グロービス大学院大学が開講しているクリティカルシンキングという講義で「顧客のクレームは宝の山か」という課題があります。これは「顧客のクレームは宝の山か」というイシューに対して賛成・反対の表明とその理由を出す、というものですが、「宝の山か」は置いておいても、顧客のフィードバックがサービス改善の重要な手がかりとなることを示唆している、ということは間違い無いと思います。

これをエンジニアリングマネージャーの視点で考えると、同様の概念が退職者のフィードバックにも当てはまるのではないでしょうか。「サービス」を「マネジメントそのもの」、「顧客」を「チームメンバー」と置き換えて考えると、「退職者」が「マネジメントに対して評価」することによって、会社や組織を改善できる良い視座が得られる可能性があります。

普通は、退職理由を明かしてはくれない

しかし、多くの退職者は、組織を離れる後ろめたさを持つためか、ネガティブな退職理由を明かしてくれません。「何かしら小言を言われるのではないか」「引き止められるのではないか」といった懸念からか、円滑に退職するを望み口を閉ざしてしまいます。しかし、その中には組織の成長や改善につながる貴重な情報が隠されているはずです。

以前、私がある会社で初めてマネージャーになった直後にあるメンバーが退職することになったときのエピソードを紹介します。

退職を決めた彼は、以前から組織での評価が低く、改善も難しいような状況でした。着任直後の私は、なによりもまず信頼関係の構築が重要と考え、共通の話題を見つけては1on1でひたすら話す、ということを繰り返しました。その甲斐もあってか(もしくはその甲斐もなく、か)、退職をまず最初に私に伝えてきたのですが、合わせてその理由についても詳細に明かしてくれました。そしてそれは、我々マネージャーから見ている風景とは真逆の、組織としては非常に大きな問題の指摘でした

ただ、このような事例は稀だと思います。多くの退職者はネガティブな退職理由を持っていても、それを語ることはありません。特に「会社が自分に対して向き合ってくれることを期待し、諦めた、という経緯」があると、改善提案を上げることなく去ってしまいます。これこそ、マネージャーとしては押さえておきたい事実ではあるのですが。

当たり前ですが、それまでの関係性が重要

ただ、結局のところは、退職者のネガティブな理由が聞けるようになるにはそれまでの関係性が重要であり、逆にその関係性があれば退職までは行かない、関係性が無いから語らない、というのが真実でしょう。

結論として、退職者の言葉に耳を傾けることは、組織の成長にとって宝の山であると言えますが、それを確認するには退職までの関係性が重要であり、適切な対話とフィードバックの場を設けることが必要です。難しいことではありますが、退職者の声を組織としての学びに変えていくためには継続的な努力が必要でしょう。

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