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母の就活、僕は無職

母)社会にこれだけ、
与えられたって事たいね~

そう言って

母は自分のお気に入りの服を
マネキンに着せた。
(僕の家はスーツ屋だからマネキンがある)

僕の母は今年で65歳
働くことを止めて
年金を受け取りながら
暮らす・・・
いわゆる老後を迎える年だ。

僕の記憶の中の母は
いつも働いていた
いや、働いていない日も
必ず人と会って何かをしており
家に一日居る事はなかった

母の出身は熊本で
幼いころは人の家の屋根裏部屋に住んでたり
水道はなくて井戸水で生活したり
小学校の連絡網では近所の家の人の
電話番号を書いていたそうだ。

母)いつも姉貴のおさがりの服しか着せて
もらえんでね・・・
自分のクローゼットに自分の服を
たくさん並べるのが夢やった

そう言いながら少し寂しそうな母
家のクローゼットには母の服が
100着以上ある。
全てが母にとって夢の結晶なのだろう。

俺)いや、にしても服多すぎやろ!!
100着くらいあるやろ!!売ろう!!

母)もう、着る機会がないもんね・・・

俺)機会もないし、サイズも入らんやろ!!笑

母は、本当に
本当に、本当に、
自分の人生を生き続けた人なんだと思う

自分の憧れの職業に就いて
成りたいと思った人間になって
今は友達と楽しそうに

毎日笑ってる

母の服の一着、一着が
その時の職業の為に着ていた服で
僕を育てる為の服でも
あったと思うと
とても感慨深かった。

メルカリで母の服を売ったんだけど
もちろんの当時の値段の半分にもならないんだけど

母がクローゼットから服を出して
僕が写真を撮って
父が梱包して発送する

母)家族で何かするって楽しいね

と言いながら

俺)それが最後の、この服たちの役割やったんやね~

と言いながら

父)送料、俺もちやん!!俺しか損してないやん!!

と言って笑ってた。

おそらく人生の
一度目の就活は
社会に対して自分が何を与えられるか
なんだろうけど

二度目の終活は
社会に対して自分が何を与えてこれたか
なんだと思う。

母は、宝物をいっぱい手放して
クローゼットには
すき間が空いていたけれど
何も寂しくなる事はない。
もう、十分埋まっているのだから。

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