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『曲線をつかまえて』

週末は映画館へ行っている
それが生活の楽しみであり
それがあるから日々の仕事が頑張れる

そして映画を観た後は必ず本屋へ立ち寄る
買いたい本が無くても
いま売れてる本の情報や
新しく発売した本などを知る為に
ふらっと本屋へ立ち寄る
これも人生の楽しみでもある

そして、ここ数週間は
お目当ての本があったので
頻繁に本屋へ通っていた

しかし何件も本屋へ足を運んだが
その本はどこにも売っていなかった

「売り切れだった」という情報を
SNSでチラホラと目にしていたので
仕方がない…と思いつつも
「売り切れ」と知ると
欲しい。読みたい。の欲望は
より一層、湧き上がっていた

✳︎

週末、いつものように映画を観に行った
その映画は今年ベストだと思える程の
超ストライクで特大ホームランな映画だった

最高の映画を観た後の
あの高揚感は堪らないものだ
映画の余韻に浸りながら
街を歩いてる時間は至福の瞬間である

天気も気分も良かったので
観た映画を脳内で再生させながら
少し離れた本屋まで歩いてみることにした

そして直感的に、そこの本屋に
お目当ての本がある筈だと確信して歩いた

✳︎

初めて訪れる本屋はとても広かった
入り口に「在庫検索機」があったので
そこでお目当ての本のタイトルを
入力することにした

すると画面には
『在庫あり』の表示が出てきた
自分の直感は錆びてないと思った

本が置いてある場所の紙を印刷して
A8番の棚がある場所へ向かった

しかし大きな本屋だったという事もあり
どこを探してもA8番の棚が見つからなかった

仕方がないので書店員さんに声をかけ
印刷した紙を手渡して
棚がある場所を教えてもらうことにした

書店員さんは大きな本屋を
まったく迷いなく最短ルートで
A8番の棚へとスルスルと歩いた

自分はその背中を見ながら
置いていかれないように
急いで後をドタドタと追った

書店員さんが立ち止まった場所には
お目当ての本が10冊ほど
平積みで置かれていた
「あった!」
実際に生でその本を目撃すると
感動的な出会いに感じてしまった

「こちらの本でよろしいですか?」
書店員さんは平積みされていた
一番上の本を取って自分に渡してくれた

ここで自分の心の小ささが出てしまった

その理由は、渡された本の表紙が
グニャっと折れ曲がっていたのだ

本屋あるあるですが
人気の本は平積みされている事が多い
平積みされた本はお客さんに手に取られやすい
お客さんの多くは2段目以降の本を買っていく
ゆえに平積みの一番上にある本は
折れ曲がっている事が多い

「すみません。これ表紙が折れてるので他の本に変えて貰えますか?」

堂々とそう言えばいいのだけど
なんか言えない…
とても親切にしてくれた書店員さんに
それを言うのは何だか悪いと思ってしまい
そんな恩を仇で返すような事は言えなかった
(この場合の仇って何なんだろう…)

また、その本の折れ曲がり方も
『ドーン!』と大胆に折れ曲がっていれば
まだ言いやすかったのですが
表紙の端が2センチぐらい
グニャっと曲がってるだけだったので

これを書店員さんに指摘するのは
器の小さな男だと思われてしまう
そんな自意識も生まれてしまった

しかし、この折れ曲がった本は買いたくない
そんな欲望も全く負けてはいなかった

なので別の方法も考えてみた

とりあえず今は、この本は受け取って
他の本を探すフリをして
本屋をプラプラする
そして、またここへ戻ってきて
折れ曲がった本と綺麗な本を
入れ替えてみようという作戦だ

しかし、そんな浅はかでズルい作戦に
下劣さや罪悪感を感じてしまったので
そんな事も出来なかった

もうここは全てを受け入れて
渡された折れ曲がった本を持ち
レジへ向かい会計を済ませた

✳︎

家に帰って紙袋から本を取り出してみると
やはり本の端はグニャっと折れ曲がっていた
その小さなカーブは不細工に折れ曲がっていた

この中途半端に折れ曲がった曲線は
なんだか自分自身のように思えてしまった

おそらく本屋で売れ残ったであろう
誰にも選ばれることのない
この折れ曲がった表紙の本が
自分自身のようだと思えてしまった

そう思うと、この不細工な曲線が
ほんの少しだけ愛おしくなった

ウェルカム!マイホーム!曲線さん!
そんな小さな小さな出来事でした

それではまたCiao!

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