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バケツイネ ~アクティビティプログラム~

入所型高齢者福祉施設のベランダでできる「イネ作り」の紹介をします。アクティビティ・サービスの視点から、季節の行事、アクティビティプログラムとして実践しています。

好評!? のアクティビティプログラムです。
これからの時期(4月、5月)にあったアクティビティプログラムになります。

「バケツイネ作り」
このプログラムは、「繭玉作り」「五平餅作り」などと同様に色々なお話が利用者の方からお聴きすることができます。大変興味深い企画です。

前半は、バケツイネ作りの様子を中心に記載しています。
後半は、バケツイネの作り方について紹介しています。

アクティビティ・サービスの視点から

アクティビティ・サービスの視点から、今回の企画についての考え方は下記のようになります。

・作業によって、手を動かしたり、考えたりする活動
・昔を懐かしみ、そして語ること

「回想を促すアクティビティ」
テレビから流れてくる昔流行った歌謡曲や映画にふれると、過去の記憶がよみがえり、懐かしく感じ、当時の様子をいきいきと語る高齢者に驚かされることがある。
回想は、高齢者のこころの中にある思いを表出し、自分が生きてきた人生を振り返り、自尊心を高めることにつながる。回想を行う場合は、日々の暮らしの中から高齢者が身近に感じられるテーマを選んで、懐かしい話が語れるように、手がかりとして道具や食べ物、においなど五感を刺激できる素材を用いながら進める。回想は、認知症高齢者にとって心の安らぎや生活意欲を引き出すものとして広く施設で取り上げられてきている。また、回想を促すことは、支援者にとってもその人の人柄を知り理解につながるため、アクティビティ・サービスにとっても欠かせない手法の一つである。

"アクティビティ・サービス   心身と生活の活性化を支援する"
編集 特定非営利活動法人   アクティビティ・サービス協議会    より引用


入所型の施設において、できることは?

現在、ご利用して頂いている多くの方が、稲作や畑等の農業を経験されています。農作業で生計を立てていたプロの方から、趣味や自分の食べる分だけ作っていたという方など様々です。それは地域性もあるかと思います。

施設に畑や田んぼが欲しいと真剣に考えてしまうほどです。しかし、それらを所有するにはハードルが高すぎます。地域の方との「田んぼ」を通じての交流、「田んぼ」を借りるなど、いくつかの「楽しそうなこと」も想像できます。この「想い」を目標にしています。

施設のベランダでも「できること」として「バケツイネつくり」を企画しました。
初年度は、5月の行事として企画しました。

「稲を作ります!!」と宣伝し、いざ当日を迎えたとき、数名の利用者の方が、頭にタオルを巻き、やる気満々で「田んぼに行くんじゃないの?」と尋ねられたときは、申し訳のない気分でした。やっぱり田んぼが欲しい・・・

 「バケツイネ作り」の様子

 まずは、日常の会話のなかでお話をお聴きしました。それは入浴中であったり、食事中であったり、車椅子での移動中でした。

ちょっとした時間にお話を聴くことを意識しました。

集団の中では、日頃のレクリエーションにて、稲作についてお話をする機会を持ちました。そこでは、回想法的なアプローチを意識しています。

自分の経験を発信すること、他者の経験を聴くことができる機会をもちました。
作業工程や準備品を本を参考にしながら、実際の稲作のお話をお聴きして確認をしました。

稲作のプロからは半信半疑の意見が多く出ました。

そんな、バケツでイネが育つのか?と難しい表情が印象的でした。

いや、意外とできるかも・・・そんな、賛否両論を感じながらも企画を開始することになりました。 

「バケツイネの利点」 

「バケツイネ」の利点があります。
それは、生育の様子が日常的に確認ができるということです。

移動中に「イネ」を見て、そこから会話が生まれます。「大きくなったねぇ」「ちょっと元気がない、肥料はいれたか?」「○○さんは田んぼはやっていましたか?」自然な会話、コミュニケーションがそこにはあります。

実際に育っている「イネ」を見て、昔を懐かしむことができているのを実感できます。そして、季節感も味わうことができます。
集団レクリエーションの中では、バケツイネを室内に運びいれ、できた穂を実際に手に取ることができます。ある方は穂からモミを取り出し、モミの育ち具合を慣れた手つきで確認して教えて下さいました。こうしたバケツイネを見ながら、当時の「イネ作り」の様子を語ることができます。

「イネの生育」の観点からの利点について、少し触れたいと思います。

~バケツイネが田んぼのイネよりもすごい!?~
じつは、1本植えしたバケツイネは、田んぼのイネ1株よりも大きくて豪快にそだてられる。たった20Lの土に根をはったイネなのに・・・

バケツイネの収穫量を決めるもの
① 穂がでた茎の数
② 1つの穂についたモミの数
③ ちゃんと実ったモミの割合
④ ちゃんと実ったモミの重さ

たくさん実らせたいなら、まずは、①の茎の数をいかに増やすかを考えるのがポイントだ。バケツは移動させることができるから、田んぼとちがって、日当たりと風とおしのよさを思いとおりに選べる。
バケツイネなら上からも横からも斜めからも、たくさんの光と、涼しい風を受けることができるから、田んぼのイネよりもたくさんの茎を増やすことができる。(蒸れにくく、光合成がさかんになる)もちろん、茎を増やせばいいってもんじゃない。細い茎ばっかりでは、1つの穂につくモミの数(②)が少くなってしまう。穂が実るころに根っこの元気がなくなってしまったら、しっかりと充実したモミ(③と④)がつかなくなってしまう。太くて力強い茎をたくさんそだてれば、モミの数を充実させることができる。

「バケツで実践 超豪快 イネつくり」 薄井勝利氏 監修 農文協 編 より引用

 

バケツイネ作りの作業工程

「土つくり」

まずは土作りです。赤玉土細粒、黒土、肥料を入れて混ぜます。水を入れ、泥状になった様子は、田んぼのようになりました。ここでも、段取りの悪かった職員にビニールシートに全部だしてそこで混ぜれば良いと教えて下さったのは利用者の方です。 

土をいれるバケツについては色々と考えました。発泡スチロールやバケツ、ドラム缶等・・・予算的なこともあり、結局は余っていた備品の大きなゴミ箱を使用しました。底に穴を開けて、通気性があった方が良いのでは?などの提案もありました。

~土つくりの工程~

「土」
水をしっかりためられるよう、土の量はバケツの7分めくらいが目安です。20Lバケツなら14Lくらい用意します。
「元肥」
骨格肥料としては、ゆっくりと溶けだすヨウリンと、葉っぱを硬くするケイ酸の多いソフトシリカ。肉づくり肥料として、化成肥料を土に混ぜ混もう。元肥の分量
※ 14Lの土に対して
ヨウリン40g ペットボトルキャップ 3.5杯
ソフトシリカ 50g ペットボトルキャップ 8.5杯
化成肥料 20g ペットボトルキャップ 3杯

「手順」
① ブルーシートの上や大きい容器に土(赤玉土細粒1:黒土1)を広げ、元肥(上記参照)をふりかけ、よくかき混ぜる。
②バケツに①の土を入れ、ひたひたになるくらいに水を入れる。
③手を入れると、ぷくぷくと土から空気が抜けていく。土と水がなじむようにしっかりとかき混ぜる(「代かき」という)
④1週間ほど、そのままおいておく
⑤苗をていねいに植える。根が傷まないよう、なるべく苗床の土を崩さないようにする。
⑥活着する(しっかり根がはる)までは、ひたひたくらいの水で、その後は、葉のサヤが水没しないくらいに、水をはっておく。

「土の注意点」
田んぼの土がベストだけれども、手に入らないときは、赤玉土細粒と黒土を半々に混ぜたものや、酸性土にそだつヨモギやスギナの生えている場所から集めた土でいい。ただし、石灰をまいた畑の土や、野菜や花の園芸用培土はアルカリ性になっているので避けたほうがいい。イネは酸素の少ない水の中でそだつ植物だ。土と水を混ぜてすぐに田植えするのではなく、1週間くらいおいて土が水になじんでから植えましょう。

バケツで実践 超豪快 イネつくり」 薄井勝利氏 監修 農文協 編 より引用

 改めて、「バケツイネの土作り」で使用したもの

 赤玉土細粒、黒土、ヨウリン、ソフトシリカ、化成肥料、ゴミ箱、ビニールシート、ミニサイズの鍬、軍手、水を溜めておく桶など

土いじりも、楽しいものでした。もちろん手や服は汚れてしまうほど熱中します・・・・・

「土作り」は終了し、1週間ほど田の土をねかせることになります。

「どこから 苗を準備するのか」

初年度、苗は知り合いの農家の方から1ケース分けて頂きました。(ありがとうございました)
利用者の方も慣れた手つきで、ケースから「ひと株」づつ分けて行きました。私は、もうお任せするしかありませんでした。 

その苗を、皆さんでバケツに植えていきました。

次の年は、収穫した稲を種籾にして育苗から始めました。なんと、そこから、穂ができるまで育て上げることができました。
しかし、その穂は痩せてしまっており種籾になるには難しくなりました。肥料のタイミングに課題があったのかもしれません。
種籾から「芽だし」をして、収穫までの過程を実施することができました。期間にして4月の中旬から11月程です。

その間はベランダやエレベーターホール内に「懐かしのイネ」が存在していました。

「苗の準備方法」

今年は、新たに苗が必要になります。苗の準備方法について確認します。 
苗はホームセンター、園芸店等では購入できません。下記の方法になります。

①近くの農協に注文する。
農協はバケツイネつくりや学校田んぼのイネつくりを支援しているので、栽培方法の相談にものってくれる。ただし、農協ではその地域で栽培されている品種しかあつかっていない。

②農家から分けてもらう
近くの農家や、友達の家からゆずってもらおう。農家のなかには自分で採種している方もいるし、お米用に貯蔵しているもみだって、十分種もみになるからね。また、はなれた地方に住む親戚の農家などから、その地域の品種の種もみをゆずってもらえば、いろいろな品種が手に入るよ。

③全国農協中央会の「バケツイネづくりセット」を申し込む全国農協中央会では、毎年「バケツイネづくりセット」を希望の方に無料で配っている。4月末までに申しこめば(先着順)、種もみ(日本晴)、肥料と栽培マニュアルと観察ノートを一人分ずつセットにして送ってくれる。「バケツイネづくりコンテスト」も行っているよ。

プランターで苗つくり 農文協 編 赤松富仁 写真 より引用

③について、 今年度のJAのホームページで確認しましたが、個人での申し込みは送料は自己負担になりそうです。苗ではなく、種もみになるかもしれないので時期は考えた方が良さそうです。(確認が必要です)

今年は、①と③で企画してみようと思います。また、育苗から始めるのもおもしろいかもしれません。

「種籾」からの「芽だし」では、色々なお話が聞けて興味深いです。例えば、お風呂につけていた、川につけていたなど・・・そこからは生活の知恵を学び知ることができます。

下記のバケツイネの本を参考にして企画をしました。
「バケツで実践 超豪快 イネつくり」 薄井勝利氏 監修 農文協 編
「プランターで苗つくり 」農文協 編 赤松富任氏 写真

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 アクティビティプログラムでの課題

上記のように「バケツイネ」の本の通りに作業を進めれば、スムーズでしょう。しかし、これはアクティビティプログラム、農業のプロのご意見を聴きながら作業を進めていきます。

ここで難しい課題がでてきます。
それは、利用者の方の中で異なる意見が出てきたときです。

当然、利用者のやり方やこだわりが異なる場合があります。「繭玉作り」「五平餅作り」の時もそうでした。ここが集団アクティビティの難しさであり醍醐味です。

イネつくりのなかで挙げれば、「芽だし」の方法や「肥料のタイミング」「水を溜めておくのか、干しておくのか」と言ったことでした。基本的な要素は一致することが多いため集団で進めていくことはできました。
自分のやり方、やってきたことを他者に発信できる機会を得ること、また、他者のやってきたことを知ることを意識していきます。発信が否定されたり、ネガティブにならないように配慮が必要になります。確かに、他者から否定的な意見がでてきてしまうことがあります。そこを調整していくことが重要です。集団として進めていく部分と、時に個別のプログラムとして進めていく場合もありました。

今年度も「バケツイネつくり」を実施予定です。冒頭で挙げた、実際の「田んぼ」を頭の片隅に大事にのこしながら・・・


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