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Hacking Growth グロースハック完全読本 読書メモ

「グロースハック」という言葉の名付け親でDropboxを創業期から牽引したショーン・エリスと、facebookプロダクトマネージャーのモーガン・ブラウン、2名による著書「Hacking Growth グロースハック完全読本」が日本語出版されました。原版はAmazon USでの評価も高く、話題になっており、気になっていたので読んでみました。

海外有名アプリのグロース事例が豊富に掲載されており、事例集として面白かったです。「この考えはまだ日本に浸透してないなぁ」と思うヒントが幾つか散りばめられている本でした。以下、メモ書きです。

目次

・グロースチームの組織構成
・マストハブ・サーベイ~PMFをどのように計測するか?~
・アナログな空間に出よう
・North Star 北極星を見定めよ
・アハモーメントを科学する。twitterのフォロー返し率が1/3であるべき理由
・ICEスコアシステム~施策の優先順位決定のフレームワーク~
・LMF:ランゲージ・マーケット・フィット
・CPF:チャネル・プロダクト・フィット
・チャネル・プロダクト・フィットの評価軸
・ボトルネック箇所の定性調査
・オンボーディングのラーンフロー
・トリガー
・外的トリガーは、あくまで内的トリガーを誘発するために使用すべき
・リテンションの考え方はプロダクトの性質により異なる
・「価値向上の予告」というリテンション施策
・価格戦略
・料金プランの作成方法:ペルソナ・プライス・フィット


グロースチームの組織構成

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多くのグロースチームの組織構造を見ると「獲得」「活性化」「維持」に分かれて組織最適化を図っている。各プロダクトマネージャーが小さなプロダクトチームを指揮する事が普通で、ひとつのプロダクトグループにこうした小規模チームが複数置かれている事が珍しくない。

ピンタレストのジョン・イーガン率いるグロースチームは、利用促進の為のメールやプッシュ通知について、頻度、コンテンツ、CTAのテストに専念している。ありえないほど狭い業務範囲だが、ピンタレストでは強烈にフォーカスすることが成長の主要素にたどり着く秘訣なのだ。


マストハブ・サーベイ~PMFをどのように計測するか?~


マストハブ・サーベイを用いてプロダクトが顧客に愛されているかを図る。計測方法はシンプル。「a.すごくがっかりする」が4割以上ならそのプロダクトはマストハブの域に達していると判定できる。

Q.もし明日このプロダクトがなくなたら、どれくらいがっかりしますか?
- a.すごくがっかりする
- b.少しがっかりする
- c.がっかりしない(あまり役に立っていない)
- d.該当しない(既に利用していない)

Q.このプロダクトが使えなくなったら、代わりに何を使いますか?
- a.代わりに何か使うことはない
- b.以下のものを使う

Q.このプロダクトを誰かに薦めたことはありますか
- a.ない
- b.ある(どういうプロダクトだと説明しましたか?)

Q.このプロダクトから最も恩恵を得られるのはどんな人だと思いますか?

Q.このプロダクトのどこが改善されればニーズを満たせますか?

また、マストハブ・サーベイの調査対象として休眠ユーザは避けるべき。プロダクトを使っていない顧客が有益な情報をくれることはほとんどないからだ。

アナログな空間に出よう

tinderではユーザーの興味が「ごく近くに住んでいる人」に絞られている事が課題だった。tinder創業メンバーは大学キャンパスに赴き、女性大学生にプレゼンし、その場でアプリをインストールしてもらった。またその足で同キャンパス内の男子大学生に赴き、男子学生にもインストールしてもらった。その流れがきっかけで登録者がみるみる増えていった。広告に頼らず、初期にコアグループにフォーカスしたことが成功の秘訣だった。

North Star 北極星を見定めよ

最重要KPIを決める。また北極星はフェーズにより変化していくものである。

・Whatsup:費用を気にせず世界のどこからでも無制限にメッセージが送れること」がアハモーメントだった。北極星=メッセージ送信数
・Airbnb:北極星=予約数
・facebook:「かつての北極星=月間アクティブユーザー数」「変更後の北極星=日次アクティブユーザー数」

【参考】北極星~君にグロースハックはいらない~


アハモーメントを科学する。twitterのフォロー返し率が1/3であるべき理由

twitterのアハモーメントフォロー返し率は3分の1が最適だった。フォローしたユーザのうち、フォロー返しされる割合が3分の1をはるかに超えると、他のSNSとの大差がなくなりtwitterの独自の価値が感じられなくなるという事が分かった。反対に3分の1未満だとニュースサイトのように感じられてしまう。3分の1~2だと:「自分の世界でのできごとを感じられる空間」というtwitterならではの価値を感じられた。

ICEスコアシステム~施策の優先順位決定のフレームワーク~

施策の優先順位を決めるとき下記の3軸で整理する事が良い
・影響度(Impact)
・自信度(Confidence)
・簡単度(Ease)

参考:ICE Score

LMF:ランゲージ・マーケット・フィット

アプリと接するチャネルは多様になり、スマホ時代に突入し、人間の平均的なアテンション時間は8秒程度しかない。その短い時間の中で、興味を惹き、一瞬でプロダクトの利点を伝えなければならない

【事例 ipod】
ipodのアハ体験は「自分の好きな音楽を手軽に持ち運べること」だった。そのため、mp3プレイヤーが数多く出回っていた時代にMP3プレイヤーという言葉は使わず「1000曲をポケットに」を採用した。

【事例 ファブリーズ】
「かつてない爽やかさに包まれて」というキャッチフレーズがフィットした

CPF:チャネル・プロダクト・フィット

マーケターはえてして、多種多様なチャネルを開拓する事が成長を最大化させることだと考えがちだが、それは誤りである。チャネルをいくつも試し絞り込む必要がある。自社に適していて、安いチャネルがあるかもしれない。それを見極める必要がある。

チャネル・プロダクト・フィットの評価軸

下記の軸でどのチャネルがプロダクトにフィットしているかを検証すべき。

・コスト
・ターゲットアプローチ難易度
・コントロール度、実験可能度
・準備時間
・アウトプット時間(配信からの成果発生タイムラグ)
・スケール(アプローチ可能人数ポテンシャル)

ボトルネック箇所の定性調査

ボトルネックが推察されるタイミング(例えば注文フロー)でポップアップアンケートを表示し、離脱要因を調査する方法が有効。
逆説的になるが、離脱する理由の把握の為には「離脱しなかったユーザ」に聞くのが良い。したがって購入完了ユーザに質問すると良い。同じ壁に突き当たった可能性があるし、それを乗り越えた理由についても洞察が得られるからだ。

【質問例】
・注文を確定する前に確認したい事はありますか?
・今は買わない理由を教えていただけますか?
・登録しようか迷っていますか?その理由は?
・どんな情報があれば今すぐ登録しようと思いますか?

・このページで知りたかったことは何ですか?
・探している情報はこのページにありましたか?
・今回このページでしたかったことは何ですか?
・現在の画面からできたらいいのにと思う事はありますか?
・注文手続きを直すべきだと思うところはありますか?


オンボーディングのラーンフロー

NUX(初回ユーザー体験)の時ほど、プロダクトの特徴を理解しようとユーザーが耳を傾けてくれる機会はない。そしてそのような貴重な機会は二度と訪れない。その貴重な機会の間に、ユーザーの注意をそらすことなく、プロダクトの全体像、各機能、ベネフィットを伝え、活性化に導く必要がある。フロー体験に入ることが理想。

反対に、あえて説明しなくても良いプロダクト(ネット通販サイト)は「早く買い物をしたい」とか「もう欲しいものは決まっている」というユーザーが多いので、手取り足取り教えるのはおせっかいとなる

トリガー

トリガーは上手く使えば協力だが、使いどころを間違えリスクがある。B=MATのグラフを基に、刺さるトリガーを探すべき。

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画像引用:BJ Fogg's Behavior Model

外的トリガーは、あくまで内的トリガーを誘発するために使用すべき

ジムトレーニングを習慣化させるために、カレンダー登録を設定したり、トレーナーとやりとりする外的トリガーを用いる。だが、最終的にジムの成果が目に見える形になれば、自発的に行動するようになり(内的トリガーがはたらき)外的トリガーは不要になる

アマゾンプライムは、設ける為の者ではなく、よそで買わせないように仕向けるための施策だった。対象商品を買うたびに無料配送とお急ぎ便のお得感の瞬間的満足を得る。それにより「プライム会員で良かった」と思わせる。

リテンションの考え方はプロダクトの性質により異なる

facebookは毎日使ってもらう必要があるが、iphoneは数年ごとに買い替える必要がある。不動産を探す頻度は、Yelpでレストランを探す頻度と同じでない。iPhoneでAppStoreを提供したのは、数年後にiPhoneを買い替えてもらう為のリテンション施策だった

「価値向上の予告」というリテンション施策

価値向上の予告。新機能や新製品の予告を行う事で、ユーザーがプロダクトを利用維持する動機になる。Appleは年2回の発表会を設けており、ユーザーは新しいプロダクトを手にできる日を心待ちにしている

価格戦略

価格決定を行う為のアンケート戦略
以下の順序でアンケート調査を行う事で、高すぎる価格、安すぎる価格、適正価格の範囲が浮かび上がる

・この製品の価格がいくら以上なら、高すぎて買う気が起こらなくなりますか?
・この製品の価格がいくらまで下がれば、高くても買う気になりますか?
・この製品の価格がいくらまで下がれば、とてもお買い得だと思いますか?
・この製品の価格がいくらまで下がれば、安すぎて品質が不安になりますか?

料金プランの作成方法:ペルソナ・プライス・フィット

良い料金プランは以下の3つの要素を満たす
・顧客が価値を感じるポイントと合っている
・顧客がプロダクトを利用する程高まる
・理解しやすい

例えば動画アプリで、対照的な2つの顧客グループがあることが分かったとする。片方は至れり尽くせりのエンターテイメント体験を求めているグループ。もう片方は好きな時にストレスなく動画を楽しみたいグループ。前者には動画見放題プランを、後者には広告OFFプランを提供すると良い。


感想

本書を読んで改めてAmazonのすばらしさを痛感しました。Amazonのようなコマースプラットフォーマーが目指すのは「モノを買うとき探すときにAmazonを第一想起させること」です。第一想起率を高める為に従来のブランドマネージャーの取ってきたやり方は、定期的にTVCM(や膨大なマス広告)を配信しユーザーの記憶構造を刷新することでした。しかし「Amazonプライム会員」という施策はそのような広告費を投下するどころか、黒字を生み出しているので驚きです。それでいてリテンション施策として強い習慣化を生み出します。「どうせプライム会員だしAmazonで買おう」という純粋想起を生み出している驚異のソリューションです。

また、Amazonのように利用前から使い方が明確になっているサービスの場合、ラーニングフローで説明のチュートリアルが不要になるというのも非常に納得感がある内容でした。ECのように誰でも使い方が分かるコモディティ化したプロダクトの場合は、「サービスの使い方を理解してもらえるか」よりも「ブランド固有の独自性を認識してもらえるか(ブランド・セイリエンス、およびユニークネスを伝えられるか)」の方に重要度の比重が移るのではないかと感じました。

とはいえ、多くのアプリ(サービス)ではラーニングフローにおける説明が必要だし、そのフロー上のボトルネック解消に迫られている事実もあります。そういう意味ではボトルネックフローでユーザにアンケートポップアップを出す施策は非常にユニークで面白いと思いました。
最近だとママ向けサービスmamariでReproのアプリ内メッセージを使って、ボトルネックの仮説検証を高速で回されていますが、このようなアプローチは日本ではまだ多くは聞かない印象です。
(自社サービスの事例記事につき手前味噌ではありますが、本当に良記事です!笑 質問回答率の阻害要因を検証するというくだり)

またランゲージ・マーケット・フィットはプロダクトが提供する価値やプロダクトが目指すものから逆算すると考えやすいのではないだろうかと感じました。例えばEvernoteは「クラウドメモ帳です」というより「外付け記憶装置」とか「記憶とはおさらば」というメッセージを伝えたほうが良いだろうし、Slackも「チャットツールです」とうたうより「組織変革」や「コミュニケーションの効率化」を押し出した方が良いのではないかと。
さらにプロダクト提供価値から逆算する事で、文脈が一致し、獲得ユーザーの期待値がブレず、アハモーメントの失敗を回避できるメリットもあります。なぜならアハモーメントはユーザーの期待値にミートし、文脈に合致することで生じるので。

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