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ありえない仕事術 正しい”正義”の使い方

新しいことはエンターテイメントだ。
この本で行われていることは、まさに新しいことだ。

前半の仕事術を読みたいと思っていた読者に、後半のノンフィクションルポと見せかけたパートを読ませる。もちろん、後半の内容は前半の仕事術とリンクをしている。仕事術なんて通り一辺倒のつまらない栄養ドリンクのような自己啓発本ばかり読んでないで、世の中にある面白い本を読め、と言われているようだ。

本書は、ありえない仕事術「の本」というのが正しいタイトルかもしれない。上記の構成からこの本はありえない構成の仕事術の本となっており、前半の仕事術で語られる「新しいことはエンターテインメントであること」を読者に実感させる。

後半のルポ部分は作者上出さんの実際の仕事を通して、仕事術の実践を振り返ろうという形で始まる。読者は、その通り受け取るだろう。だが、話の途中からこれは事実ではなく、小説であるということに気付かされる。早い人は、作者が本で作るドキュメンタリーのタイトルを検索して気づくだろうし、遅い人は終盤に作者がとるありえない行動を行なっていくことで気づく。しかし、作者の言う通り新しいことはエンターテイメントのため、読んでいるうちにそんなことはどうでも良くなり、本書を一気に読んでしまった。

ルポの中で主人公であるカミデさんは、本書に書かれた仕事術のテクニックを活かしながら、魅力的な番組制作を進める。自分が信じる正しい世界を作るために、誰かの役に立つために。だが、途中から段々と道を踏み外していく、自分の信念を、何のために仕事をしているのかを忘れていく。世の中で働いている我々社会人と同じように。そして、物語の最後にはもう後戻りできないところにまで辿りついてしまう。

書かれている内容はエンターテイメントとして面白くなるように書かれているが、実際に作者がテレビ局の周りを見て感じていた問題意識から書かれた本なのだと思う。いつの間にか仕事に対して個人が持っている正義は変わっていってしまうのだ。

この本で作者が言いたいことは最初に書かれている。単なる仕事術の本ではなく、物語を通すことで皆さんも新たに感じられることがあるのではないだろうか。

ひとつだけ、どうか忘れないでほしい。
何よりも大切なのは心。
目の前の誰かの、あるいは隣の誰かの、
そして何より、あなた自身の心だということを。
〔あとがきにかえて〕より

上出遼平. ありえない仕事術 正しい正義の使い方 (p.4). Kindle 版.

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