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ロンドンで成功している「サステナブル」なワインの売り方

こんにちは、ワイン商えいじです。ご無沙汰でございます。
今回は少し真面目な話からはじめましょう。

ワインの市場は、20世紀後半に世界を席巻した大量生産・大量消費社会の中で、その裾野を大きく広げました。

化学肥料や農薬を使い、効率的かつ安定的に莫大な量のブドウを「生産」できる仕組みをつくりました。それを大手ワイン会社が大量に調達し、高度に機械化された最新鋭の醸造設備で、莫大なエネルギーと資源を投入して、実にスピーディーにワインはつくられます。

大量につくり、大量に消費する。
肥料や農薬、エネルギー、ガラス瓶といった資源は惜しみなく利用され、その残渣として生まれる土壌や河川の汚染、CO2排出といった環境問題には、21世紀に入る頃までほとんど注意が払われていませんでした。

とはいえ、資本主義社会において「企業は利潤を追求するもの」という認識が多数派を占めていたであろうことは疑いようもないことで、企業が生き残るためには環境を犠牲にすることも致し方ないという考えもあったと思います。

しかし現在、限りある資源を浪費することは、将来にわたって永続的に活動することを阻害する「悪」であるという認識が広まっています。その一つが「サステナブル(持続的)」という言葉にあらわれています。

※もちろんサステナブルには自然環境だけでなく、経済的・社会的な持続性も意味することが多いですが、このシリーズの最大の問題意識が「気候変動」なので、自然環境の持続性に焦点を置いています。


いっときの利益のために後世まで禍根を残すような行動をとることは、果たして社会の一員である企業として、正しいことなのだろうか。それは価値あることなのだろうか。

このような反省のもと、今多くの企業が、持続的な経済活動のためにできることは何かを考え、実行に移しています。(もちろんそれが投資家や社会へのアピールになることも動機の一つでしょう)

「大量生産・大量消費」が当たり前の世界を、変えなければいけない。

この考えのもとで、すでに実行に移している企業は世の中にたくさんあります。

今回はその中の一つ、ロンドンを代表するマーケットの一つ、Borough Market(バラ・マーケット)にあるワインショップ、Borough Winesの取り組みをご紹介したいと思います。

参考:
Borough Wines公式サイト
The Drinks Businessで紹介されてた記事(英文)


循環型ワイン販売システム

Borough Winesの一番の特徴は、できるだけ容器を使い捨てしないワインの楽しみ方を提案していることです。

Borough Winesではいくつかの容器オプションが用意されています。

一つ目はリターナブル瓶
一般的なガラス瓶を使用しますが、使い捨てるのではなくリユースすることで、全体の使用量を減らしましょう、というものです。消費者には、空になった瓶をお店まで持ってきてもらうようお願いをしています。バーやレストランといった料飲店には専門の業者が回収にまわります。
ちなみにラベルの紙はサトウキビの搾りかすを原料としているため、生分解性素材です。このあたりも徹底していますね。

すでに購入したことがあり、中身だけ購入したい場合は、オフィシャルサイトで「リフィル」を注文することができます(クリック&コレクト)。ネットから注文して、リフィルしてもらうためにお店まで空き瓶を持っていく。デジタルとアナログの融合ですね。

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二つ目は「VinoTap」と呼ばれるステンレス製の容器で、10リットル入ります。VinoTapにはディスペンサーがついていて、主に料飲店向けに提供されます。これも空になると業者が回収し、洗浄後リフィルされてまた販売されます。同じ仕組みで、ビールの生樽と同じタイプ(Keg)の25リットル入りもあるようです。

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さて肝心の中身のワインはどうするのか。
ここも彼らの仕組みで注目すべきポイントで、ワイナリーからバルクで直接輸入しているのです。

自らが輸入者となり、ワイナリーと交渉し、バルクという最も輸送効率が良い手段を使うことで、環境負荷の低い仕組みを確立しています。
もちろんある程度のボリュームが捌けないとできない仕組みですが、一度軌道に乗れば品質にこだわったワインを独自に扱えるのが大きなアドバンテージとなります。

この、消費地で瓶詰めする仕組みは、海上輸送時の環境負荷を大きく減らしてくれるという点で、注目されています。Vine & Wineによれば、20フィートサイズのコンテナで輸送できるワインの量は、瓶詰めされた状態で10,584リットルなのに対し、バルクだと24,000リットルと2倍以上になるそうです。

今までは大手スーパーマーケットやビールメーカーなどが用いる「大量生産・大量消費」ワインのための手法と考えられてきたバルク輸送ですが、Borough Winesのような中小規模のワイン業者でも十分に実現可能な仕組みだということが分かります。

さらに、リユース可能な瓶やVinoTapを使うことで、ガラス瓶の全体の使用量も削減することができます。もちろんバルク輸送に使う容器も、繰り返し使用することができます。このBorough Winesが確立した仕組みは、循環型ワイン販売システムだと言えるでしょう。

今のところ、ワインの保存能力という点でガラス瓶は最も優れた容器だと考えられています。ただ、ガラス瓶は製造時・輸送時の環境コストが大きいとも言われています。それをゼロにすることは難しいですが、この循環型システムを導入するワイン業者が増えれば、減らしていくことが期待できるのではないでしょうか。日本でも、この仕組みを実現させたいですね。

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