月施行の法改正により、土地に固着した建築物のデザインも新たに保護されるようになりました。具体例として、店舗、住宅、学校、病院、工場などが挙げられます。かなりサイズの大きなものもあり、例えば高さ80m以上もある東京・飯田橋のタワーマンション「アルビオ・ザ・タワー千代田飯田橋」の形状が意匠登録されています(意匠登録第1674418号)。
 その一方で、とても小さいサイズの登録意匠もあります。「視覚を通じて美感を起こさせるもの」であることが意匠登録されるにあたって必要ですが、拡大した図面や写真を掲載して取引を行うのが通常である場合は、肉眼で観察できないサイズでも問題はありません。実際にナノメートルレベルの登録意匠もあり、部分意匠として登録されている「樹脂粒子」(意匠登録第1659928号)の孔部は、径が205.1nm、深さが156.5nmという小ささです。
 商標についてはどうでしょうか? 立体的な形状からなる「立体商標」として、高さ120m以上もある東京・台場のフジテレビ本社ビル(FCGビル)の形状が商標登録されています(商標登録第5751309号)。そのほか、お土産の商品を意識したものとなっていますが、高さ333mの「東京タワー」の形状(商標登録第5302381号)や高さ634mの「東京スカイツリー」の形状(商標登録第5476769号)もあります。
 また、小さなサイズの立体商標として、錠剤の形状が登録されています。ちなみに、文字商標や図形商標については、取引時に認識できる態様であれば、どんなに小さく表示されたものであっても商標としての機能を果たしていると考えられます。
 最後に特許について見てみましょう。スケールの大きなものとして、宇宙船や宇宙観測に関するものが挙げられ、さまざまな特許が成立しています。例えば情報通信研究機構の「宇宙航行システムおよび方法」(特許第3780345号)は、宇宙船がパルサー(強い磁場を持ち回転する中性子星)のパルスを利用して航行するシステムに関するもので、太陽系外のような遠い宇宙を探索する宇宙船などを想定した内容となっています。物理的に地球とつながっているものはどうでしょうか? 荏原製作所の「高高度到達装置」(特許第7129220号)は、複数のドローンを使って物体を地表から100km以上の高高度領域まで到達させるというもので、エレベーター機構を使って地上から人間などを宇宙空間に位置するステージまで搬送するという実施例も記載されています。図を見ただけでそのスケール感が伝わってきますね。
 これとは逆に、スケールの小さな特許として、パナソニックのナノイーに代表されるようなナノメートルサイズのものがありますが、じつはナノメートルの1000分の1に当たるピコメートルサイズの特許もあるのです。例えば東芝ホームテクノの「扇風機」(特許第4919058号)は、ピコメートルサイズの粒子径のミストを発生させるというものです。

特許第7129220号

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2024年7月号掲載

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