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訴訟記録で検証する「あのニュース」(2) 木下ほうか氏、性加害を報じた週刊誌との訴訟は予断を許さない状況に

以下の原稿は、訴訟記録を閲覧したうえで執筆し、某媒体に入稿した原稿です。編集部の判断で掲載に至らなかったため、ここで紹介します。

強姦を否定し、出版社と担当記者を提訴

〈木下ほうか“強姦”で刑事告訴されていた!〉
 
『週刊女性』は4月26日号で、俳優の木下ほうか氏(58)に関するそのような記事を掲載した(〈〉内は引用。以下同じ)。同誌の公式サイト『週刊女性PRIME』でもほぼ同内容の記事が配信された。
 
 これらの記事では、〈木下は7年前、抵抗する私を無理やり犯したんです……〉と告発する元タレントの女性Sさんが登場。Sさんは記事中で、
 
(1)木下氏と食事をしたあと、「稽古場」に連れていかれ、性被害に遭ったこと
 
(2)弁護士に相談し、木下氏の事務所に慰謝料を請求したが、木下氏側は「性行為は合意のもとに行われた」と主張して応じなかったこと
 
(3)そこで、弁護士と共に告訴状を作成したが、警察には、「身体に傷がない」「犯行現場の正確な情報がない」といった理由から受理されなかったこと

 
   などを証言している。
 
 この記事が出る少し前、木下氏は、『週刊文春』で複数の女優への性加害行為を報道され、無期限の活動休止を公表していた。週女と週女PRIMEの報道は、木下氏をさらなる窮地に追い込むものだった。

 ところが、文春には無抵抗だった木下氏は、週女と週女PRIMEに対しては反撃に出た。ツイッターで発行元の『主婦と生活社』と担当記者の近藤俊峰氏を東京地裁に提訴したことを報告し、Sさんを強姦したことを否定したうえ、こう表明したのだ。
 
〈今後は法廷の場において明らかにさせて頂きたく存じます〉
 
 この訴訟の記録を同地裁で閲覧したところ、事実関係は思いのほか複雑だった。

▲木下氏は週刊女性の記事に対し、提訴したことをツイッターで公表した。

強姦否定の根拠は「LINEのやりとり」と「慰謝料の請求額」

 訴状によると、木下氏側は、事実ではない報道で名誉を毀損されたなどとして、主婦と生活社と近藤氏に550万円の支払いや、週女と週女PRIMEへの謝罪文掲載を求め、Sさんとの7年前の性行為の「真相」をこう主張していた。
 
〈話をしているうちに、二人きりということもあり、酔いも進み、良い雰囲気になってきたことから、以前よりSに好意を持っていた原告は、Sをそれとなくソファベッドに誘導し、Sからの求めに応じ、避妊具を装着するなどして、肉体関係を持った。

 Sも特に原告を拒絶することはなかった〉

 
 要するに木下氏側はSさんとの性行為は合意のうえでのことだったと主張しているわけだが、その主張の拠り所は2つある。
 
 1つ目は、性行為の翌日に2人が交わした以下のようなLINEのやりとりだ。
 
Sさん〈家着きましたーあ*\(^o^)/* 昨日は美味しいご飯たくさん、ごちそうさまでした♪(´▽`)〉

木下氏〈おかえり!めっちゃ楽しいひと時でした!!また早く会いたいなぁ~♡お疲れさまでした!〉

 
 木下氏側の主張では、このやりとりは、〈同意ある性行為であることを推認させる〉(訴状)という。
 
 木下氏側の主張のもう1つの拠り所は、性行為後にSさんから請求された慰謝料の金額が「1200万円」だったことだ。木下氏側はこれが、〈性行為時点での同意があったものの、性行為後(引用者注・Sさんに)何らかの理由で金銭目的が発生したこともありえると考える余地を与える事実〉(前同)だというのだ。
 
 さらに木下氏側は、近藤氏の取材を受けた際、この2つの事実を説明したのに、報じられなかったと指摘し、こう言い切っている。
 
〈このことだけで本件記事の報道が事実を報じていないことは明らかである〉(前同)
 
 ちなみに、Sさんはこの慰謝料請求と刑事告訴の際、複数の弁護士に依頼しているが、書面の筆頭に名前が記されているのは、テレビでおなじみの弁護士・北村晴男氏だ。北村氏ほど頻繁にテレビに出ていれば、番組収録の際に木下氏とばったり会うこともありそうに思えるが、そんなことをいちいち気にしていたら弁護士は務まらないのだろう。

木下氏は性行為に合意があったと主張(画像はオフィシャルブログより)

週刊女性側も徹底反論

 木下氏の主張は無下に否定できない印象だが、週女側も徹底反論している。
 
 まず、木下氏側から木下氏とSさんの関係が良好そうに見える性行為翌日のLINEでのやりとりを報じていないと指摘されている点については、週女は「実質的に報じている」という趣旨の主張をしている。記事中の次の部分がそれにあたるという。
 
〈「感情を露わにした連絡を送ったら、木下は返事をしないだろうと思ったんです。まずはそれまでどおりの雰囲気で連絡を取り、徐々に被害内容に話題を移せば、事実を認めて誠意ある対応をしてくれるんじゃないかと」
 食事を共にしたことへの挨拶から始まり、だんだんと当日の行為に話を移した
〉(週女の記事より)
 
 木下氏とSさんの性行為翌日のLINEのやりとりをすべて見ると、この週女側の主張も辻褄は合っている。Sさんは実際、LINEで木下氏と関係が良好そうに見えるやりとりをした後、〈なんで抵抗してたのにむりやりエッチしたんですか…〉〈まず謝ってください〉などと木下氏を責め立てているからだ。
 
 また、週女側は、Sさんが1200万円の慰謝料を請求したものの、代理人同士の交渉が決裂した直後、木下氏を刑事告訴した事実を指摘。そのうえで、〈これも女性の被害感情の大きさを表している〉(準備書面より)と主張し、こう訴えている。
 
〈原告は、女性の慰謝料請求について、「本件性行為後何らかの理由で金銭目的が発生した」などと主張しているが、仮に女性にそのような意図があれば、民事訴訟を提起するのであり、刑事告訴をすることにはならない〉(前同)
 
 週女側の主張も無下には否定できない印象だ。

訴訟の対象となった記事が掲載された週刊女性2022年4月26日号

裁判の行方は予断を許さないが…

 このほか、右のようにLINEで責め立てたSさんに対し、木下氏が〈ごめんなさい〉〈本当に申し訳ない〉などと返信していることについて、週女側はこれを木下氏が強姦を認めているからだと主張しているのに対し、木下氏側はSさんの態度が豹変したことに困惑し、とりあえずなだめるような態度をとっただけだと反論しているなど、両者の主張は様々な点で対立している。裁判の行方は予断を許さない状況だ。
 
 ただ、この訴訟は週女側にとって難しい戦いになりそうだ。事案の性質上、当事者であるSさんに協力を求めることもできれば避けたいはずだからだ。
 
 性加害報道のあり方に影響を与える訴訟になる可能性もありそうに思える。

訴訟の舞台となっている東京高裁・地裁の庁舎

※タイトルの上の画像は、訴訟の対象となっている週刊女性2022年4月26日の記事です。本文部分の修正は、引用者によります。

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