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ワインを美味しく飲むために知っておくべき3つのこと(3)

3部作のはずが、肝心の3つめを上げるのをすっかり延ばしてしまいました。

「たった3つのこと」などと銘打ちながら、書いてる本人がその「たった3つ」を書くのに2ヶ月以上かかっていては洒落になりません。

もし、もしも、このような記事を楽しみにしてくださっていた稀有な方がおられましたら、ごめんなさい。そしてありがとうございます。


しかし。この2ヶ月ですっかり世界が様変わりしてしまいましたね。

ぼく自身はというと、それまでの仕事を事実上辞めることとなり(遅かれ早かれ辞める予定でしたが)、子どもたちは保育園に行けず家の中でのストレス発散の矛先をぼくら夫婦に向けることとなり(笑顔が増えたかも)、打ち込むべき試験勉強をいったん中断せざるをえなくなった(ちょっとほっとしたかも)など大変なことが続いていますが、結果的にいろいろなことを見つめ直す良い機会になったように思います。

収入はゼロですが(ちなみに昨年のこの時期は留学していたので収入減とは認められませんw)、心のほうはカラカラにならぬよう、なにか小さな楽しいことを毎日見つけられるようにしたいなと思います。


さて前置きが長くなってしまいました。
前置きが長い、ということは、本題に進むのを少し躊躇しているからかもしれません。
それくらい、このテーマは議論が絶えず、そしてあまりにも主観的なテーマです。


家でワインを楽しむために、ぼくが思う、知っておきたい3つのこと

一つ目は温度の重要性でした。そのワインに適切な(それは飲み手であるあなたにとっても適切な温度、という意味でもあります)温度にしてあげることは、少し手間かもしれませんが、お金をかけずに、ワインのポテンシャルを最大限発揮してもらうためにとても重要なことだ、という話でした。

二つ目はワインはいつも同じ味ではない、という話でした。美味しくないなと感じたら、それはあなたの好みかどうかというだけでなく、そのワインの本来の味わいでない可能性があります。そんな時は躊躇せず、お店の人に聞いてみましょう。


そして三つ目は、ワインと一緒に楽しむ料理についてです。


なんの料理と合わせるか、それが問題だ


「問題だ」と言っておきながらあれなんですが、ぼくの結論は「問題ではない」です。

最初にきちんとお断りしておきたいことは、あくまでこの三部作は「家でワインを楽しむ」ことを想定しています。
ですから、プロのソムリエがいらっしゃるようなレストランでみられる、料理とワインのマリアージュ、あるいはペアリングなどといったハイレベルな味の組み合わせについては、ここでは言及いたしませんし、そもそも言及できません。
あくまでおうちで楽しみたい方のために書きたいと思います。

今回も、3つのポイントでお話します。

①そもそもワインと料理の相性とはなんなのか
②ボディとアルコール
③酸味、甘味、タンニン


そもそもワインと料理の相性とはなんなのか

ワインは、ワイン単独で飲まれることよりも、やはり食卓で飲まれることのほうが多いでしょう。ワインは残糖度が少なく、酸味が強いため、食中酒としてその美味しさを発揮してくれるからです。ワインのプロの間では常に「このワインには何の料理が合うか」「この料理を作るならどのワインを開けようか」などといった会話がなされています。それは正解のないワイン談義の中でも一際盛り上がり、楽しいものです。

ワインと料理の相性というテーマは、テレビやネット記事、あるいはスーパーのワイン売り場やネットショップなどでも見かけます。「料理にあわせてワインを選びましょうね」と言わんばかりに。

だから、もしかしたらそれをプレッシャーに感じている方もおられるかもしれません。間違った組み合わせをしてはいけないのではないか、セオリーを外した組み合わせをしたらゲストに笑われるのではないか。もし、あなたが、そんな風に思われたことがあるなら、かのジャンシス ・ロビンソン氏(イギリスの高名なワイン評論家。マスターオブワイン)のこの言葉が、そんなプレッシャーから解放してくれるでしょう。

「飲みもの、食べものの相性には、妙な理屈をこねて、あんまり茶々を入れないほうがいいのです。なすがままが一番。はっきりいって、ワインと食べものの組み合わせはなんでもありなんです。」
『ジャンシス ・ロビンソンのワイン入門 ワインの飲み方、選び方』 1998, 新潮社


ここで少し、ワインのプロという生き物の生態についてお話しさせてください。

ぼくらプロは、料理とワインの相性を見るための食べ方をします。
まずは料理を口に入れて、ひと噛み、ふた噛み・・・
じっくりと味の要素を確認・・・
飲み込む
そしてその余韻が終わらないうちに、間髪入れずワインをひと口。
ワインと、料理の余韻とがうまく混ざり合ったら・・・
おお、これは素晴らしいマリアージュではないか・・!と叫ぶ
と、こんな具合です。
また人によっては、まだ料理が口の中にあるうちにワインを飲むという、いわゆる口内調味をダイレクトに分析する食べ方をします。

さてこの食べ方をしている限り、料理とワインの相性は致命的になります。なぜかというと、口内調味というのは、白ごはんとおかずを一緒に食べるように、二つを足してはじめて完成される味の世界だからです。だから料理とワインの相性が悪いと、1+1が2以下になってしまうのです。逆に、白ごはんと朴葉味噌のように、1+1が10くらいになる奇跡も起きます(こんにちは岐阜育ちです)。

そしてぼくらはこの食べ方、飲み方を職業柄当たり前のようにしていますので、いつしかすごく大事なことを忘れてしまっています。ジャンシスはここにも警鐘を鳴らしています。

「紛れもない事実。私たちは、食べてから飲む、飲んでから食べるというように、食べる楽しみと飲む楽しみに微妙な間をおいているんですね。気づいたことありますか?」
(同上)

どきっとした人いませんか?特にワインに精通している方ほど、どきっとしたかと思います。ぼくもそうでした。

普通の食卓で、つまりワインと料理の相性に意識を向けていないとき、こういう食べ方はまずしません。この組み合わせは合うかな、合わないかな、と意識していない限り、料理を食べたあとに談笑して、喉が乾いたなー、というタイミングでワインを口にする、そういう流れが普通なわけです。だからどんなワインを選んだって間違いではないのです。ステーキにはフルボディの赤ワインがセオリーかもしれませんが、さっぱりした白ワインを飲んだほうが食が進むという人も多いでしょう。魚の塩焼きに赤ワインは難しい、と言われたとしても、あなたが今日飲みたいワインが赤ワインなら開ければいいんです。

少し脱線しますが、口内調味って世界的にはせいぜいこの20年くらいのトレンドなんじゃないかって思います。(ジャンシスの本は1983年に書かれたものです)
日本や、例えばインドのような、いくつもの料理を同時に並べて、それらを食べる人の好みで組み合わせて食べていく、いわゆる定食スタイルの文化がある国ではごく一般的な食べ方だと思います。ですが欧州などの食文化は、料理一つ一つは単体で完成されたものとして考えられるので、提供も一つ一つ順番に出てきますし、横にあるのはせいぜいパンくらいなものです。

とはいえ、そんな日本人でも、こと飲み物に関しては別かなと思います。食べ物が口に残った状態で間髪入れずお茶を飲む、みたいな人ってあんまりいません。それは流し込んでるだけです笑。だからぼくらは「ワインと料理」を合わせよう合わせようとしているうちに、常識的な食べ方から少しずつずれてしまっているのではないか、と思うのです。ワインを必要以上に敷居が高いものと感じているが故の、過剰反応といってもいいかもしれません


要するに、料理とワインには相性がある。確かにある。
でもそれは、積極的な口内調味をしている限りにおいて、です。


考えてみてください。普段の食卓におかずが2種類以上乗ることってけっこう多いですよね。付け合わせなんかも含めたら、4種類か5種類くらいのバリエーションがあることも多々あるかと思います。それらひとつずつに好相性なワインを開けていくなんて、現実的ではないですよね。必要以上に気にする必要はありません。

とはいっても、「あちゃー・・これは合わないな・・」という味の組み合わせに出会うことも多々あるでしょう。日本酒と違って、ワインはじぶんの個性を強く主張しがちですから。

そんなときはどうすればよいか。

ぼくは食卓でワインを飲むとき、ワイングラスと一緒に、必ず水を飲むためのグラスも置いています
水は、口の中をリセットするために欠かせません。ワインと合わない料理があったときに、水をひと口飲んでリセットしてから、単体でワインを飲むためです。(上述したパンも水と同じ役割)

ついでのアドバイスとして、ワインを飲むときは、ワインと同じくらいの量の水を飲みましょう。肝臓への負担が軽減し、二日酔いになりにくくなります。お酒は、良いものを、適度に飲みましょう。

もう一つ、ついでに。「甘口ワインは食中酒じゃない」という意見を聞きます。残念ながらワインに精通した人ほどこういう意見を持ちがちで、ちょっと甘口ワインを下に見る傾向が業界内ですらありますが、決してそんなことはありません。特に優れた甘口ワインの場合、食前酒では癒しを与えてくれたり、甲殻類やフルーツソースなどにも相性がよく、もちろん食後にはディナーの締めくくりとしてこれ以上ないクライマックスを演出してくれるでしょう。そもそも日本人には世界に誇るべき素晴らしい甘口酒「梅酒」があります。食事のときに甘いお酒を飲む文化がしっかり根付いている日本で、甘口ワインを拒む理由はありません


★結論!好きなワインを開けたらいい。相性が良ければラッキー。相性が悪くてもお水がリセットしてくれます。


ボディとアルコール

さて、とはいっても「積極的に相性の良い組み合わせを見つけたい!」という人もいると思います。そもそもこんな記事を読んでいるあなたは、積極的口内調味派といって間違いないでしょう。
料理とワインの相性、組み合わせについては数々の本、ウェブ記事があります。
そしてそのほとんどが、ほぼ同じセオリーを基礎に置いています。
中でも重要なのが、料理とワインの重さです。

・軽い料理には軽いワインを
・重い料理には重いワインを

「軽い重い」ってなに?
ワインには数々の専門用語があり、それが敷居を高く感じさせているクセモノなわけですが、その一番手にあたるのがこのワインの重さ、いわゆるボディです。

ボディはラベルに表記されていることが多く、一般的には
ライトボディ、ミディアムボディ、フルボディという3段階で表示されています。

感覚的に、ライトボディは軽めで飲みやすく、フルボディはこってりとしていそう、という感じですよね。その感覚であってます。全然難しくないです。

例えば野菜や魚を使った繊細な味付けの料理にはライトボディのワインを合わせたり、こってりとした肉料理にはフルボディのワインを、という具合ですね。

※専門的には、ボディは「ワインの密度、粘性に由来する味わいの豊かさ、重さの感覚」と定義されます(The Oxford Companion to Wineより)

ボディを構成する要素は第一にアルコールであり、アルコールが高いものはより重たく、低いものはより軽くなる傾向があります。そのため、ボディ表記がない場合は、アルコール度数を見ることでだいたいのワインの重さが分かります

WSETでは11%未満low-alcohol(≒ライトボディ)、14%以上をhigh-alcohol(≒フルボディ)、その間をmedium(≒ミディアムボディ)と分けています。この基準はとても便利なので、覚えておかれるとワイン選びの際に重宝すると思います。
(タンニンやエキス分、グリセロールなどをボディの一要素と考える方もいますが、それらがボディに与える影響力はそれほど大きくないと思います。糖分が高くてもライトボディなワインは多いですから。こう考えると美味しいノンアルコールワインをつくることがいかに難しい技術か分かりますよね、この話もまたいつかしたいと思います)

日本でワインブームがあった90年代後半は、世界的には(どこぞのワイン評論家のおかげで)フルボディ偏重の時期で、そのせいかフルボディワイン=良いワインという傾向が、日本にはいまだ残っているように思います。これは少し残念なことです。というのも日本の食卓にあがる料理って基本的に軽いので、重いワインだと料理が負けてしまうからです。「ワインって重たい」「ワインって飲みにくい」と思い込んでいる多くの人は、この料理とワインの重さがズレていた経験をしたせいだとぼくは思っています。


「魚には白ワイン、肉には赤ワイン」
「料理の色とワインの色を合わせる」

といったルールのようなルールでもないような話もよく聞きますが、これは日本だけに限らず、ワイン消費の本場ロンドンでも耳にしました。これはあながち間違っているわけではなく、魚料理には柑橘や酢を効かせた味付けをすることが多く、また身質も繊細なので、タンニンのない白ワインが合うという理屈だったり、色が濃いソース、素材は味も濃いことが多いので、果実風味が強くてタンニンのある赤ワインが合う、というのも頷けます。あと「魚か肉か」という分け方よりも、白身(鯛、貝類、鶏胸肉など)には白ワイン、赤身(カツオ、マグロ、牛肉など)には赤ワイン、というほうが近い気がします。それでも実際には、色よりも重さのほうが料理との相性においては重要だと思います。


酸味・甘味・タンニン

ボディとは別に、酸味・残糖度・タンニンも料理との相性においては重要な要素になります。とはいえ、これらはラベルからその度合いを判別することが難しいので、今回はさらっと基本的なことだけまとめておきます。

甘味:料理のほうがワインより甘いと、ワインの果実風味が感じにくくなり、苦味や酸味が際立ってしまいます。みりんや砂糖を多用する日本料理には、やや甘味のあるワインが良いでしょう。すき焼きとドイツのリースリングは個人的なベスト組み合わせです。

酸味:料理に酸味、塩味があると、ワインの酸を穏やかに感じさせてくれます。逆に言うと、ワインの酸味が弱いと、バランスが崩れてしまいます。料理の脂肪分とワインの酸味は良いパートナーです。旨味・塩味・酸味のある塩漬け豚の煮込み料理とザワークラウトなどといった料理には、しっかりとした酸と果実風味のあるアルザスの白ワインが合うのは、納得のマリアージュなわけです(料理の旨味はワインにとってネガティブな要素なので、果実風味の凝縮したワインでないと負けてしまいます)。

タンニン:通説としては、肉のタンパク質がタンニンと結合し、タンニンの感じ方を和らげる効果がある・・と言われていますが、近年では肉料理の塩味こそがタンニンを和らげているのだという説が有力です。タンニンのしっかりとした、果実風味の強い赤ワインなどは、かみごたえのある肉料理と好相性ですね。

すっかり長くなってしまいました。
これらの味の要素はたしかに料理との相性を考えるうえで重要なわけですが、その大前提として、料理とワインの重さを合わせる、という基本があることを忘れないでください。どっしりとした料理に繊細なワインでは水みたいに感じられますし、軽やかな野菜料理、魚料理にコクのある赤ワインではせっかくのお料理が美味しく感じられなくなるでしょう。

最後に、ワインと合わない食材について少し。
まず、よく言われるのが魚卵をはじめとした海産物です。数の子やイクラなどをワインと合わせるのは至難の技ですが、ぼくらには日本酒という強い味方がいますので無理に合わせる必要はないでしょう。
唐辛子由来の辛味があるカレーや四川料理なども相性が良くありません。辛味は五味と違って刺激ですので、舌が麻痺してしまってワインの甘みも酸味もぶっ飛んでしまいます。甘口ワインなども試したことはありますが「まだマシ」というレベルで、細かなワインの表現を捉えることは難しかったです。やっぱり、カレーにはラッシーでしょ!
辛口のワインにとって、チョコレートなどのスイーツも難しい組み合わせです。ベリーやチョコの風味がするからといって、ワイン自体の甘さはそんなに無いので、スイーツを食べたあとにワインを飲むとタンニン汁を飲んでるような味になります。もちろん甘口ワインとは抜群に合います。フルーツを使ったケーキなどには、遅摘みワインやアイスワインなどのフルーツ系のアロマが強い甘口ワインがいいですね。


冒頭にも書きましたが、ワインと料理というテーマには終わりがなく、議論が尽きません。常に新しい発見があり、日々進化している分野でもあります。

今回はおうちでワインを楽しむにあたって「これだけ押さえておけば最大限に楽しめますよ!」というポイントに絞りました。もう一度まとめると、

①料理との相性は考えすぎなくて良い!水があればいつでもリセットできます

②ワインの重さを料理に合わせよう!ボディとアルコール度数で重さを判断

③酸味・甘味・タンニンも重要 ワインとどう反応するか楽しもう


ということでした。いつもながら長い文章にお付き合いくださり、どうもありがとうございました。

少しでも参考になることがあれば嬉しいです。ではまた!

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