見出し画像

デザインコンサルタントの視点で「論理的思考力」について考える

大企業の新規事業開発を支援するNEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
新規事業をクライアントと共に“共創プロセス”で伴走支援する中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。


人を育てるマネージャーの悩み

今回取り上げるテーマは「人を育てる」です。

僕はこれまでデザインチームのマネージャーをやってきましたが、デザインという職人的な領域で人を育てることの難しさを痛感してきました。(今でもそうですが…)

おそらくデザインの領域に限らず、チームや部署のマネージャーとして人を育てる難しさの壁にぶち当たっている方は多いと思います。その理由の一つに、いわゆるOJTとして仕事をする中で時間をかけてスキルやノウハウを伝える機会が減っている、ということがあると思うんです。

僕が新人の頃は、締切が明日にもかかわらず、先輩からちゃぶ台返しをくらい徹夜でデザインをやり直す…ということがありました。そうならないようにどうやって仕事を進めるべきか、を考える中で仕事のコツみたいなものを体得していったように思います。

しかし今のご時世、そのようなやり方で人を育てるわけにもいかないので、どうしたものか…となってしまいます。
そこで、最近あらためて僕が気づいた、人を育てる上で重要な観点をお伝えしていこうと思います。

OS(オペレーティング・システム)という観点

NEWhのサービスデザイナーは新規事業の企画から実装まで一気通貫して伴走支援するために広範なスキルが求められます。
そのスキルは、コンセプトを立てるスキル、リサーチのスキル、ワークショップを設計・運営するスキルなど…まだ他にもあるのですが、これらのスキルを仕事の中ですべてを“教える”ことは不可能です。
たとえそれらのスキルを少しずつ教えていったとしても、ものすごーく時間がかかります。

では、マネージャーはチームメンバーのどこに着目してなにを伸ばすのか?
着目すべきは、それぞれの“スキルを使って成果を出すためのスキル”です。
ちょっとこれだと分かりにくですね。OS(オペレーティング・システム)と言ったらよいでしょうか。それぞれのスキルがアプリケーションだとすると、アプリケーション群を適切に実行するためのシステムがOSです。

OSとアプリケーションのイメージ

マネージャーは自分たちのチームメンバーが獲得するためのスキル(=アプリケーション)とセットでスキルを実行するためのOSとは何かを定義し、チームメンバーのOSをアップデートし続けるためのサポートをする必要があります。
このOSが定義されてないと、スキル獲得のための時間を膨大に使ったにもかかわらず、適切に仕事の中で使うことができていない…そんなチームになってしまうリスクが高まります。(スキル獲得のための研修はやっているのにチーム力が上がらないというやつです)

コンサルティング・スキル = “論理的思考力”

僕たちはサービスデザイナーとして新規事業開発のコンサルティングをしています。では、コンサルタントのOSはなにか?ということになるのですが、OSとしての核となるコンサルティング・スキル = “論理的思考力”です。

極端な話、論理的思考力を身につければ、様々なスキルは本を読めば身につきます。得られた知識をどうやって応用発展させながらプロジェクトで使って成果を出していくのか、ということが筋道立てて考えられるからです。これが“知識のスキル化”です。一方で、いくら本を読んでも論理的思考力がなければ、知識でとどまってしまい、自分のものにして仕事の成果を出せるスキルにはなりません。

論理的思考力がないと成果が生まれない

大学時代に世界的に有名なデザイナーの先生が「能力のあるやつは、どんな領域にいっても成功する」ということを言っていたことを思い出します。
そのときはそうなのかな?と思っていたのですが、優れたOSを持っている人はたしかにスキルの種類に関わらず、独習である一定レベルのスキルを確実にものにできるのではないかと今は考えています。

論理的思考力とは何か?

前段の話が長くなりましたが、ここからがお話の核心です。
そもそも論理的思考力とはなんでしょうか?もう少し詳しくお伝えしていこうと思います。
いわゆる“ロジカル・シンキング”という言葉が一般化し、それこそロジック・ツリーやMECE(抜け漏れなくダブりなく)などが真っ先に思い浮かぶかもしれません。
これらのキーワードからは、どうしても“自分の頭の中の思考法”というバイアスに引っ張られがちです。しかし、僕は論理的思考力を“人と人との対話”の視点から捉えています。
ちょっと抽象的ですが、僕なりに、論理的思考力を以下の3つの力として定義しています。


  1. 対話の中で得られる断片的な情報から、相手の「思考の世界」を構造化する力。

  2. 自分の考えを構造化し、自分の「思考の世界」を相手に伝える力。

  3. 相手と自分と異なる「思考の世界」を対話しながら共通の「思考の世界」をつくり上げる力。


論理的思考力の3つの力

論理的思考という言葉を聞いたとき、意外と忘れられがちなのが[1]の力です。まず大事なのが、自分の思考ではなく、相手の思考を構造化する力です。それができてはじめて、[2]の自分の思考を相手に正確に伝えられるようになります。そして、共創をベースにしたコンサルティング・スキルにとっては、[3]がとても重要で、対話の中で自分と相手の共通の思考世界をつくりあげる力です。

もし論理的思考力が未熟で専門スキルだけあったとしても、クライアントと思考の世界を共有できていない限り、成果に結びつくことはありません。
どんなに秀でた魅力的なデザインをつくるスキルがあったとしても、“本当にそのデザインは意味があるのか?”という問いに対する答えをクライアントと共有することができなければ、そのデザインは価値のないものになってしまうからです。

思考の世界 5段階モデル

これまで「思考の世界」という言葉を使ってきましたが、少し抽象的でしたので、共通認識を持てるようにフレームワーク化してみました。
それが「思考の世界 5段階モデル」です。

思考の世界 5段階モデル

思考の世界 5段階モデルは、仕事を進める上での共通認識を持つべき基本的な思考の構造です。スコープとするテーマを出発点として、5つのレイヤーでツリー構造になっています。


レイヤー1:“ビジョン”の世界…プロジェクトのテーマの目的・成功状態を言語化したもの。成功状態を実現するための筋道(ロジック)を考えていくための基点となる思考の世界です。
レイヤー2:“価値観”の世界…何をもって成功状態とするのか、その条件を言語化したもの。プロジェクトの成功条件はプロジェクトオーナーやメンバーの立場や価値観によって視点が変わります。
レイヤー3:“ストーリ”ーの世界…成功状態を実現するためのアクションを時間軸で筋道立ててつなげたもの、それが戦略。戦略はアクションリストではなく、成功に導くロジックをストーリーとして語れなければいけません。
レイヤー4:“方法論”の世界
…戦略ストーリーの中に含まれるアクションをどのように実行するか、いわゆる“HOW”、手法の言語化。このレイヤーになってはじめて具体的になにをするのかが共有しやすくなってきます。
レイヤー5:“視覚”の世界
…アクションを実行して生み出されるアウトプット。アウトプットは超具体的に言語化・可視化しやすいので、ここまで具体化されるとメンバー間で“腹落ち感”が生まれます。


思考の世界を他者とつくりあげるのが難しい大きな原因は、1〜3のレイヤー(ビジョン〜価値観〜ストーリー)の抽象度がとても高いため、言語化して共通認識をつくることが難しいからです。
試しにあなたが取り組んでいるプロジェクトで、関わっているメンバー全員に「1〜3のレイヤーをそれぞれ言語化してください」というお願いをしたら、(おそらく)全員がピッタリと同じ回答になることはないと思います。

論理的思考が身につかない原因

論理的思考力が高い人は、この1〜3のレイヤー(ビジョン〜価値観〜ストーリー)の思考の世界を他者と一緒に作りあげることができる人です。
ただ、これがとても難しいです。

レイヤー1〜3は、簡単には言語化しづらく、とても抽象的な思考の世界です。人の頭の中に漠然とした状態で存在している、そんな現象だったりすることが多いです。
このレイヤーの思考は自ら意志を持って取りに行かないと決してつかむことができません。極論、レイヤー1〜3の世界をクリアに意識しないまま、レイヤー4〜5(方法論〜視覚)の具体的な世界で生きることは可能です。しかし、その世界で生きている限り、具体的なアクションやアウトプットにとらわれ、論理的な思考能力を獲得することはできません。

少し話は飛躍しますが、ジョブ型雇用が日本で広がりをみせています。
もしジョブディスクリプションに、レイヤー1〜3を意識せず、レイヤー4〜5の具体的なアクションをしていれば給料をもらえます、というような内容で仕事をしている限り、昇進することはできません。なぜならば、職位を高めて会社の経営層に近づこうとすればするほど、レイヤー1〜3の世界で生きることが求められるからです。
経営的視点で成果を出そうとすると、レイヤー1〜3の世界での論理的思考力が必要、ということを意味します。ビジョン〜成功条件の定義〜戦略ストーリーの流れで、とても抽象度の高いレベルから段々と具体に落とし込んでいくことができる思考力です。

論理的思考の身につけ方

ここまで、論理的思考力を“人と人との対話”の視点で捉えて、お話をしてきました。
最後に、どうやって論理的思考力を身につけるか?というお話をして終わりたいと思います。僕がチームメンバーに伝えているのは以下の5つです。

1. 常に自分は1〜3レイヤー世界の住人になれているのかを意識する。
(具体の世界へ引き寄せる引力は強い)

2. 思考の世界5段階モデルを構築しながら話すことを意識する。

3. クライアントや職位が高い人とは常に抽象度の高い世界で話をすることを意識する。

4. 相手&自分の思考を言語化&構造化する習慣をつくる。

5. 戦略論や社長哲学の本を読む。

1〜3は、意識の問題です。僕はマネージャーとして、チームメンバーに“意識できているか”を常に投げかけるようにしています。(自分自身に対しても…ですが)
4〜5は、チームメンバーとの1on1や日々のコミュニケーションの中でトピックとして話をするように心がけています。

最後に

デザイナーの立場から「論理的思考力」という難しいテーマを取り上げてみましたが、いかがでしたでしょうか?
マネージャーの方だけでなく、これからマネージャーを目指すぞ、という方に気づきや新たな視点をお伝えできたのであれば嬉しいです。
新規事業の開発支援や仕事をする中での気づきやノウハウをこれからお伝えしていきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。ではまた!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?