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『My Neighbour Totoro(となりのトトロ)』ワールドツアーを期待

11/5 19:00
Barbican Theatre

ロンドン4本目。翌日は帰る日なので、今回の旅行で観られるのはこれが最後の作品。もともとこの時間は、ウエストエンドでスマッシュヒットとなり、来年のブロードウェイ進出も決まっている舞台版『Back to the Future』を観る予定だった。この作品を観ることはこのロンドン行きの大きな目的の一つでもあった。

『となりのトトロ』を天下のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと久石譲が舞台化する、というニュースは知っていたが、旅程を立て始めたころには「今回はちょっと時間的余裕がないな」とスルーしていた。だが、開幕が近づくにつれ、そして開幕してから、どんどん話題が大きくなってきた。ちょっとチケットセールスの状況を見たら、すでにソールドアウトも出ており、それ以外の公演も在庫僅少といった状態。これは凄い。

この公演は来年1月まで。ここで観ないと、この話題作は一生観られないかもしれない。となれば、予定を変更してでもチケットを買ってしまうのが人情というもの。

まあ『Back to the Future』はブロードウェイも含めてまた観る機会もあるだろう。

というわけでやってきた、バービカン・センター。欧州最大とも言われる文化複合施設で、劇場が集中しているエリアとは少し離れている。初めて行くので念入りに下調べするものの、「バービカン駅降りてすぐ」という情報しかない。嫌な予感がした。

予感は的中し、駅を出ていきなりどう歩いていいか分からない。Google mapを観れば確かに目の前にあるように見えるが、入り口らしきところがない。仕方なく、立体交差の下の道路のようなところをとぼとぼ歩くと、「バービカンセンター駐車場」のような表記があったので方向は合っているようだ。うろうろして、何とかバービカンセンター内まで入り、今度は中でうろうろして劇場らしきところまでようやくたどり着く。

まだ少し余裕があったので、周辺を歩いてみたところ、駅の上からペデストリアンデッキでつながっていることが分かった。帰りはそのルートを使ったが、どうも多くの人は自分と同じコースで来ていたようだ。

とにもかくにも到着したバービカン劇場。おそらく今回訪れた劇場では最大のキャパシティ。この大きな劇場が『となりのトトロ』で満員になっている。何とも不思議な感じである。家族連れが多かったが、よくクールジャパンの報道で見る「OTAKU」のような中年男性グループや、若い女性の2人連れなど、構成はさまざまだ。

開幕前のアナウンスはもちろん英語だが、締めの言葉は日本語で「よろしく、お願いしまーす!」。幕が上がると、出演者はみな東洋系の顔立ちをした俳優さんだ。欧米でアジア系俳優がほとんどを占める舞台を観るのは、ニューヨークのパブリックシアターでフィリピンを舞台にした『Here Lies Love』を観た2014年以来か。個人的には、日本を舞台にした作品に欧米系の俳優さんたちが出ていてもいいと思うが、やはりイギリスの人たちに「日本が舞台」と感じてもらうためにはこの方がいいのだろうか?

この作品について、多くの人が興味を持つのはやはりトトロや猫バスといった不思議な存在を、舞台上でどう表現するか、という点だろう。だが、これについては公式が明らかにしていない以上、そこに言及するのは「ネタバレ」になってしまう。あえて言及するなら「多くの人の想像どおりだが、そのレベルは想像を大きく凌駕している」とだけ書いておきたい。劇場には大歓声や笑い声、ネット上には「すごい!」「びっくりした!」という声があふれているのがその証拠である。

舞台装置は、メイたちの家が目を引く。映画と異なり純日本風家屋だが、360度作りこんであり、盆に乗ってくるくる回り場面を展開させる。これまたすごい。

トトロたち異世界の住人や、こうしたセットを生かすために、この舞台では多くの黒子さんたちが活躍する。帝劇の『千と千尋の神隠し』でもそうだったが、この作品での黒子さんの立ち位置は、どちらかというとライオンキングの出演者たちに近い。「操る」ことで何かを表現するだけでなく、黒子さん自身も演出の一部となって観客を楽しませてくれる。いちばん近いのは『侍戦隊シンケンジャー』の黒子さんではないか。その行動力と人気も含めて。

この作品はミュージカルではないが、音楽が重要な要素となっている。久石譲プロデュースということで、映画でおなじみのナンバーはもちろん、オリジナル曲も書き下ろされた。そして舞台上の役者が歌うかわりに、ひとりのシンガーが歌唱を一手に引き受ける。それがレ・ミゼラブルのファンティーヌ役としても知られる二宮愛だ。ウェストサイド物語の「Somewhare」独唱を全編にわたってやっているようなもので、その重責たるや想像を絶するが、実に堂々とした歌唱で、アバンギャルドな試みにあふれたこの舞台に抜群の安定感を与えている。

全体的な印象としては、ストレートに「楽しかった」という言葉が出てくる。より具体的に表現するために、あえて帝劇の『千と千尋の神隠し』と比較すると、こちらのほうがぐっと舞台として洗練されており、いろいろな仕掛けにびっくりしながらも、最後は「楽しかった」という印象だけが残るように計算され、そしてスタッフ、キャストの実力によって形作られている作品だ。

決して『千と千尋の神隠し』が良くなかったというのではない。あの作品の場合、とにかくアニメの無限の表現力を舞台上にどこまで再現できるか、というアンビシャスな挑戦に成功している。ただ、そのぶんどうしても粗削りな部分は残り、今後再演を繰り返す中でより完成度を上げていくことになるのだろう。ま、環奈ちゃんに目を奪われていてちゃんと見てなかったんだろうと言われると返す言葉はないですが。

その点、こちらはさすがロイヤル・シェイクスピア・カンパニーというべきか、演劇としての完成度が段違いである。トトロたちの出現だけを期待していた子供たちも、きっと演劇としての楽しさを知ってくれたに違いないし、もとよりそうでない大人たちの満足度は非常に高い。

これほどの作品、3カ月ほどの限定公演で終わってしまうのは実にもったいない。チケットセールスが好評だったこともあり、再演の可能性も高いだろうが、やはり期待したいのはワールドツアー、そして日本での公演だ。日本テレビも制作に携わっているし、期待してもいいのではないか。問題は、あの家のセットを回転させる盆のある劇場はだいぶ限られているという点だ。トトロや猫バスの活躍を表現するためにある程度スケールの大きい舞台も必要になる。個人的には博多座で観たいです。

ロイヤル・シェイクスピアカンパニー『My Neighbour Totoro』サイト
https://www.rsc.org.uk/my-neighbour-totoro



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