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シナリオ獄中面会物語3 分冊版第11話:筒井郷太死刑囚(長崎ストーカー殺人事件)

 実在死刑囚たちに対する私の面会取材の記録について、漫画家の塚原洋一先生が漫画化してくださった電子書籍『マンガ「獄中面会物語」』(発行/笠倉出版社、企画・編集/伊勢出版)の分冊版9~15話のうち、今回は第11話の筒井郷太死刑囚(長崎ストーカー殺人事件)との面会のシナリオを紹介します。

 死刑囚は実際に会ってみると、見るからに怖そうな人物である場合は意外と少なく、むしろ、小柄で、腕っぷしも強くなさそうな人物が多いのが現実です。そんな中、筒井郷太死刑囚は数少ない例外の一人でした。

 筒井死刑囚は、身体がかなり大きく、骨格もしっかりしていて、独特の威圧感を醸し出しているため、面会室で向かい合うと、アクリル板越しとはいえ、迫力がありました。彼が敢行した犯行は、mixiで知り合った交際相手の女性に対してDVを繰り返した挙げ句、その女性の母親と祖母を殺害してしまったというものですが、被害者やそのご家族はかなり怖かったのではないかと思います。

 また、筒井死刑囚は、獄中で「冤罪」を主張し、あれこれと自分の主張をノートに書き綴っていましたが、「真犯人=被害者遺族」であるかのような荒唐無稽な物語を膨大に創作しており、これも読ませてもらい、かなりきついものがありました。

 そんな筒井死刑囚の異常性が漫画では、塚原先生がよく表現してくださっており、読み応えのある作品になっています。シナリオから事件に関心を持って下さった方は、ぜひ完成した漫画もご一読ください。
 
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〇 警察庁の公表している「ストーカー事案の検挙件数」のグラフ

片岡のN「全国各地でストーカーが起こす重大犯罪が後を絶たない。その中でも「長崎ストーカー殺人事件」はとくに凶悪性の高い事件だった」

  出典クレジット「警察庁HP公表資料「令和元年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」」


〇 福岡拘置所・外観(昼)

T「福岡拘置所」

片岡のN「私は2013年9月下旬、その犯人、筒井郷太(ごうた)と初めて面会した」


〇 同・面会室

  刑務官と共にアクリル板の向こう側に現れた筒井。上下共にグレーのジャージ姿で、180センチはゆうにある大柄な男。骨格もがっしりしている。両方の口角をあげ、

筒井「どうも」

  と会釈する。

片岡のN「筒井は大柄な男で、笑顔なのに、独特の威圧感があった。被害者の恐怖は相当なものだったろう」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版11話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 被害者の山下さん宅・外観(夜)

T「2011年12月16日 長崎県西海市」

片岡のN「事件の現場は大村湾に面したのどかな町、自営業の山下誠さん(当時58歳)宅だった」


〇 同・敷地内に止められたワンボックスカー

片岡のN「被害者は山下さんの母・久江さん(同77歳)と妻・美都子さん(同56歳)。夜9時頃、山下さんの高校生の次男が帰宅すると、刃物でめった刺しにされた2人の遺体が家の車の荷台に押し込まれていた」


〇 現場に急行する長崎県警の警察車両

片岡のN「捜査に乗り出した長崎県警はすぐに1人の男を容疑者と特定し、翌日の朝、長崎市内で男の身柄を確保した。それが当時27歳の筒井郷太だった」

 
〇 警察に連行される筒井

片岡のN「筒井は事件前、千葉県習志野市で暮らしていた山下さんの三女(同23歳)と交際していたが、DVなどにより警察から警告を3回うけていた。犯行を認めた筒井は殺人などの容疑で逮捕された」


〇 習志野署の署員が旅行に出かけていたことを伝えるテレビのニュース

片岡のN「その後、千葉県警習志野署が事件前、三女と山下さんから出された傷害の被害届の受理を先延ばしにし、担当職員ら12人が北海道旅行に行っていたことが発覚」

クレジット「2012年3月22日放送『FNNスーパーニュース』(フジテレビ)」


〇 記者会見場で謝罪する千葉県警本部長

T「鎌田聡千葉県警本部長」

片岡のN「千葉県警は強い非難にさらされ、訓戒処分を受けた本部長をはじめ、計21人が処分された」


〇 長崎地裁

片岡のN「一方、筒井は長崎地裁の裁判員裁判で自白を撤回、無実を主張した。しかし2013年6月14日、全容疑を有罪とされ、死刑判決を受けた」


〇 図書館のデスクトップパソコンで新聞データべースの記事を見ている片岡

片岡のN「私は新聞データベースで関連記事に一通り目を通し、何より裁判中の筒井の言動が気になった」


〇 長崎地裁の法廷

  証言台の椅子に座り、涙ぐむ筒井(服装は黒いスーツに白シャツ、青いネクタイ)。

筒井「誰も信じてくれなくて、自分の存在がなくなってしまいそうで、殺人犯になりきっていました」

片岡のN「報道によると、筒井は取り調べで殺害を認めたことについて、そう語り、涙ぐんだという」

クレジット「朝日新聞長崎版2013年5月28日朝刊27面の記事に基づく」

× × ×

  証言台の前に気をつけの姿勢で立った筒井、檀上の裁判官や裁判員に向かって切実な表情で陳述している。

片岡のN「さらに最終意見陳述では、「事件は作られたストーリーだ」とまで言ったという」

クレジット「読売新聞西部本社版2013年6月4日朝刊39面の記事に基づく」


〇 図書館のデスクトップパソコンで新聞データべースの記事を見ている片岡

片岡のN「筒井は逮捕された時、被害者の血がついた包丁などを持っていたそうで、犯人なのは動かしがたいと思えるが……」


〇 『死刑囚の記録』という新書(あるいは、加賀乙彦の顔)

片岡のN「東京拘置所の精神科医官だった医師で作家の加賀乙彦は、著書『死刑囚の記録』(※)で、死刑囚が囚われる「無罪妄想」という症状を紹介している。罪を免れるために嘘を重ねるうち、本当に自分が無実だと信じ込んでしまうのだ。私は筒井もこれに該当する可能性を感じた」

クレジット「※中央公論社より1980年1月に初版発行」


〇 福岡拘置所・面会室(イメージ明け)

  筒井と片岡、アクリル板越しに向かい合っている。

  筒井は屈託のない笑顔。

片岡のN「初めて面会した時、筒井は福岡高裁に控訴中だった」

片岡「筒井さんの無実の主張は要するに警察の「でっち上げ」だということですよね?」

筒井「いや、でっち上げじゃないんですけど」

片岡「では、どういう主張なのですか?」

筒井「事実と違うんです」

片岡「……報道では、筒井さんは被害者の血がついた包丁を持っていたそうですが、あれは事実と違うのですか?」

筒井「証拠は合ってると思いますよ。検事が言う血とかはあったと思うんですよ」

片岡「……」

片岡のN「何が言いたいのかわかりにくいな……」

筒井「あのお、お願いがあるんですが…」

片岡「何でしょうか?」

筒井「僕の2番目のお兄ちゃんに電話かメールで、僕に手紙を出すように伝えてもらえませんか?」

片岡「なぜ、私にそんなことを?」

筒井「手紙を出したいんですが、お兄ちゃんは引っ越して今の住所がわからないんです」

片岡のN「筒井の兄は殺人犯になった弟と関わりたくなくて、住所を教えないのだろう。そんなこともわからないのか…」

片岡「申し訳ないですが、私がお兄さんのプライバシーに踏み込むわけにはいきません」

筒井「そうですか……」

片岡のN「私は筒井と会ってみて、改めて「無罪妄想」に囚われていてもおかしくないように思えた。「やましさ」のようなものが微塵も感じられないからだ」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版11話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 判例データベースからプリントアウトした判決文

片岡のN「私は判例データベースで判決文も入手したが、事実関係を調べるほど筒井のクロは動かしがたく思えた」


〇 三女のマンション・外観

  ※アパートと形容されることもある物件なので、大きな建物ではないと思います。

筒井、大きなボストンバッグを持ち、やってくる。

片岡のN「筒井は2011年5月、mixiで知り合った山下さんの三女と交際を始めた。当時は無職で、三重県桑名市の実家暮らしだったが、6月には習志野市にある三女のマンションに押しかけて住みついた」


〇 同・三女の部屋

筒井、三女に「顔面を平手打ち」「頭突き」「テレビのリモコンで頭部を殴る」などの暴力をふるう。

片岡のN「筒井のDVはほどなく始まった。三女の証言によると、「男性社員と会話した」「メールが遅れた」「帰りが遅れた」などの理由で顔面を殴られたり、部屋を荒らされたり、頭突きをされたり、テレビのリモコンで頭部を殴られたりしたという」


〇 習志野署・外観

T「2011年10月末 習志野署」

片岡のN「やがて山下さんら三女の家族が、筒井のDVに気づき、警察に相談する」


〇 同・取調室

  机で私服刑事と向かい合って座った筒井、上申書(らしき紙の末尾)にサインしている。

片岡のN「習志野署は筒井を任意同行し、「もう暴力はふるわない」との上申書を出させた」


〇 三女のマンション・近くの道

  山下さんが大きなかばん(衣類などが入っているイメージ)を持ち、三女と一緒に歩いている。

片岡のN「そして山下さんが三女を西海市の実家に連れ帰ったが……」


〇 何台かの携帯電話とスマホ(三女の家族、友人、会社の同僚らのもの)

  それぞれの画面には、受信した筒井からのメッセージ。「必ず殺す」「気持ちが変わったのなら連絡しろ」「周囲の人間の住所も実家の住所もすべて知っている」「周りの人間を殺す」など。

片岡のN「筒井は三女に脅迫の電話やメールを繰り返し、三女が携帯電話を解約すると、今度は三女の家族や友人、会社の同僚らに次々と脅迫メールを送りつけたという」


〇 三女のマンション・前の路上

  筒井、制服警察官2人に職務質問されている。

片岡のN「さらに筒井は三女のマンションの周囲をうろつくなどし、習志野署から2、3回目の警告を受けた。そして両親に桑名市の実家に連れ帰られたが、この時点でもまだ被害届は受理されなかった」


〇 筒井の実家・室内

  筒井、父親を殴りつける。

片岡のN「事件の2日前、筒井は父親を殴り、実家から逃走。この日、習志野署はようやく被害届を受理したが、事件を防げなかったのだ」


〇 ビジネスホテル・外観

片岡のN「筒井は事件翌日の朝9時20分過ぎ、長崎駅前のホテルで捜査員に身柄を確保されたが、「偽名」で宿泊していたという」


〇 2本の包丁(出刃包丁と洋包丁が各1本)

片岡のN「被害者の血のついた包丁は、この時に筒井が持っていたウエストバッグの中から見つかっている。さらに筒井のコートやジーパン、靴にも被害者の血がついていた」

〇 手帳と財布(※質素なものだと思います)

片岡のN「しかも筒井はこの時、久江さんの手帳と美都子さんの財布を持っていたという」


〇 判決文を読んでいる片岡(イメージ明け)

片岡のN「これだけ証拠が揃えば、無罪判決はありえないとわかりそうなものだが…」


〇 福岡拘置所・筒井の居室

  筒井、机で便せんにボールペンで何かを一心不乱に書き綴っている。

片岡のN「筒井はまだ控訴審での逆転無罪をまったく諦めていなかった」


〇 筒井から片岡のもとに届いた手紙(封筒)

片岡のN「面会した数日後に届いた手紙には、私が面会に訪ねたことへの感謝のほか、2つの「頼みごと」が綴られていた」


〇 筒井から届いた手紙を開封し、仕事部屋で読んでいる片岡

片岡のN「1つは、“N君(※)”という男性の住所を調べて欲しいということ。もう1つは、無実の主張を綴った“22枚の手紙”を2部ずつコピーして欲しいということだ」

クレジット「※原本では実名」


〇 郵便ポストにA4判の筒井宛ての封書を投函する片岡

片岡「“N君”の住所を教えて欲しいという頼みは断ったが、4回に分けて送られてきた“22枚の手紙”はコピーし、返送した」


〇 仕事部屋のデスクに積まれた筒井からの手紙(=封書)

片岡のN「すると、筒井はこれ以降も自分の主張を綴った便せんを次々に「コピーして欲しい」と送ってきた。コピーを送り、自分の主張を伝えたい相手が色々いるようだが……」


〇 筒井から送られてきた便せんの実物

片岡のN「無実の訴えや警察、検察、裁判への不満がボールペンやマジックで便せん何十枚にも渡り殴り書きされた筒井の文章は異様だった。あちこちに蛍光ペンや赤字が使われているのもその印象を強くした」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版11話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 手紙を読んでいる片岡

筒井のN「僕は三女に対し、ちゃんと大切に愛して交際していました。暴力なんてしていません。監禁も支配もしていません」(2013年9月24日消印で送られてきた手紙より)※便せん1

片岡のN「筒井は殺人のみならず、三女へのDVや三女の家族、友人、会社の同僚らへの脅迫メールについても無実を主張していたが……」


〇 福岡拘置所・筒井の居室

  筒井、机で便せんに無実の訴えを一心不乱に書き綴っている。

片岡のN「筒井の主張は思った以上に荒唐無稽だった。事件の真相は要するに「被害者家族による自作自演」だったというのだ」

筒井のN「三女の部屋の荒らされた写真は長女がゴミをぶちまけたり机を裏返したりして、写メって送っています」(前同)※便せん1

筒井のN「三女のアザの写真も11月以降に長女の携帯で作られています」(前同)※便せん1

筒井のN「殺人事件現場には被害者のお二人とは違う、血痕が致る所にあって、その血痕のDNAは、男性型で、僕のDNAとは一致せず、染色体、血液型からF(※)と一致します」(前同)※便せん2

筒井のN「山下父も共犯の可能性が高い。山下父の調書には、犯人しか知るはずのない事も多く語っている」(前同)※便せん3

筒井のN「Fが僕の部屋に入って、僕のコートを触る事は出来る。血をつけられる」(2013年10月8日消印で送られてきた手紙より)※便せん4

筒井のN「三女は「父に殴られた」と言い、山下父は「男に殴られた」と言っている」(2013年10月10日消印で送られてきた手紙より)※便せん5

筒井のN「11月や12月にFが三女のマンションにいたのは、僕を探して、メール歴の『相互協力して殺して埋める』ためだったのだ。(僕を殺して埋めるため。)」(前同))※便せん6

欄外クレジット「※山下さんの長女の婚約者。原本では実名」


〇 筒井から片岡に届いた2冊の大学ノート

片岡のN「さらに筒井からは2冊の大学ノートも「コピーして欲しい」と送られてきた」


〇 同・開いた大学ノート

片岡のN「ノートのうち1冊は無実の主張らしきことが綴られていたが、もう1冊は被害者家族や刑事、検事、裁判官、弁護士、マスコミ……様々な人への怒りや恨みが感情の赴くままに書き殴られていた。内容は支離滅裂で、わいせつな言葉も散見された」


〇 ノートを読んでいる片岡

片岡のN「私には、壊れているとしか思えなかったが……」


〇 筒井から片岡に届いた手紙

片岡のN「筒井は自分の無実の主張に自信があるらしく、手紙で感想を催促してきた」

筒井のN「僕の今までのコピーの手紙などを見て、どう思いました?」「怒らないので正直にお願いします」(2014年2月3日付け消印の手紙より)


〇 郵便ポストに手紙を投函する片岡

片岡のN「そこで、「内容がわかりにくい」「筒井さんに不利な証拠が揃っていると思う」と控えめに感想を伝えたところ……」


〇 筒井から片岡に届いた手紙

片岡のN「案の定、次に届いた手紙では、筒井は明らかに怒っていた」

筒井のN「最初から、僕の書いたものは嘘だと決めて、まともにわかろうとしていないのでは?」

筒井のN「「筒井さんに不利な証拠が揃っているように思っていますが」と書かれていますが(…略…)実際にその証拠を手にして見て、(その周囲の関連証拠も)言っていますか?」(2014年2月13日消印の手紙より)


〇 手紙を読んでいる片岡

片岡のN「実は筒井は過去にも交際した2人の女性に対する暴力やつきまとい行為により大学を停学処分になったり、罰金刑に処されたりしていた。自分の思い通りにならないと、すぐにキレるようだ」


〇 福岡の裁判所庁舎・外観

片岡のN「私は控訴審の公判も傍聴した」


〇 同・福岡高裁第501号法廷

T「2014年3月3日 福岡高裁第501号法廷」

  筒井、上はグレーのトレーナーに黒いダウンジャケット、下は黒いウインドブレーカーのズボンという服装で、証言台の前の椅子に座っている。

  弁護士、弁護人席から質問する。

弁護人「任意同行され、その日のうちに犯人と認めたのはなぜですか」

筒井「脱力感、無気力感がありました」

弁護人「なぜ、そういう精神状態になったのですか」

筒井「唯一頼りにしていた“山下お母さん”が殺されたからです」

片岡のN「筒井の主張では、自分は三女の家族にストーカーに仕立て上げられたが、三女の母・美都子さんだけは自分を信じてくれていたとのことだった」

  筒井、うつむき、嗚咽を漏らす。

筒井「僕は…殺されても必ず、不正や…真犯人は誰かとか…絶対に世の中に出します」

片岡のN「筒井はこの時も本気で無実を訴えているように見えたが……」


〇 T「2014年6月24日、福岡高裁は裁判員裁判の死刑判決を是認し、筒井の控訴を棄却した」


〇 筒井が書いた上告趣意書のコピー

片岡のN「統計上、最高裁で無罪判決が出る可能性はほとんどない。だが、筒井は控訴を棄却されると、今度は最高裁宛てに596枚に及ぶ上告趣意書を書き上げた。その中では、自分が事件の日、その時々にいた場所を緯度や経度まで記し、アリバイを主張するなど逆転無罪への執念は凄まじかった」


〇 福岡拘置所・面会室

T「2015年3月中旬 福岡拘置所」

  筒井と片岡、向かい合っている。

  筒井は笑顔(服装は、黒いMA―1風のジャンパー、作業着風の濃紺のズボン)。

筒井「親も僕が無実だと知っているので、無実を示す証拠を集めるのにめっちゃ協力してくれているんですよ」

片岡「無実を示す証拠とは?」

筒井「携帯電話の基地局の緯度や経度を示す地図とかです」

片岡のN「親も筒井には逆らえず、アリバイ作りのための情報を集めさせられているのかもしれない」


〇 判決文を読んでいる片岡

片岡のN「こうして筒井の異常性はよくわかったが、本当に無罪妄想に囚われているのか否かはまだ判断しかねた。実は筒井は精神鑑定で「演技性パーソナリティ障害」の傾向があり、無実の主張も妄想ではなく虚言だと判定されており、それが正解のようにも思えた」


〇 福岡拘置所・外観

T「2015年7月下旬 福岡拘置所」

片岡のN「本当はどちらなのか……私は本人に直接確認することにした」


〇 同・面会室

  アクリル板越しに向かい合っている片岡と筒井。筒井は、グレーのTシャツに、黒のジャージのハーフパンツという服装。

  筒井は片岡に正対せず、不機嫌そうな表情でやや横向きに座っている。

片岡「主張を書いたものを色々見せてもらいましたが、正直、説得力を感じないんです」

筒井「(わざとらしく驚いたような笑みを浮かべ)えっ、あれが?」

片岡「要するに筒井さんは、本当は被害者の身内の人たちが犯人で、自分はハメられたと主張しているのですよね?」

筒井「(ふてくされたように)それはあんまり関係ないですね」

片岡「では、裁判の何が問題なのですか?」

筒井「アリバイの証拠ですね。僕にアリバイがあるという」

片岡「それもよくわからないんですが」

筒井「(笑顔で、わざとらしく驚くように)ええーっ」

片岡「筒井さんは本気で自分を無実だと思っているんですか?」

  筒井の様子を観察する片岡。

筒井「思ってるとかじゃなくて、そうなんですけど」

片岡「正直、私は筒井さんは「やっている」と思っています」

筒井「わざと曲解しているんでしょう」

片岡「筒井さんは、証拠を捏造されたと言いたいんですよね?」

筒井「違います。そういう質問はいらない!」

片岡「では、どういうことなんでしょうか?」

筒井「質問されたいとも、説明したいとも思ってませんから」

  筒井の様子を観察する片岡。

筒井「……あのお」

片岡「なんでしょうか?」

筒井「横書きの便せん、差し入れてもらえないですかね。無理ならいいですけど」

片岡「わかりました。差し入れておきます」

刑務官「時間です」

  面会室から出ていく筒井。見送る片岡。

片岡のN「面会後、売店から横書きの便せんを差し入れた。しかしこの日以降、筒井から手紙は届かず、面会に訪ねても拒否されるようになった」

▲『マンガ「獄中面会物語」』分冊版11話(作画・塚原洋一、発行・笠倉出版社)より


〇 T「2016年7月21日、筒井は最高裁に上告を棄却され、死刑が確定した」


〇 事務所で『死刑囚の記録』を読んでいる片岡

片岡のN「私は結局、筒井の無実の主張が妄想なのか虚言なのか、結論を出せずじまいだ。真相は「妄想と虚言が半々」あたりのような気もしている」


〇 福岡拘置所・筒井の居室

  筒井、机の前に座り、一心不乱に何かを便せんかノートに書き綴っている。

片岡「いずれにしても、筒井は今も再審で無罪判決を受けることを諦めていないだろう。日々、獄中で無実の主張を書き綴っているのだと思う」


(了)

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