ティーチングとコーチングの境界

マネージャーがメンバーに対して指導する、という構造は当たり前のようにありますが、どういうときにどう指導するか、マネージャーそれぞれの考え方やメンバーの特性、達成しようとする目的によって変えていくべきです。しかし、それらは柔軟に対応するにしても何かしらの指標は必要でしょう。

今日は、そのティーチングとコーチングの境界について考えをまとめます。

まずはティーチングとコーチングの違い

マネージャーであれば、ティーチングとコーチングは明らかに異なることは理解していると思います。ざっくり言えば、ティーチングは「教えること」、コーチングは「気づかせること」に焦点を当てています。目的やアプローチにおけるこれらの違いを以下で詳しく説明します。

  1. 目的と焦点

    • ティーチング
      ティーチングの目的は知識の伝達と理解の促進です。教える側は特定の学問や技能に関する情報を提供し、教わる側がその情報を理解し活用できるよう支援します。

    • コーチング
      コーチングは個人の能力開発と目標達成に焦点を当てます。コーチはコーチ対象者が自己認識を深め、個人的、もしくは職業的な目標に向かって行動を起こすのを支援します。

  2. 方法とアプローチ

    • ティーチング
      ティーチングでは、教える側(ティーチャー)が主導権を握り、カリキュラムや教育計画に基づいて学習を進めます。教育の方法には講義、ディスカッション、実習などがあります。

    • コーチング
      コーチングでは、コーチ対象者が自分自身の解決策や行動計画を見つけることを奨励されます。コーチは質問を通じて洞察を引き出し、コーチ対象者が自らの答えや方向性を見つけるのをサポートします。

  3. 関係性の性質

    • ティーチング
      教える側と教わる側の関係は一般的に指導的であり、教える側が専門知識を持ち、教わる側は学習者の役割を担います。

    • コーチング
      コーチとコーチ対象者の関係はより対等で、コーチはコーチ対象者の潜在能力を引き出す役割を持ちます。コーチングでは、コーチ対象者の自律性が重視されます。

  4. 期間と持続性:

    • ティーチング
      ティーチングは通常、特定の期間にわたって行われ、特定の学習目標やカリキュラムに基づいています。

    • コーチング
      コーチングはより柔軟であり、コーチ対象者のニーズや目標に応じて期間が変わります。短期間で集中的なコーチングもあれば、長期にわたるものもあります。

ティーチングが適している場合とコーチングが適している場合

このようにティーチングとコーチングは本質的に異なるものですが、特定のスキルを身に着ける際にどちらを選択するかという点では、しばしば比較されます。

マネージャーがマネジメントを身に着けようとする場合を想定して、ティーチングすべきかコーチングすべきかについて、それぞれが適しているシーンを場合分けしてまとめます。

ティーチングが適している場合

  1. 基本的なマネジメントスキルを習得する場合

    • マネージャーが新しく、マネジメントの基本的な概念やテクニックを学ぶ必要がある場合、ティーチングが適しています。例えば、チームリーダーシップ、時間管理、プロジェクト管理などの基礎的なスキルを教育プログラムやワークショップを通じて学びます。

  2. 特定のツールや方法論のトレーニング

    • 新しいソフトウェアや業界特有の管理手法について学ぶ必要がある場合、ティーチングによる具体的な指導と実践的なトレーニングが必要です。例えば、マネージャーがCRMソフトウェアの使い方やリーンマネジメントの原則について学ぶ場合、専門のトレーナーからのティーチングが有効です。

コーチングが適している場合

  1. 個々のリーダーシップスタイルの発展

    • マネージャーが自分自身のリーダーシップスタイルを発展させたい場合、コーチングが適しています。コーチはマネージャーの強みや弱みを理解し、より効果的なリーダーになるための個人的な洞察や行動計画をサポートします。

  2. 複雑な課題への対応

    • 組織内の複雑な問題や課題に直面している場合、コーチングが有効です。コーチはマネージャーに対して、異なる視点から問題を考え、創造的な解決策を導き出すのを支援します。例えば、チーム内のコンフリクトの解決や変化管理のプロセスを通じて、コーチングが利用されることがあります。

ティーチングとコーチングの境界

それぞれ適しているものを整理すると、おのずと境界線が見えてきます。

  • ティーチング
    ある問題に対して答えのある問いについてそのスキルを身につけるとき

  • コーチング
    答えのない、または個々の考え方によって解法が異なる場合に、自ら何らかの解決方法や考え方の指針を作り出すとき

課題

このティーチングとコーチングについて、いまやっている指導がどちらかという認識をマネージャは持つ必要があります。よく事例としては、シニアマネージャーが部下のマネージャーに対してマネジメントのコーチングをしているつもりで接しているが、単にシニアマネージャーのやり方を部下に押し付けているだけ、というものがあります。部下に考えさせるふりをして、様々な条件をつけ、予め想定している解とは違う解に部下がたどりついても頭ごなしに「違う、そうじゃない」とするのです。これでは部下であるマネージャーはシニアマネージャーに対して忖度し行動するため、本来は違うマネジメントを試したいマネージャーのモチベーションを著しく削いでしまいます。

まとめ

ティーチングとコーチングの境界は、部下のニーズ、目標、状況によって異なりますが、ティーチングは一つの解決策を提供することに焦点を当てるのに対し、コーチングは複数の可能な解決策を探求することに重きを置きます
シニア・マネージャーは、部下であるマネージャーに対して、学習と成長のプロセスにおけるこれらのアプローチを柔軟に適用し、適切なバランスを見つけることが重要です。基本的な知識やスキルの伝達にはティーチングを、個人の成長や自律的な問題解決にはコーチングを利用することが理想でしょう。

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