「テロリストの娘」だろうが「戦前回帰論者」だろうが発言権があるのが日本。だからこそ次の時代の希望を描ける。
トップ画像は『報道1930』のYouTube動画より
BS-TBSの『報道1930』に、重信メイ氏が出演したことが、一種の国際問題にまでなっています。
ご存知の通り重信メイ氏は、日本の新左翼グループの日本赤軍の元最高幹部の重信房子氏の娘さんです。
重信房子氏が所属していた日本赤軍というのは、1970年代から1980年代にかけて世界中でテロ活動を行った団体で、有名な事件としては1972年の「テルアビブ空港銃乱射事件」や1973年の「ドバイ日航機ハイジャック事件」などがあります。
つまりは、大きく言えば「イスラエルvsイスラム側テロリスト」という枠組みで言えば後者を代表する存在なわけで、その重信房子氏を団塊の世代の日本人がある意味無邪気に「自分たちのアイドル」的な存在として持ち上げる事に批判はもともとあった。
特に今回のイスラエルvsハマスの戦争は非常にセンシティブな情勢なわけで、そこで重信メイ氏が「識者」としてキャスティングされるという事について、一応批判する人がいるのは理解できる。
例えばイスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使が明確に抗議をしていて、動画で見ると凄い剣幕です。
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で、そりゃね、「今まさにこのタイミング」でイスラエル人が怒るのはわからないでもない。私自身も重信房子氏をやたら持ち上げる団塊の世代の無邪気さには常々反感を持っているし、重信メイ氏の発言内容にもあまり賛成できない。
ただ、重信メイ氏がテレビで発言できる事自体は、結構大事なことだと私は思ってるんですね。
なぜなら重信メイ氏が番組で語ったような発想が、むしろ「当然の普通の見解」だと感じる人が人類社会には10億人とかいうレベルでいるし、欧米のインテリの内部でもそういう感覚の人は少なくないからです。
人類社会の約4分の1はムスリムで、80億人時代とすれば20億人近くはいる。もちろんこの問題についての見方はムスリムでも色々あるでしょうが、例えば半分の10億人は重信メイ氏の発言を「スタンダード」な見解だと思っていてもおかしくない。
人類社会における「欧米」のシェアが年々減少し続ける21世紀のこれからにおいて、「グローバルサウス」とちゃんと向き合っていくためには、重信メイ氏が自由に発言できる環境というのはそれ自体凄く重要なことなんですよ。
そして、ここからがもっと重要なことなんですが、「非欧米のローカル社会の細部の事情を理解せずに欧米基準で断罪しまくるムーブメント」に対して苦々しい思いを持っている人は、われわれ日本人自身だって当てはまるわけですよね?
そういう意味では、例えば大日本帝国に対して「ナチス扱い」されると反感を持つムーブメントみたいなものも、実は「同じ構造の中にいる」問題なんだと捉える事がこれから必要なんですよ。
「欧米」が人類社会の「ほんの一部に過ぎない」存在になっていく時代に、それでも欧米的な理想が吹き飛んでしまわないようにしたければ、上から目線で断罪しまくるのをやめて、
「欧米的理想」と「非欧米社会が持つ意地やメンツや細部の事情」をいかに溶け合わせられるか?
…というのが最大の課題になってくる。
そういう意味では、重信メイ氏も自由に発言できるし、ある種の日本の「戦前回帰論者」みたいな人も自由に発言できる日本のこの状況を守り続けることが重要なんですね。
なぜならそういう「欧米基準で”善”と”悪”を分けて片方を排除する磁場」が壊れている事自体が、むしろ21世紀のこれからの時代における日本の最大のアドバンテージだと言えるからです。
そういう視点でこの問題について掘り下げる記事を書きます。
(いつものように体裁として有料記事になっていますが、「有料部分」は月三回の会員向けコンテンツ的な位置づけでほぼ別記事になっており、無料部分だけで成立するように書いてあるので、とりあえず無料部分だけでも読んでいってくれたらと思います。)
ちなみに、僕自身、このTBSの『報道1930』という番組に二週間前に出演してるんですが、その時の様子を以下にまとめています。
確かに「左翼的」な番組の方向性は基本としてありますが、それほど教条的というわけでもなく、スタッフさんはかなり柔軟に問題そのものを解決に向けて多面的に見ていこうという気概のある人達でした。
そういう意味では、ハマスの信じられない蛮行の印象が世界中を駆け巡っている段階で、「ある種のパレスチナ側の素朴な意見」を語る存在を一人設定しつつ、残り二人のコメンテーターがその行き過ぎを静止するという構造には、それなりの妥当性があったのではないかと思っています。
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1●重信メイ氏の母、重信房子氏とはどういう存在か?
まず本題に入る前に、重信房子・メイ親子って誰?というレベルの人も若い人には結構いると思うので、予備知識的な話についてまとめます。
重信房子氏は、さっきも書きましたが世界中でテロ活動を行っていた「日本赤軍」という新左翼グループの幹部で、同時に団塊世代の日本人にとってはある種のアイドル的存在だった人です。
以下が著書の書影ですが、ちょっと椎名林檎さん的なアナーキーな魅力がある人で、当時の若者から人気があったのも一応理解できますね。
ただ、「椎名林檎みたいなアナーキーで魅力的」とか軽く言ったものの、「日本赤軍」のテロ活動は本当にガチでヤバいテロをいくつも起こしています。
さきほど触れた「テルアビブ空港銃乱射事件」とか「ドバイ日航機ハイジャック事件」だけでなく、ウィキペディアの一覧を見ると他にも石油精製施設を襲撃したりフランスやアメリカの大使館を占拠しては人質交渉を行ったり三井物産の重役を誘拐して身代金を要求したり、僕も知らなかった事件が沢山あって驚きました。(ご存知ない方は一度見てみると良いかと)
上記の事件群に重信房子氏がどこまで関与しているかはわかりませんが、御本人は2000年(平成12年)に大阪に潜伏していたところを逮捕されました。
その後、オランダ・ハーグのフランス大使館占拠事件への関与の罪で起訴され、有罪となって服役していたんですが、つい去年出所して、今は時々日本の左翼系のイベントに出て発言されているニュースを見ます。
一方で娘さんの重信メイ氏は重信房子氏とパレスチナ人活動家との間の子で、レバノンで大学卒業後、2001年から日本国籍を取得して日本在住のジャーナリストになっています。
重信メイ氏の発言を全て把握しているわけではないですが、今は重信房子氏本人ですら「暴力によるテロ行為」については反省する発言をしている事から、例えば日本赤軍のテロを賛美しているとかそういう事ではないと思います。
ただ、「中東のイスラム圏育ち」としての平均的な感情として、イスラエルvsパレスチナにおいてはパレスチナ側の心情を強くもっており、イスラエルがパレスチナに対して行ってきた事を考えると、「ハマスだけを責める事はできない」という程度の発言をするタイプの人ということですね。
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2●テロリストか?それともゲリラか?
「元テロリストが偶像になる」事について、それ自体問題だという人もいますが、個人的にはチェ・ゲバラのTシャツとかそこらじゅうで見かけるんで、その事自体は別にいいと思うんですよ。好きな人を偶像化して好きな人にコミットして生きれば良い。
で、ゲバラと比べてみると明らかなんですが、こういう左翼運動の活動家は自分たちの事を「テロリスト」とは呼ばないんですよね。例えば「ゲリラ」とか言う。
「テルアビブ空港銃乱射事件」も、たまたま居合わせただけの民間人が26人殺害され、80人が重軽傷を負ったわけで、これはある意味で紛れもない「テロ行為」ではある。
一方で、活動家の間ではこの事件は「リッダ闘争」と呼ばれ神格化されていて、この「事件の呼称」自体がその人の「立場」を表しているところがある。
で、私自身はこれは「テロリスト」だと思うタイプの人間なんですが、問題はこれが「英雄的行為(ゲリラ)」だと考える人が人類社会には10億人単位で存在していて、その「発言力」は年々増してきているってことなんですよ。
だから、「こういうのはテロだし許されないよねという合意を作っていく」ためにも、「これがゲリラという英雄行為だと思う人」の「気持ち」自体はある程度汲み取った対応をしていく必要が出てきている。
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3●中東の人の「謎の日本への好感」のうちの一部はこの日本赤軍による部分はある
これは中東ではないですが、私は学生時代に旧ユーゴスラビアに旅行した事あるんですが、米軍に爆撃されて橋が落ちたままの街で、
…とか言って靴かなんか買った時に凄い安くしてくれた経験があるんですよね。
中東は出生率が高くてどんどん若返っていくので、20年前とは状況が変わってきているところはあると思いますが、中東でも上記の僕の体験みたいな事はしょっちゅうあったらしいです。
つまり、一世代前ぐらいの中東において、日本がそれなりに「欧米とは違う好感」を持たれていた部分にも、こういう「イスラエルvsパレスチナ」においてパレスチナ側に立って戦った人々の印象や、あるいはそういう人たちを好意的に解釈している多くの日本人の存在があったのは疑いない。
もちろん、アフガニスタンにおける中村哲医師のような献身的な活動もあったでしょうし、欧米のように「上から目線で断罪してこない」中で実質的な援助を行っていくような態度が好感されていた面も大きい。
で、この「日本は欧米みたいに上から目線で断罪してこないから共感できる」みたいな「非欧米」のいわゆるグローバルサウス側からの感覚って、これからの人類社会において凄い大事なはずなんですよ。
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4●「ヤンキー(不良)の気持ちがわかる優等生」の道を日本は歩むべき
そういう「日本ならではの道」のことを、私は昔の本で「ヤンキー(不良)の気持ちがわかる優等生」の道って呼んでるんですね。
要するに、今の人類社会にとりあえずの秩序を与えるために「先生=欧米」が何らかの仕切りを行っていくのは、ある意味仕方がない面もある。
一方で、そういう「先生」のやり方が欧米中心的である意味一方的な断罪を含んでいる事は避けられない。
「人類社会における欧米のシェア」が下がり続ける21世紀には、その「上から目線の断罪性」を放置したままでいると「欧米的な理想や社会の仕切り」自体が吹き飛んでしまいかねない状況になる。
そういう時に、
こういう存在↑こそが、これからの人類社会においてメチャクチャ重要なんですよ。
それが「ヤンキー(不良)の気持ちがわかる優等生」ね。
もちろん、これは「裏切り者」扱いされる可能性もありますよ。
一緒にゲーセン行こうぜ〜って言われても「ごめん、俺今日勉強しようと思うから」とか言ってたら「俺たちの仲間」扱いはされづらいよね。
でも、そうやって普段「馴れ合う」感じじゃない優等生風に生きているけど、「先生側の一方的な言い分」に対して、「そこはさすがに言い過ぎだと思います」とか是々非々で言ってくれるとか、あるいは「気持ち」を共有してくれていて時々小さな逸脱を一緒にやってくれるとか、そういう「ヤンキーの気持ちがわかる優等生」という軸を愚直に守っていけば、それは両者から必要とされる存在になっていくはずだと思います。
重信房子氏をやたらアイドル化する風潮には自分は反対なんですが、「そういう心情も排除されない国」であるという事は、この「ヤンキーの気持ちもわかる優等生」の道を模索していく上で非常に大事なんですね。
そして、「グローバルサウス」と「欧米」の対立が激しくなっていく今後、「欧米とは違う日本ならではのコミュニケーションの形」もそこから出てくるはずなんですよ。
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5●欧米的な理想とシステムに対して、非欧米にどう「納得」してもらうのか?
この問題をもう少し掘り下げると、要するに「欧米におけるスタンダード」的な発想や仕組みや理想像があった時に、それ自体は結構誰にとっても良いものが含まれてるはずなんですよね。
ただ、それをいかに「非欧米諸国の人」に「納得」してもらうかについて、20世紀と比べると何万倍も丁寧に考えないといけない時代なんですよ。
そのためには、「非欧米における事情」っていうのをもっと高精細に理解した上で、仕組みを運用していく事が必要なんですよね。
↑こういうのを多面的にちゃんと理解した上で、「そうは言ってもハマスの今回のテロは許せない」「一線を超えている」と言うのはわかる。
ただ、こういう事情を一切理解せずに、「ハマス=悪」「パレスチナ人どもは許せない」「イスラエル可哀想」みたいな感じに断罪していくと、パレスチナ人に限らず世界中のムスリムが「はあ?ふざけんな」という感じになってしまう。
ここで重要な発想だと私が思うのは、
その「パレスチナ側の人々の気持ち」について、日本人の私たちは、「戦前の日本」に対してある意味で一方的な断罪をされる時に感じる反発と同根のものとして理解すること
…なんですよね。
「悪」扱いされるにしても、「事情」を理解してくれた上で、「それでもこれは良くないよね」と言われるなら「納得」もできるが、「事情」ごと否定されて、「歴史の正しい側」とか言われたら「はあ?」ってなりますからね。
そこの部分の「複雑な感情の機微」を身をもって理解できることこそが、欧米にも、そして中国や韓国にも、もちろん「グローバルサウス」にも、決してできない「日本ならではの貢献の道」なんですよ。
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6●「歴史の正しい側」とか言うのやめようぜ
冒頭で紹介したイスラエル大使の人が会見で、「歴史の正しい側」って言ってて、自分はこの表現がかなり嫌なんですよね。
「歴史の正しい側が俺たち」ってことは、「アイツラは歴史の間違った側だ」ということにどうしてもなるわけじゃないですか。
で、「今のタイミングでイスラエル人が言う」事は止められない部分もあるかなと思うけど、ちょっと遠い立場の日本人まで同じテンションに同調してたら解決できるものも解決できなくなってしまう。
さっき言った「ヤンキー(不良)の気持ちがわかる優等生」っていう話と同じで、「先生」は時々断言しなきゃいけない時もあるかもだけど、日本には日本の取るべき態度っていうのがあるってことですね。
さっきも言いましたが、「戦前日本に関する多くの日本人の感覚」と同じなんだ、っていう風に考えるといいんだと思うんですよ。
「戦前日本」について、例えば旧軍があちこちの侵略先で何も問題を起こさず品行方正にしていたとか言う話に同調する人は多くないわけですよね。
でも、超巨視的に見ると、19世紀とかから続く欧米列強の圧倒的な帝国主義的侵略があった中で、「非欧米側」が何らか押し返すには「それぐらいの無理」だって必要だったという視点が欠けていると、凄いアンフェアな批判にしかならない。
大日本帝国という存在なしに、欧米諸国が今のような「一応形の上では平等志向で皆のことを考えている風」になることなどありえなかったわけで。
ただしさらに付け加えると、その程度の「戦前日本の存在意義」を認めることが、別にそのまま大日本帝国軍が東アジアの欧米植民地を解放する正義の軍隊だったとか言う事を主張しているわけでもないですよね。
要するに「歐米帝国という問答無用の圧力」があって、それが非歐米のローカル社会側の細かい問題解決までなぎ倒してしまうから、逆向きにバックラッシュが起きているという現象がある時に。
「そのバックラッシュ自体が欧米的基準から見て悪だ」と言ってるだけで解決するわけないんですよ。
そういう
・「バックラッシュが一線を超えるのは良くないことです」
を非欧米の隅々にまで納得してもらうには、それ以前の
・欧米的システムの押し付けが、解像度が低すぎてローカル社会の細部を適切に扱えていないこと
…に対する反省と、そこにもっと高精細で双方向的に具体的な細部を取り扱える風潮を作っていかないといけませんねという流れを作り出していく責任感が必要なんですね。
戦前日本でいえば、
・それ以前の欧米帝国の圧倒的暴虐を考えると、非欧米側から無理してでもどこかの国が必死のバックラッシュを仕掛ける必要があった
…という、戦前日本という存在の「両義性」の「明」の部分について揺るぎなくちゃんと認められるようになればなるほど、
・そうはいっても相当な「無理」をして押し返そうとしたために、徐々に自分を見失って色々な不幸を生み出してしまった
…という部分だって納得感を取り付ける事が可能になる。細かい被害者の補償問題とか被害認定とかだって安定して行えるようになる。
同じように、
・ハマス(というかパレスチナ人)側が日常的にイスラエルから受けている日常的圧迫やその歴史的経緯
…について理解し、その言い分について揺るぎなく認めてやれるようになればなるほど、
・そうはいっても今回のテロはマジで一線超えてる。あんなのを許すわけにはいかない
…という部分について、「デモデモダッテ」みたいな話にしないでちゃんと認めてもらえる道が開ける。
要するに「逆側の正義の存在」をキチンと認めて包摂することによって、「細部の具体的行為」において一線超えた部分を「罪」として納得してもらう道も開けるってことなんですよ。
その「細部の罪」の問題で、「逆側の正義の体系全体」ごと完全に否定されるような構造になっていたら、その「細部」だって認めるわけにいかなくなってしまいますからね。
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7●単にイスラエルの武力報復を何でも支持するのはハマスの思うツボ
ハマスのテロ行為は許せないというのは本当に全く揺るぎないもので、なんか「イスラエルも悪いことしてるから」で済ませてはいけない問題だと私は考えるタイプなんですよね。だから重信メイ氏の発言にもあまり共感はできない。
ただ、テロリストのハマスが憎いからといって、イスラエルの地上戦でのガザ侵攻を「やっちまえ!」って感じで煽って、「さすがにそれは辞めたほうが」って言ってる世界中の良識派の事をやたらバカにするような発言をする人たちが、地球の裏側の日本のSNSにもかなりいて、それはなんか非常に危うい狂気なようにも思います。
というのは、「地上戦」をイスラエルが仕掛けるのとか、マジで「ハマスの思うつぼ」だからです。
僕はこの件について「素人なりに理解するキッカケ」みたいになればいいなと思って、ガザ地区っていうのがどれぐらいの大きさなのかを名古屋市に例えるツイートをしたんですね。(ガザの状況を理解するにあたって非常に良いイメージが湧いてくると評判なので、以下をクリックして長文ポストを読んでいただければと思います)
要するに、ガザって「ちょっと大きな難民キャンプ」ぐらいの存在なのかな、って多くの人は今でも思っているように思うんですよ。僕もそう思っていました。
だからイスラエルが、国際社会の批判を無視して本気でハマス全滅を狙うなら、ひとひねりに潰してしまえるようなイメージが持たれているところがある。
でも調べてみると、面積も人口もほぼ名古屋市ぐらいはあって、言ってみれば「大都会」なんですね。
その「二百数十万人も暮らしている大都会」に対して地上戦をしかけるという事のリアリティが、なんだか吹き飛んでしまってるように思うんですよ。
だいたいテロリストが皆ハマスのバッジとかつけてるわけがないんで、その「二百数十万人の一般人」の誰がテロリストで誰が違うのかなんてわからないですよね。
日本のSNSには、「名古屋程度のサイズなら、テロリストを倒すためなら潰しちゃうのも仕方ないよね」みたいな事を言ってるコメントも結構あって、いやいやお前何考えてるんだと。
今はハマスの蛮行があまりにも蛮行すぎてイスラエルに国際的なシンパシーが集まってますけど、二百数十万人も一般人が生きている都市に地上戦侵攻とかして「残虐な事」が起きないはずがないし、そういう「残虐な事」はSNSで一瞬で世界中を駆け巡るし、そしたらイスラエルに対する同情なんて吹き飛んでもおかしくないし、そしたらまさに「ハマスの思うツボ」じゃないですか。
そりゃイスラエル人が頭に血が上って復讐を叫ぶのは止められないかもしれない。でも地球の裏側にいる日本人が同じテンションが復讐を叫んでどうするんだって話ですよね。
そうじゃなくて、この問題がどう解きほぐされればまあまあ納得できる着地点が見えてくるのか、っていう言説こそ、今日本で必要な事のはずですよね。
当事者同士は狂気で燃え上がるのも仕方ないかもしれないが、どこかで流血に飽きて、冷静に着地点を探らなきゃ、という風になった時にどうできるのか?みたいな話を、今から皆でエンパワーしていかないといけない。
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8●結局イスラエルvsパレスチナの落とし所は?
要するに、「イスラエルが善でパレスチナが悪」ではないのはもちろん、「パレスチナが善でイスラエルが悪」ってことでもないというのが基本中の基本なんだと思うんですよ。
イスラエルが普段パレスチナにやってる圧迫も知れば知るほどムチャクチャだなと思う一方、同時にハマスの方もかなりヤバいですよね。
うっすらと世界的に欧米のインテリの間で共有されているパレスチナびいきの気持ちを、ハマスはあらゆる手段でブチ折りに来てるんじゃないか、というような話が少し調べるとザクザク出てくる。
「問題としての大きさ」は別として印象としては最悪すぎるなと思ったのが、デイリー・テレグラフって結構イギリスの有力新聞らしいところが報じてるんでデマじゃないと思いますが、
https://x.com/Natsecjeff/status/1397186381756125184?s=20
EUがガザ地区のために敷設した水道管を掘り出してミサイルを作れるぜ、といって自慢してる動画を上げてる。上記ツイートをクリックすると動画ごと見れます。
他にも、明らかにガザ地区の経済運営はあまりフェアに行われていなさそうですし、結果として貧富の差も激しそうに見える。
欧米から、あるいは中東諸国からの支援金の着服みたいな事は、当然のように行われている可能性が高いし、「自治政府」がちゃんと「自治政府の役割」をはたしてないんじゃないかとか、民政の発展にちゃんと資金が投じられていないんじゃないかというような批判も否定できない。
そもそも今回のテロからして、もう「許されざる蛮行」すぎて言葉を失ってしまう。
だから、イスラエル在住の日本人の人のご意見とかで、「日常的にテロリストに攻撃されてるのは自分たちの方なんだぞ」というような怒りを持っている人の話を聞くと、それ自体はまあわからないでもない生活感情だなと思うし、「パレスチナ」はともかく「ハマス」まで擁護してイスラエルを悪に捉える見方も、それはそれで何の解決にもならないんだろうと思うんですよ。
人間社会はどう運営されようと「不満」を持つ人は出てくるわけですけど、そういう人が「テロをしていい」って事になったらあらゆる人が困るんで、そこで「譲れないNOを突きつける」部分も絶対必要ではある。
こういう「複雑な現象を複雑なままに」扱えるようになっていかないと、この問題は解決できない。
私がよく言う、「2つの相反する正義」の両方を認めた上で実地的に解決する「メタ正義感覚」で、具体的な話を解きほぐしていくしかない。
イスラエルの件に関しては、結局「オスロ合意」の地点になんとか「人々の納得」を取り付けていくしかないんだと思います。
とはいえ、その「オスロ合意という妥協点」に対して、単に正しさとして押し付けるだけでなく「納得」を引き出せるかどうかなんですよね。
イスラエルは果てしなく入植地を広げたり、入植先でパレスチナ人に対して嫌がらせしたりするようなのをやめろと。
一方でパレスチナ人も、ちゃんと自分たちの政府が民政をしっかりやれるようにするべきだし、テロは流石に容認できないという姿勢を明確にしていってくれないとどうしようもない。
ちょっとあまりに理想論っぽくなりますが、そういう「落とし所」に向けて世界中が圧力をかけていくしかないのだと思います。
でもね、その「世界からこの地域へのメッセージ」が、「どっちが善でどっちが悪か」レベルの狂気しかなかったら、現地の対立にさらに油を注ぐだけになるじゃないですか。
「世界からのこの地域へのメッセージ」は、「どっちか片方だけが歴史の正しい側とかありえないんだぞ」という揺るぎないメッセージであるべきなんですよ。
「どっちが善でもどっちが悪でもない」を基本として、「落とし所」を探るという発想ね。
「ムラ社会のエキスパート」日本人がそこで貢献できる道もおそらくあるはずです。
過去20年世界中を吹き荒れてきた、
「俺たちは善、あいつらは悪。俺たちは歴史の正しい側にいる。アイツラは滅ぶべき存在」
↑こういうムーブメントを終わらせる時なんですよ。
そして、この時代において、日本人ならではの貢献ができるとすれば、
「欧米的な正しさの基準」によって、自分たちが生きてきた歴史が否定されるという事に対する反感
↑これを我が事として理解できる部分であるはずです。
そこで「非欧米側の譲れない一線」を理解した上で、そうはいっても「欧米的な理想」が吹き飛んでしまわないように溶け合わせていくという作業を、日本は国内でもこれからずっとやっていかないといけないし、それはそのまま人類社会の今の分断を癒やす道でもあるわけです。
「実物の欧米諸国の上から目線の傲慢さ」を徹底して完全に相対化しきった先に、それでも「欧米的な理想の一番良い部分」は消さずに残せるかどうか、そういうチャレンジこそが、今求められているわけです。
「ヤンキー(不良)の気持ちがわかる優等生」
…の道を堂々と歩んでいきましょう。世界はそういう日本を必要としているんですよ。
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長い記事をここまで読んでいただいてありがとうございました。
ここからは、イスラエルの現状と「日中戦争」は似ている、みたいな話をします。
「日中戦争」といっても盧溝橋事件に始まる狭義の「日中戦争」という意味じゃなくて、満州国の建国とそこから際限なく戦線を拡大せざるを得なくなっていく歴史の全体像の事ね。
そこには「馬賊」と言われる、いわゆる「テロリスト」あるいは逆に言うと「ゲリラ」が重要なファクターになっていた。
この「やめられなくなってしまって、いずれ自ら残虐なことを際限なくしなくちゃいけなくなって、国際的な支持を失っていく」状況が、イスラエルの現状と似ていると思うんですよ。
これはもっと言うと、SNSでなんか突飛な事を言ってバズった人が、だんだんヤバい感じにエスカレートしていくという現象にもかなり近いものがあるという話もします。
また、「欧米世界の辺境」において「非欧米」と接している最前線にある「イスラエル政府」という構造と、当時の日本も似ているところがあるという話や、そういう状況で起きてしまう問題の本質は何なのかとか、それに対してどう対処していくべきなのか?、みたいな話について考察します。
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2022年7月から、記事単位の有料部分の「バラ売り」はできなくなりましたが、一方で入会していただくと、既に百個近くある過去記事の有料部分をすべて読めるようになりました。これを機会に購読を考えていただければと思います。(これはまだ確定ではありませんが、月3回の記事以外でも、もう少し別の企画を増やす計画もあります。)
普段なかなか掘り起こす機会はありませんが、数年前のものも含めて今でも面白い記事は多いので、ぜひ遡って読んでいってみていただければと。
ここまでの無料部分だけでも、感想などいただければと思います。私のツイッターに話しかけるか、こちらのメールフォームからどうぞ。不定期に色んな媒体に書いている私の文章の更新情報はツイッターをフォローいただければと思います。
「色んな個人と文通しながら人生について考える」サービスもやってます。あんまり数が増えても困るサービスなんで宣伝してなかったんですが、最近やっぱり今の時代を共有して生きている老若男女色んな人との「あたらしい出会い」が凄い楽しいなと思うようになったので、もうちょっと増やせればと思っています。私の文章にピンと来たあなた、友達になりましょう(笑)こちらからどうぞ。
また、この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。
また、上記著書に加えて「幻の新刊」も公開されました。こっちは結構「ハウツー」的にリアルな話が多い構成になっています。まずは概要的説明のページだけでも読んでいってください。
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倉本圭造のひとりごとマガジン
ウェブ連載や著作になる前の段階で、私(倉本圭造)は日々の生活や仕事の中で色んなことを考えて生きているわけですが、一握りの”文通”の中で形に…
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