ワイン雑記 タンニンとは何ぞや
みなさんこんにちは、気づけば5月ももう終わりに差し掛かってますね。
予定ではノンアルコールワインについてお話しするはずでしたが、今朝起きてからずっとタンニンのことが気になってしまい調べ物をしていました。朝からタンニンが気になるようなやつはちょっとどうかしてます。
で、なんとなく自分の中で「そっかー」と納得できるところまで来たので、雑記という形ですが(落合陽一さんの日々短文雑記の真似です)共有したいなと思いました。あまり実生活に役立つお話しではないですが、知的好奇心の一つとして聞いていただけたら幸いです。
ワイン、とりわけ赤ワインにはタンニンはつきものです。つきものというか、代表的な成分ですよね。でもタンニンって実はすごく漠然とした言い方なんです。
タンニンいろいろ
タンニンを広辞苑で調べると
「五倍子(ふし。虫こぶのことで、虫の刺激によって植物がタンニン酸を集中させて葉が膨らんでいる部分こと)などから得た液体を蒸発乾個して製した黄色の粉末。主成分は加水分解で没食子酸(もっしょくしさん)などの多価フェノール酸を生じる混合物。水溶液は酸性。収斂剤、また、インク製造、なめし革剤、媒染剤などに使用。」 (広辞苑第7版)
とあります。正直最初の「ふし」の時点で心折れそうになりました。日本人35年目でまだ読めない漢字がこんなにあるなんて。
だいぶ噛み砕いて言うと、タンニンは有機酸の一種で、植物がもっている防御機能だと言えます。広辞苑では「ふし」というヌルデの葉を攻撃するヌルデシロアブラムシの話にフォーカスしてますが、植物全般に見られる有機酸で、ブドウにももちろんあります。タンニンが収斂味(astringency)をもっていて、決して「心地よい」感覚ではない理由はこのへんにありそうですね。
ちなみにこれ、なぜ広辞苑がヌルデの「ふし」にフォーカスしてるのかって考えたんですけど、どうやらこの黄色粉末は江戸時代には染料、とくにお歯黒の着色料に使われていたそうです。広辞苑の誕生は大正だそうですから(wiki調べ)、日本でのタンニンの主な用途は、染料だったという歴史的な背景があるのかな、とぼんやり思います。
つまり、タンニンはいろいろ用途がある、ということですね。
そして、見る人によってタンニンは何なのかが変わってきそうです。
さらに「タンニン」と一括りにしていますが、その成分はいろいろありそうです。
ここからはヌルデではなく、ブドウにフォーカスしましょう。
ようやく伸び伸びと読めますね!
ワインの中のタンニン、その原点
最初に、話を理解しやすくするために、用語の定義についてきちんと整理しておきましょう。
タンニンは、ある「単体」の化学物質ではなく、あらゆる化学物質の「集合体」と考えてください。
そしてその集合体にもいくつかバリエーションがあります。
また、ここでいう「化学物質」とは、ポリフェノールと呼ばれるグループたちです。
ワイン中に含まれるタンニンのことを、ぼくらはPigmented Tannin(色素の沈着したタンニン)と呼びます。
このpigmented tanninは、
①ブドウ由来のポリフェノール類
┗プロアントシアニジン(Proanthocyanidin) ←あとで解説します
┗アントシアニン(anthocyanin) ←色素沈着のキープレーヤー
┗カテキン(catechin) ←色素はない
など
②主に樽材などから溶け出す加水分解性タンニンという有機酸
┗エラグ酸(ellagic acid) ←これはブドウ中にも多く含まれる
┗没食子酸(もっしょくしさん、gallic acid) ←読めんわ
これらポリフェノール類と有機酸が、ワイン醸造・熟成のプロセスの中で化学反応を起こして結合したものです。
・・・ついてきてますか?大丈夫でしょうか?
つまり、一般論で言うところのタンニン(タンニン酸)は「植物の中にあるよ」と言われているけれど、ぼくらがワインの話をするときのタンニンの大半は、ワインをつくる過程の中で生まれる「より大きなかたまりのタンニン」というわけです。
この上の仕組みを理解していただければ、70%はクリアといっていいでしょう!(なんの)
タンニンという集合体にはいくつかのバリエーションがある、と言いました。
ワインにとって大事なタンニンを3グループ挙げます。
一つ目がPigmented tannin、二つ目が加水分解性タンニン(Hydrolyzable tannin)、三つ目がプロアントシアニジンです。
プロアントシアニジンは単体の化学物質というよりも、グループ名と捉えるほうが正しく、ワインの世界では縮合タンニン(condensed tannin)とも呼びます。
このプロアントシアニジンはブドウの葉や茎、種などに見られます。
ちなみに。プロアントシアニジンの定義はなんぞや。
ぼくの理解では「Catechin、EpicatechinといったFlavan-3-ol(フラバノール)類を主としたフラボノイド類の多量体で、ある条件下でアントシアニジンを放出するもの」ですが、この話を掘り下げるとこのページからの離脱率が劇的に上がりそうなので、もうこのへんにしておきます。
大事なことは、植物の中で、すでにいろいろな形でポリフェノールが存在しているってことです。
そしてそれをワインにする過程でも、より複雑な化学反応が起きている、ってことです。
話がここまでくると、「ポリフェノールって何?体に良さそうだけど?」「フラボノイドって何?ガムだよね!」という疑問にもお答えする必要があるかと思いますので、ざっ!とポリフェノールについて教科書的なことをお話ししましょう。
ワインにとって大事なポリフェノールは山のようにあります。
ポリフェノールにはフラボノイドとノン・フラボノイドというサブカテゴリーがあります。
フラボノイドにはアントシアニン、アントシアニジン、カテキン類、ケルセチンに代表されるフラボノール類などがあります。
ノン・フラボノイドにはレスベラトロールに代表されるスチルベン、桂皮酸(cinnamic acid)や没食子酸などを含むフェノール酸類などがあります。
ここまでが、ぼくが今朝気になってたところです。
お付き合いくださり、どうもありがとうございました。
頭の中できちんと整理できていないなー・・と思い、いくつか専門書を読んでまとめてみた次第です。
さて、せっかくここまでお付き合いくださった特異な方のために(失礼)、少しでもお役に立てそうなお話しをしたいと思います。
タンニンの役割、そしてワインテイスティングでのタンニンの感じ方です。
ワインにおけるタンニンの役割
(注:以下、赤ワインのみに話を限定します)
みなさんご存知の通り、タンニンには抗酸化作用があり、ワインの熟成能力に大きく寄与しているもの、というのが一般的な認識です。他にも色素の安定にも一役買っています。
ですが今読んでいただいた通り、タンニンにもいろいろな形があり、それぞれの分子量、化学的性質によって特徴が異なります。
さっきからちょいちょい見かけるカテキンは、タンニンの最小版と言ってもいいでしょう。お茶に含まれるカテキン、あれにも渋み、収斂味を感じますよね。カテキンは植物の中で病害から身を守る機能を担っているため、病害の多い産地ではより多く分泌されることが分かっています。
このカテキンのように比較的分子量の小さいタンニンは、ワインテイスティングにおいては収斂味というよりも「苦味」に近い感じ方をします。
対して分子量の大きなタンニンは、口中での存在感が強いためか、収斂味(ぎしぎしとする感覚、astringent)を感じる傾向にあるようです。
しかし、完成されたワインでのタンニンの感じ方は、この限りではありません。
なぜならタンニンの性質は、赤ワインにとって最も重要なファクターの一つであり、ワインメーカーによってその扱い方が千差万別だからです。
タンニンの性質(nature of tannin)とは具体的にどういうことか。
例えば、
タンニンはギシギシとしていて、荒々しく感じられるのか?
タンニンは滑らかでシルクのように感じられるのか?
あるいは細かい砂のようにさらさらとしているのか?
こういった、タンニンの量ではなく、その感じ方・テクスチャーのことを指します。
タンニンの性質が変わると、味わいはまったく変わります。
よくボルドーワインは「渋くてすっぱい」などと批判されますが、熟成と共にタンニンは性質を変えて、飲み頃になるとタンニンは柔らかく、シルキーになり、ワインに神秘的な何かを感じてしまうほどの魅力を携えることもままあるほどです。(これはタンニンの重合が進み、オリとして沈殿するためと言われています。しかし最近の研究で、熟成過程では重合だけでなく分裂も進むことがわかりました。熟成によって味わいがまるくなる理由は、未だその全容が掴めていないといっていいでしょう)
じゃあ熟成させないと美味しくならないの?
かつてはそうだったのかもしれません。
でも1980年代から90年代にかけて、この「タンニンの性質」をいかに良くするかが広く研究されました。マセレーション(醸し)や樽熟成中の作業を見直すことで、若いうちからでもタンニンの性質をより細かく、滑らかに仕上げる技術が発展してきました。おかげでここ最近のファインワインには、早いうちからでも美味しく楽しめるものが多いのです。
タンニンを嫌がる人は実際多いですが、それは生物学上当然のことです(植物の防御機能ですからね)。
その一方で、赤ワインにはやはりタンニンが必要不可欠です。タンニンこそが赤ワイン特有のテクスチャー、口の中での感じ方を形作ってくれているからで、それがワインの美味しさに直結します。
だから、ワインを楽しむぼくらにとって、タンニンの一番の役割は結局これなのかもしれません。
では、もうちょっとテイスティングの部分にフォーカスしてお話ししようと思います。
ワインテイスティングでのタンニンの感じ方
実際のワインテイスティングで、タンニンはどう感じられるのでしょうか。
マスター・オブ・ワインのNick Jackson氏は、タンニンの構造を①レベル ②性質 ③口の中で感じる場所 の3つに分けて解説しています。(参考:"Beyond Flavour")
③は正直個人差があると思いますので、ここでは①と②についてお話しします。
まず①レベルについて。
これは単純に「タンニンが多いか少ないか(つまり量)」です。
タンニンのレベルは品種によって異なります。
しかし、実際にワインと向き合うと、同じ品種でもまったくタンニンのレベルが違うワインが山のようにあることに驚かれると思います。
これはタンニンだけでなく、例えば酸のレベル、風味の強さ、アルコールの高さにも同じことが言えます。
同じモナストレルという品種を使ったワインでも、バレンシアに見られる(MC法を使った)タンニンのほとんど無い飲みやすいワインもあれば、フランスのバンドールで作られる数十年の熟成にも耐えられるほどの頑強なタンニンを持つワインもあるわけです。
つまり、タンニンのレベルは、品種だけによるものではなく、その産地の気候、そしてワインの作り方にも依存するのです。
タンニンの量が多いと、口が乾くような感覚を覚えます。この乾く感覚が強いか弱いかで、タンニンのレベルを測ることができる・・・と、されています。
しかし実際はタンニンのレベルだけではその感じ方を一口に説明することは難しいです。
そこで、②タンニンの性質が重要になってきます。
タンニンは厳密には「味覚」ではなく「触覚」によって感知されるものです。もちろん嗅覚でも分かりません。
なのでその表現は、自ずと「硬さ」だったり「大きさ」だったりします。
WSETテイスティングでよく使われるのがこのあたりです。
硬さを表す表現・・・soft / hard tannin
(粒の)大きさを表す表現・・・fine-grained / coarse / sandy tannin
生理学的成熟度を表す表現・・・ripe / bitter / green / stalky tannin
(これらはぼくの独自の分類です)
特に3つ目の生理学的成熟度(Physiological ripeness)は重要なポイントで、ワインメーカーとブドウ栽培家ともに非常に注意を払っているところです。
これはブドウをいつ収穫するのかというとても大事な判断材料の一つです。
従来、ブドウの収穫のタイミングとは、ブドウの糖度、酸度、pHというもっともシンプルな尺度だけで行っていました。しかし、アントシアニンをはじめとするフェノール類がワインの最終的な味わいに大きく影響を及ぼす、ということが広く理解され、ブドウの果皮や種(さらに茎)の色・成熟度(硬さ、風味などで判断)にも注意が払われるようになりました。
(糖度と生理学的成熟度との関係はとても面白いテーマなのでまた掘り下げたいです。アルコールが高いのにピラジンの香りがするカベルネ、とかね)
これによって、現代では「タンニンは豊富なのに、とても滑らか」というまるで矛盾したような味のワインができるようになったわけです。すごいですよね。
よく熟したタンニンは、茎っぽさ・青っぽさがなく、甘く感じられるのです。
はい、いかがだったでしょうか。
雑記と言いつつ、結局また5000字を超えてしまいました。。これでもまだまだ書きたいことが残っているのですが、それはまた、いつかのためにとっておくことにします。
この長文の中に一つでも、あなたのお役に立てることがあったなら嬉しいです。
それではまた!
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