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「ミスター高校野球」第1話

舞台は夏の甲子園大会決勝

米吉高校(よねよしこうこう)vs前間学園(まえまがくえん)の試合

米吉高校の1年生エース青野春久(あおのはるひさ)は名門の強豪前間打線を9回まで0点に抑えていた。

そして場面は9回2アウト
スコアは1-0で米吉高校がリード
あと1人抑えれば米吉高校の初優勝が決まる。

〈実況〉
『いよいよあと1人!ここまで投げ抜いてきた1年生の青野君。フォアボールで出したランナーがいますが、4番バッターを2ストライクに追い込んでいます。この打者を抑えれば栄光の瞬間が待っています。』

〈実況〉
『振りかぶって…投げた!』

カキーン!

〈実況〉
『打球はスタンドへ一直線!前間学園逆転サヨナラホームラン!なんという劇的な決着!米吉の青野熱投報われず!』

マウンドでがっくりうなだれる青野

〈青野〉
(…このままじゃ…終われねえ…)

そして月日は流れ、

あの決勝戦以降「米吉高校」は毎回県大会を勝ち上がり、
春夏全ての甲子園大会に出場する名門高となっていた。

その要因は「青野春久」の活躍にあった。

投手として春夏合わせて200の三振を奪い甲子園通算記録を更新した。
打者としても春夏合わせて20本のホームラン、高校通算でも150本塁打を放ち、甲子園通算記録を更新し続けている。他にも、勝利、打点、安打、盗塁など高校野球の主要記録を全て更新していた。

そんな異次元の記録を作る彼を人々は「ミスター高校野球」と呼んだ。

そして青野春久3年の夏。
米吉高校は今回も青野の活躍によって県大会を勝ち抜き甲子園大会出場の切符を手に入れていた。

甲子園の舞台でも青野の投打に渡る大活躍により、ついに米吉高校は青野1年生の夏以来となる甲子園決勝へと勝ち進んだ。

舞台は決勝戦前の控え室

米吉高校野球部のメンバーが一同に集まっている。

監督が口を開く。

〈監督〉
「明日の決勝を前にキャプテン青野から一言」

〈青野〉
「みんな、ついにここまでやってきた。前回の春大会、我々は準決勝で惜しくも敗れた。今回はそこを乗り越えついに決勝までたどり着いた。3年生最後の夏、僕にとっては2度目の決勝だ。今回こそ、あのときのリベンジを果たし栄光の瞬間をみんなでつかみ取ろう!」

青野の熱い言葉が室内に響き渡る。

しかし、青野の熱量に反してチームメートはみんなしらけた表情で青野を見つめている。

〈青野〉
「どうした?みんな!もっと熱くなろうぜ!」

〈チームメート〉
「熱くなれって言われても…」
「…なんかね」

そして、甲子園決勝戦が幕を開ける。

対戦相手は前回の春大会の準決勝で敗れた伝来学院(でんらいがくいん)

両校のスタメン選手が入場する。

青野に向かってスタンドから歓声が響き渡る!

〈観客〉
「ミスター高校野球のお出ましだ!」
「初めてミスター高校野球を生で見ちゃった!」
「よっ!ミスター高校野球!今年こそ優勝しろよ!」

観客にとって注目の的はなんといってもミスター高校野球青野春久であった。

一方、スタンドからこんな声も聞こえた。

〈観客〉
「何がミスター高校野球だ!ひっこめ!」
「さっさとやめちまえ!」
「お前の記録なんか認めねえからな!」

なぜか青野春久は高校野球の大スターにも関わらず、アンチが大勢いるのだった。

そのヤジを聞いた青野
〈青野〉
「ハハハ。ミスター高校野球と呼ばれるまでになると、バッシングもついて回るようになるからね。」
〈チームメート〉
「キャプテン…ハート強いっすね…まあこの人はハートの強さだけは誰にも負けないだろうけど…」

決勝戦 ついにプレイボール

試合はロースコアの展開が続き、両校一歩も譲らず0-0のまま9回の表1アウト。

マウンドには絶対的エース青野春久が投げ続けていた。

〈実況〉
『2ストライクから青野振りかぶって投げた。三振!160キロ!いやはや高校球児とは思えない急速です!…まあ青野であれば当然ですが』

〈実況〉
『さあファアボールで出したランナーがいるものの、2アウトとなりました。続いて伝来高校のバッターは4番中岡君。彼は高校通算81本のホームランを放っている高校屈指の強打者です。ちなみにピッチャーの青野は今大会も含め高校野球記録を更新する153本のホームランを打っていますが…まあ彼にしてみれば当然のことなので比べることもないでしょう。』

〈実況〉
『さあ青野投げた!バッター打った!初球打ち!打球は高々と舞い上がって落下点に入った。これは外野フライだ…あっ…外野手が落球!エラーだ!その間ランナーは3塁を周りホームイン!伝来高校9回に先制点をもぎとった!ピッチャー青野なんたる不運!』

その後は、なんとかその1失点に抑えた青野。米吉高校は9回の裏に最後の反撃に出る。
しかし、あえなく2アウトととなり、最後の3番バッターを迎える。

〈実況〉
『米吉高校まさに絶体絶命。しかし、このバッターが出塁すれば、次は4番のミスター高校野球青野が控えている!』

伝来高のピッチャーが投げる。

〈実況〉
『あー!デッドボール!投球が荒れています。ランナー出塁。そして、一発が出ればサヨナラのしびれる場面でこの男に回ってきました。ミスター高校野球青野春久!』

スタンドから歓声とヤジが入り乱れる。

〈実況〉
『荒れ球のピッチャーですが、ぎりぎり内角に決まり3ボール2ストライクのフルカウントです!いよいよ次が最後の一球になるのでしょうか。土壇場で青野がバッターとしてリベンジを果たすのか?ピッチャー振りかぶって…投げた!」

青野空振り三振に倒れる。

〈実況〉
『なんと!ピッチャーの荒れ球がストライクゾーンから外れてボールゾーンに!これには青野も対応できず手を出してしまった!優勝は伝来高校。青野率いる米吉高校は今年も栄冠を手に入れることはできなかった!ミスター高校野球青野春久の夢ここに散る!』

打席でがっくりうなだれる青野

〈青野〉
(…このままじゃ…終われねえ…)

そして、月日は流れ翌年の春の選抜。米吉高校は今回も県大会を順調に勝ち上がり甲子園大会出場の切符を手に入れた。

舞台は甲子園初戦前の控え室

米吉高校野球部のメンバーが一同に集まっている。

監督が口を開く

〈監督〉
「明日の甲子園を前にキャプテンから一言」

そこには青野春久の姿が!

〈青野〉
「みんな、今年もここに帰ってくることができた。やっぱりいいなあ甲子園って。さて、私青野春久は今年も進学試験をボイコットして再び3年生として野球を続けることができた。今年で5回目の留年となったが、その代わり、16度目の甲子園出場することができた。今年こそ優勝し栄冠をつかみ取ろうではないか!」

青野春久はあの1年生の決勝で敗北した屈辱を晴らすために、わざと進学せず留年を続け、今年23歳になるにも関わらずずっと高校球児を続けている恐るべき男だった。

高校生活を8年間続け、春夏合わせて最大6回しか出場できないはずの甲子園をこれまで15回も出続けているので、様々な通算記録を更新しているのは当然なのであった。
(そのため打率や防御率といった通算に加味されない記録は持っていない)

本来プロ野球でプレイするようなポテンシャルの選手が未だに高校球児を続けているため大活躍は当然なのであった。

そんな青野を面白がって応援する人もアンチも彼をこう呼んだ。

「ミスター高校野球」と

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