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数値化から考える三国志の外交戦略

先週は「中国の歴史4 三国志の世界 後漢・三国時代」(金文京著)を読んでみました。
実は、中国史全体は好きなものの、三国志に特別魅力を感じていませんでした。しかし、本書は三国志を多面的な切り口から紹介しており、三国志がここまで面白いと思ったのは初めてです。
 
特に印象に残ったのが、三国の国力を数値化したうえで、三国間の外交戦略を検証しているところです。
本書によると、三国の国力は魏が100とすると、呉は50、蜀は25になります。
このような場合、どのような外交戦略が有効なのでしょうか。なお、蜀は魏が後漢の天下を奪ったとして、後漢の復興をかかげて設立された国なので、魏と蜀が同盟することはありません。
 
魏としては、呉と同盟すれば魏・呉が150、蜀が25となるため、圧倒できます。同盟しないまでも、魏・蜀が争うときに呉が中立の立場であれば、蜀に対して優位になります。
一方で、呉・蜀が同盟すると、魏が100に対して呉し・蜀同盟が75となり、互角の戦いです。実際、この組み合わせで戦われたのが「レッド・クリフ」赤壁の戦いで、魏は呉・蜀同盟軍にやぶれました。
 
呉としては、魏と同盟すれば上記と同様に蜀を圧倒することができます。しかし、この場合には、蜀を滅ぼしたのち、呉が魏に滅ぼされる恐れがあります。
いや、恐れどころか、実際に魏が蜀を滅亡したのち、魏の後継の晋は呉を滅ぼしました。
もし、呉・蜀の同盟が続いていたならば、魏や晋に対抗でき、呉は存続できていたからもしれません。
 
蜀は魏と同盟できない以上、生き残るためには呉と同盟し、魏と対抗するしか道はなかったのです。
しかし、蜀の皇帝となった劉備玄徳は義兄弟の関羽が殺されたことなどもあり、呉と対立しました。呉は魏と同盟したため、25の国力しかない蜀は国力150の呉・蜀同盟に圧迫されます。
その後、改めて蜀と呉は同盟しますが、その同盟関係は強くなく、蜀は魏によって滅ぼされます。
 
三国の有効な外交戦略を考えていくと(括弧は国力)、
魏(100)は呉(50)と同盟して蜀(25)を滅ぼしたのち、蜀も併せた魏(125)が呉(50)を攻めることが有効でしょう。実際、歴史はこのような流れをたどっていきました。
 
一方で呉(50)と蜀(25)は同盟関係を維持すれば魏(100)に対抗することができ、存続できたかもしれません。事実、両国は同盟することで魏に一時的に圧倒できました。
しかし、両国ともに皇帝を擁しており、やはりずっと同盟を維持することは難しかったでしょう。なお、中国史のなかで2人の皇帝が同盟したのはこの時だけなのです。それくらい異常なことだったのです。
 
つまるところ三国志はパワーゲームの側面も強く、数値化して考えると取れる外交戦略は限られてくるのです。このようなシミュレーションは現代の外交や経営などでも活用できそうです。

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