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アンパンマンを楽しめなくて怒る大人。クリエイターのエゴと公益。

インターネットを開くと、今週もまた地獄のようなニュースが飛び込んでくる。


簡単にニュースの内容を紹介しよう。

「本紹介TikTokerけんご」なる人物がいる。名前に心当たりがなくても、筒井康隆『残像に口紅を』が今年バカ売れするきっかけになった人だと言えば、ピンと来る方も多かろう。


『残像に口紅を』は文句なしに傑作である。僕の人生で好きな小説トップ10に入る。

「使える文字がひとつずつ消えていく」という制約だけが面白い出落ち本かと思いきや、その制約を完璧に活かしきって最高の小説表現を見せてくれる。

中でも、タイトルの「残像に口紅を」を回収する描写は圧巻だ。「ああっ、このタイトル、そういう意味だったのか!」という驚きと、「この場面の叙情性ヤバすぎない!?」という感動が同時に襲ってくる。しかも、「文字がひとつずつ消えていく」という本書の設定でしか実現できない叙情性であり、素材を完璧に料理しきったと言っていいだろう。大御所・筒井康隆の迫力を感じさせる傑作だ。


さて、そんな『残像に口紅を』だが、発売から25年が経っているにも関わらず、今年8万5000部の重版がかかった。意味不明な数字だ。僕は先日「やった~!自著の初版が5000部積み増しになったぞ!」とかで喜んでいたが、スケールの違いに打ちひしがれる思いである。


当たり前だが、25年前の本がそんなにドカっと売れることは珍しい。名著は絶版になりこそしないものの、細々と売れ続けるのが普通だ。いわば残像のような売れ方を続けるのである。

しかし、この本は今年になっていきなり派手に売れた。すなわち、誰かが残像に口紅を引いたのだ。上手いこと言えてないって?うるさいよ。僕もちょっとタイトルいじりをやりたくなったんだよ。

さて、そんな残像に口紅を引いた張本人こそが、「本紹介Tiktokerけんご」である。この動画が鬼のようにバズった。


あらゆる商品のプロモーションで「ショート動画を使え!」と叫ばれる昨今だが、正直な話、「ショート動画から本がバカ売れする」という話には皆半信半疑だったと思う。本好きの間でも、作家の間でも、出版業界でも、「ショート動画を見てる層は本を買わないだろう」という決めつけが色濃く残っていたのではないだろうか。

それを一撃で吹き飛ばしたのが、このけんご氏の動画である。彼は「TikTokからベストセラーが生まれ得るのだ」という歴然たる事実を突きつけた。彼は革命児であり、時代の変遷を証明した人間だ。偉業を成し遂げたとさえ言える。


そういうワケで、僕は「すごい現象だなぁ」と興味深く見ていた。数ヶ月前のことである。

さて、先週に入って、これを書評家の豊崎由美氏が「くさし」たのである。

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で、これに気を病んで(?)か、けんご氏はTikTokを休止するという。

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(引用元ツイートはこちら


ここでいう「批判的なDM」が何を指すのかは分からないが、本人が豊崎氏のツイートに反応しているので、無関係ではなさそうだ。

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(引用元ツイートはこちら


で、冒頭のニュース記事に繋がる…というワケである。「本を売ってくれるありがたい存在を休止に追い込んだら出版業界的に大ダメージだろボケ」という内容だ。


非難轟々のインターネット

先のYahooニュースの記事の論調は、概ね世論を代表していると言っていい。ネット上の反応は賛否両論というか、1:9以上の割合で「否」が多い。


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主に、「こいつ何様なんだ」という声が目立った。インターネットでは舌鋒鋭く意見を言う人がウケるが、反感も大いに買いやすい。

あと、「読むきっかけは何でもいいだろ」「出版業界が儲かるんだからいいじゃん」などの声も多かった。


しかしまあ、豊崎氏の意見も僕はよく分かる。僕はどちらかというと「賛」の方だ。

というのも、この紹介動画、はっきり言って全然芯を食ってないのである。

……と、この辺から段々ボロクソになり始めるので、以下有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。12月は4本更新なので、バラバラに買うより2.4倍オトク。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。



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