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わかるろんわからんろん#3 酢の記憶

「わかる」とはどういうことか


昭和の時代、男性の顔面の造作の分類法として、しょうゆ顔、ソース顔というのがありました。要するに和風の顔か、洋風の顔かということです。中井貴一はしょうゆで、時任三郎はソース、とか。

でも最近はもっと細かい分類があるらしい。コラムニストのやうゆさんは、しょうゆ、ソースの他に、塩、砂糖、ケチャップ、マヨネーズ、酢などの顔分類を紹介しています。

その分類はこんな感じです。
[塩顔]色白であっさりした薄い顔:坂口健太郎、高橋一生、星野源
[しょうゆ顔]日本人らしいすっきり顔:向井理、二宮和也、佐々木蔵之介
[ソース顔]日本人離れした濃い顔立ち:阿部寛、北村一輝、長瀬智也
[ケチャップ顔]ソース顔ほど濃くなく、しょうゆ顔より濃い顔:斎藤工、竹野内豊、要潤
[砂糖顔]少年のようなベビーフェイス:小池徹平、千葉雄大、神木隆之介
[酢顔]塩顔よりさらにあっさりした顔:藤原基央、井ノ原快彦、森山未來
[マヨネーズ顔]少年らしさと大人の色気が混ざった顔:国分太一、稲垣吾郎、岡田将生
星野源が「塩」で、BUMP OF CHICKENの藤原基央が「酢」とか、なるほどなあと感心してしまいます。酢より塩の方が、親近感がわくもんね。

さて、当然のことながら、ぼくらがこの顔分類を「わかるわかる」と感じるのは、どの調味料も食したことがあり、それぞれの味と名前を「知っている」からです。しょうゆや酢を見たことも食べたこともない国の人だったら、まったく理解できないはずです。

東北大学で脳科学を教える山鳥重教授によると、「わかる」ことの基本は「記憶」があることなのだそうです。

「わかるためには自分の中にも相手と同じ心像を喚起する必要があります。(中略)そして、相手と同じ心像を喚起するためには、その手段である言葉と言葉の意味を正しく(言い換えれば、社会の約束どおりに)覚えておく必要があります。単純なことですが、記憶にないことはわからないのです。」
『「わかる」とはどういうことか――認識の脳科学』山鳥重 ちくま新書

これはひっくり返して考えると、人に何かを「わかって」もらいたいと思うなら、相手の記憶にありそうな言葉を選んで使う必要があるということです。「わかりやすい言葉で伝える」には、相手の立場に立って、相手にわかりやすい言葉を選ぶことが大切、という話につながります。

これ、文章を書くことをなりわいとしているものとしては、心しておかなければなりません。専門用語やテクニカルタームを使うとき、難しい単語を使いたくなったとき、それが伝わるかどうか、読者の記憶にあるかどうかを立ち止まって考え、開く(やわらかく言う)か、説明を入れるようにしたいものです。

ところで、「わかる」にはもう一つポイントがあるのではないでしょうか。先の「塩顔」「酢顔」の話が「わかる!」と思うのは、普通は結びつかない「塩」と星野源、「酢」と藤原基央がつながるからです。それまで知らなかったことが、知っていることに結びついて「なるほど!」となるとき、人は快感とともに「わかる」のだと思うのです。


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