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「ミスター高校野球」第3話

場面は米吉高校の教室
〈夏美〉
(今日から新学期を迎えて、私もいよいよ高校3年生になったのに気分はどんより。なぜなら…実の兄と同じ学年になってしまったから!さらに追い打ちをかけて最悪なのは…同じクラスになってしまったの!)

教室内で声をかける青野
〈青野〉
「やあ夏美!今日からクラスメートだね」
〈夏美〉
「話かけるな!」

〈夏美〉
(6つ上のお兄ちゃんは、米吉高校の野球部で1年からレギュラーをつかみ、米吉高校を甲子園決勝へと導いた。その後3年間投打に渡り大活躍!私の自慢のお兄ちゃんだった)

夏美が春久に抱きつく回想シーン
「さすが私のお兄ちゃん!」

〈夏美〉
(でも、うちのお兄ちゃんは3年間で果たせなかった甲子園優勝の夢を実現するため、進学試験を拒否して、勉強できるのにあえて留年したの。恥ずかしかったけど、この時はそこまでして夢を叶えようとする姿勢に感動したし、メディアも好意的に報じてくれた。だけど、1年留年するだけで優勝できるほど甲子園は甘いものじゃなかった。あきらめきれないお兄ちゃんは翌年も翌々年も留年し続けた。いい年した高校球児をメディアは面白がって「ミスター高校野球」よ呼ぶようになった[本人はこのネーミングを気に入って誇りにしてるのがタチが悪い!])

〈夏美〉
(兄を甘やかして応援する激甘両親と、ミスター高校野球のおかげで知名度が上がり、留年を認め続ける学校と、勝つためにプロ野球選手レベルのインチキ高校球児を起用し続ける監督による負のスパイラルが永遠に続くなんて…)
〈夏美〉
(そしてついに、6つ上の兄とクラスメートになるなんて…)

場面は再び教室に戻る。

クラスメートが青野を指さしてヒソヒソ話している。
〈クラスメート〉
「見て!あれが有名なミスター高校野球よ」
「24歳と同じクラスになるのか。」
「ウケるー」

〈青野〉
「愛しの我が妹よ、お兄ちゃんはベテラン高校生だから頼りにしてくれよ」
〈夏美〉
「話しかけるなって言ってるでしょ!もう縁を切ったんだから!」

〈クラスメート〉
「あれがミスター高校野球の妹か」
「兄とクラスメートだなんて…ウケる」

〈青野〉
「君は認めなくても、周囲は兄妹と見なしてるよ」
〈夏美〉
「ああ!エスカレーター式に進学せず、別の高校を受験するべきだった。」
〈青野〉
「そこは夏美の不徳の致すところだな」
〈夏美〉
「その頃にはいくらなんでも卒業してると思ったんだもん!」
〈青野〉
「僕は甲子園優勝の夢を叶えるまでは卒業しないぞ!」
〈夏美〉
「そんなの一生できないかもしれないじゃない!おじいさんになっても高校生でいるつもり?」
〈青野〉
「もちろんだ!」
〈夏美〉
「バカね。そのときは衰えては野球なんかできないでしょ!」
〈青野〉
「たしかに!体が元気なうちに優勝しなくては!」
〈夏美〉
「頼むわよ!大学生になって、高校生の兄がいるなんてサイコな状況になるのはゴメンよ」

そして今年も春の選抜が始まった。

前大会まさかの県大会で敗退した米吉高校だが、今年はその悔しさをバネに県大会を勝ち上がり、見事甲子園出場を果たした。

〈夏美〉
「今年は甲子園に行けたわね。よかったじゃない!」
〈青野〉
「うーん。今回は気合い入れてるのに、今ひとつ調子が上がらないんだよな」
〈夏美〉
「気合いを入れすぎると空回りするのお兄ちゃんの悪いとこだわ」
〈青野〉
「でも甲子園で結果を出せばいい。待ってろ甲子園!」

そして甲子園大会が開幕した。

米吉高校は甲子園でもどんどん勝ち上がり、ついに2大会ぶりの決勝へと進出した。

マスコミはミスター高校野球3度目の決勝にして進退がかかるこの試合を注目し、連日報じた。

そして運命の決勝戦

相手は特に強豪ではないものの勝ち進んだ中崎商業。

青野の先発で試合開始。

試合は進み。6-5で米吉高校リードで9回裏2アウト

〈実況〉
『さあフルカウント。最後の一球投げた!三振!ゲームセット!米吉高校悲願の優勝を果たした!』

マウンドにかけよる米吉ナイン。
しかし、マウンドで投げてたいたのは青野ではなかった。

〈実況〉
『ミスター高校野球青野の進退をかけた試合でもありましたが、今大会はピリっとしなかった青野。4回5失点で降板。バッターとしてもノーヒット。しかし、チームメートの活躍によって6点をもぎとり、後続が継投でしっかり0点に抑えました。悲願の優勝を果たしたミスター高校野球。おめでとうございます!』

場面は変わり青野家の豪邸にある会見場

テレビに「緊急会見!ミスター高校野球。ついに球児引退か?」とのテロップが出ている。
会見場には今後の進路を伺うプロ野球関係者の姿も。

青野登場。集まったマスコミに向けて青野が会見席からマイクを握り話はじめる。

〈青野〉
「みなさま本日はお忙しい中ありがとうございます。私青野春久は甲子園優勝を果たしたため、ついに高校球児を卒業………しません!僕がこれまで決勝に出て優勝を果たせなかった大会は、全て夏の大会なんです。今回チームメートのおかげで春の栄冠はつかみましたが。僕にとって甲子園といえば夏なんです!夏の大会を制覇するまでは(…このままじゃ…終われねえ…)のです。早速次の夏に向けて頑張ります!」

そこに夏美が乱入
〈夏美〉
「このバカ兄貴が!」
〈青野〉
「だって今回僕活躍してないもん。最後のマウンドにはミスター高校野球がいないとね」

ミスター高校野球青野春久の挑戦はまだまだ続く。

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