[無料]登山のリスク管理
以下は、登山におけるリスク管理について簡単にまとめたものです。下記「ヤマケイ新書 遭難からあなたを守る12の思考」を参考にしていますので、更に詳しく知りたい方は本書を購入の上お読み下さい。
なお、この文章は「遭難からあなたを守る12の思考」を参考にしていますが、私の考えを多く反映していますので、必ずしも本書の内容と同じではありません。アカデミズムな雰囲気を極力薄くしました。本書はもっと「キッチリ」しています。
短めにまとめると…
登山の前にリスクを想定し、想定したリスクに備える
リスクを想定するためのチェックポイント5つ
リスクの兆候に気づいたら面倒くさがらず、出来るだけ早く対策する
リスクに気づくために勉強する
です。
登山の遭難態様
2020年は2,294件、2,697人の山岳遭難がありました。うち、死者・行方不明者は278人です。遭難の態様は下記の通りとなっています。
道迷い(44%)、滑落(15.7%)、転倒(13.8%)、病気(7%)、疲労(6.3%)、転落(3.4%)、悪天候(1%)、野生生物襲撃(1.4%)、落石(0.3%)、雪崩(0.3%)、その他・不明(6.8%) ※落雷、鉄砲水、有毒ガスは0%
警察庁:令和2年における山岳遭難の概況より引用
遭難の確率は低い?
登山者全体の延べ山行回数からしたら2,697人の遭難は、小さい数字になってしまいます。登山を趣味とする人を300万人(過去にレジャー白書から試算)として、年に6回登山をするとすれば延べ1,800万人。遭難者2,697人の割合は0.01%となります。
ほとんどの人は遭難しないとも言えます。延べ人数が900万人としても0.02%ですから小さい数字であることには変わりありません。
ならば山は安全なのか?
「ほとんどの人が遭難しないのであれば、遭難対策、リスク管理は必要ないのでは?だって、低くて簡単な山しか登らないし」などと思うかも知れませんが(そう思う人はこんな文章読まないか)、確率が低くても遭難対策は必要です。
なぜなら、山は街と違って少しのミスによる小さな怪我でも命を落とす「かもしれない」からです。
また、警察庁が出している遭難統計は、あくまで『遭難として通報されたものや救助要請がなされたもの』だけです。骨折したものの自力下山したケースや、道に迷って真夜中になってしまったけど、どうにか下山できたケースなどは通報されないので統計には出てきません。山の中で死んで、全く誰にも知られず捜索願を出されないケースも山岳遭難にはなりません。
道を間違えて予想外の場所に出てしまったり、足を捻ってしまったけど痛みを我慢して歩き通したことがある人もいるでしょう。滑落してどうにか止まったけど、あと1mで崖から落ちていた、なんて人もいるかも知れません。
私の実感としては、山で怪我(病院に行く程度)をした人で、救急車に乗ったり救助された人は5人に1人程度です。骨折でもセルフレスキューで対応してしまう場合が多い。統計に出ない山岳遭難も多いのです。
ヒヤリ・ハットはけっこう多いのかも?
ハインリッヒの法則を当てはめて考えてみましょう。重大な事故の29倍軽微な事故が起きており、300倍の事故寸前案件(ヒヤリ・ハット)が起きていると言う法則です。
先ほどの遭難統計を見ると、死者・行方不明者が300人で負傷者1,000人が程度となっています。合計で1,300人が山で怪我以上の目に遭っているんですね。
怪我が重傷なのか軽傷なのかは統計では分かりませんが、負傷者の半分を重傷ってことにすれば300+500で合計800人(捻挫や軽い骨折は仲間による搬送などでレスキューされる事が多いため重傷の割合を高めの50%と想定した)。その29倍の23,200人が軽微な事故を起こし、300倍の24万人がヒヤリ・ハットな目に遭ったと仮定できます(仮定の上に仮定を積んでいますが)。
1,800万人の延べ登山者で計算すると1.3%の人がヒヤリ・ハットを感じたことになり、そこそこ誰でも遭いそうな気がしてきます。1日で300人が登る山なら4件のヒヤリ・ハットが起きている計算です。
軽微な事故なら確率は0.13%(23200÷1800万)なので、300人が登るなら1日でも起きる確率は40%近くなります。月に1,000人登る山なら毎月1,2件の軽微な事故が起きていることになります(軽微な事故なので救急搬送まではされず統計にも出てきません)。東京の高尾山の様に、簡単そうに見えてもたくさんの人が登る山では事故も起きています。
登山は、ほんの紙一重で助かったり助からなかったりする遊びです。転倒した場所によっては、かすり傷で済んだり崖から落ちて死んだりします。確率は低くてもリスクは避けたほうがよいでしょう。
という事で、登山のリスクを知りましょう
以上、前説明。遭難の確率は低いけどリスク管理はした方が、楽しい登山経験を長く積むことが出来ます。
リスクとは?
リスクとは望ましくない事故が起きる可能性のことで、「ここは雪崩のリスクが高い」とか「午後は悪天候のリスクがある」などと使われます。登山において具体的には、上記の山岳遭難態様に出てくる道迷い、滑落、転倒などのことになるでしょう。
リスクには、その可能性を生み出す要因があります。リスクの要因を事前に検討し、事故が起こらないように計画を立て、事故が起きてしまったときはダメージが最小になるようにダメージコントロールをします。
では、事前にリスクを想定し、備えるにはどうしたらいいか?
事前にリスクを見つけるチェックポイント
登山は必ず計画を立ててから行います。無計画で登山をすると事故に遭う可能性が上がり、想定していないため対処も難しくなります。事前に想定しておくことでリスクを下げ、対処もしやすくなります。
事前にリスクを想定するとき考えやすい様に5つのポイントとしてまとめました。
時間(季節、時刻、曜日、年)
季節と時刻は重要な要素です。山の様子は季節や時刻で変化します。同じ山でも季節や時刻よって気温や路面の状態が変わります。同じ山、同じ季節でも年によって違います。雪が多い年や少ない年、台風の規模も違います。
時間:対策
登る場所と日付から日没時刻を調べ、出来るだけ早い時間から登って下さい。登山者にとっては当たり前すぎるのですが、登山開始が13時で19時下山というのは非常識というものです。基本的には、暗くなっても行動をしている登山は失敗です。(※一部のエキスパートや物好きは除く。どうしたって18時間行動が必要な山とかあるので)
曜日も重要で、単独でマイナーな低山に月曜日に登って遭難すると、助かる確率、死んだ場合見つけてもらえる確率が低くなります。多くの人は土日休日に登ります。平日にマイナーな山に登るのなら、しばらく人が来ないことを想定しましょう。
気象
気温、湿度、天気、最近の天気と今日の天気など。落雷、雪崩、鉄砲水、視界不良などの原因となります。メンバーの装備や疲労具合によっては低体温症による行動不能の要因になります。
当日が晴れでも前日に雨が降っていれば、土の路面が滑りやすくなっている可能性もあります。遭難当日が晴れていて雨具を持っていなかった場合、動けないまま翌日が悪天候なら低体温症のリスクが高くなります。
気象:対策
天気予報をよく見て下さい。テレビの天気予報は平地の天気を伝えるので、そのまま山の天気には当てはまりませんが季節や地域ごとの気象について解説する部分が勉強になります。
私は、天気については下記のサイトをよく見ています。
悪天候を想定して雨具や防寒着を持ち、持つ水の量や温度も気象条件によって調整してください。登山当日が晴れそうだからといって雨具を持たないのはNGです。樹林帯の低山なら折りたたみ傘も有効です。カッパを着込むと汗が出やすく、水分不足や低体温症の原因になります(汗をかいていなければカッパは防寒具にもなります)。
防寒着や雨具を持っていても使えれなければ意味がありません。斜面から稜線に上がったら風が強くなるから先に着ておこうとか、休憩時は冷えるからすぐダウンジャケットを着ようとか、歩き始めたら暑くなるから出発直前に1枚脱ごうとか、先読みをしてウェアを調整して下さい。
登山の気象について深く知りたい方はコチラの本がオススメです。
人間(自分、メンバー、周りの登山者)
人間とは、自分、メンバー、周りの登山者などです。リスクは体調、装備、技術、メンタル、性格によって変動します。誰といつどこに行くか?で登山の難易度は大きく変わります。
人間:対策
単独なら絶対に小さな事故も起こさないように準備しなくてはいけません。そして、もし事故が起きたら自分で対処しなくてはいけません。そのための装備や技術はあるのか?小さな転倒で捻挫して行動不能になれば致命的です。
パーティー登山なら、誰と行くか?最も体力がないメンバーでも無理なく登れる山か?メンバーは必要な装備を持っているか?「雨具」の認識が合っているか?など、メンバーや装備についてコミュニケーションを取る必要があります。勝手な行動をしがちなメンバーやリーダーは、存在そのものがリスクです。話し合って改めてもらうか、一緒に行くのを控えた方がいいかもしれません。
リーダーとして人を安全に山に連れて行くのはけっこう大変です。
無雪期で晴れていれば問題がないメンバーでも、雨なら無理、積雪期なら危険など、季節や天候によってリスクが変化します。
行動中は自分や仲間、近くの登山者の行動に注意しなくてはいけません。足元を気にせずガラガラと崩してしまう登山者がいたら注意したり、被害が及ばないように距離を取ったりします。出発前には仲間の体調を確認し、行動中も顔色や表情をよく見ましょう。
落とし物や忘れ物も人間が起こすリスクになります。出発地点に携帯電話やストックを忘れることはよくあります。スタートや休憩時、トイレに寄ったときなどは必ず周りの地面や木、壁際をみんなで見て忘れ物が無いかチェックしてください。車の鍵を落として帰れなくなるケースもあります。財布、携帯、鍵などは落とさないように収納し、適宜存在を確認しましょう。忘れ物や落とし物は引き返しが発生して時間をロスします。精神的な不安を生むため集中力を欠くことにも繋がります。
他の登山者については、山小屋での道具の取り違えや盗難も考えられます。テント泊でテントを張りっぱなしにして登ってから撤収しようとしたら全部盗まれていたというケースもあります。テントや寝袋など、盗まれたら困るものには大きく名前や絵を書いてしまいましょう。(そもそも登山の道具は似ているし、落ちていた場合に持ち主を探す時間がもったいないため、全てに名前を書きましょう)
山小屋の場合は隣で寝てる人のイビキが大きかったり、やたら朝早く出発し、準備の音がうるさいことも想定されます。耳栓を用意しておくといいかも知れません。
山そのもの
山の場所(北海道か九州か)、高低差、路面(舗装路、木道、橋、土、砂、岩、雪、氷など)、地形(谷、尾根、崖、ピークなど)、植生(広葉樹、針葉樹、ハイマツ、草原など)、標高(低山や高山)、設置物(鎖、はしご、道標など)、落下物(倒木、落石、他人の装備品など)、携帯電話圏外かどうかなど、山には山特有のリスクが潜んでいます。
山そのもの:対策
路面の差は大きく、雨の日に木道や岩場を歩くコースは滑落や転倒のリスクが高くなります。
地形は地形図を読むことで、行ったことがない山でもある程度イメージすることが出来ます。
読図についてはコチラの本が読みやすいのでオススメです。
高低差が大きい急斜面はリスクが高いですし、設置された鎖が外れる可能性もあります。倒木や石が落ちてくる可能性もあります。地面だけでなく上にも注意を向けて下さい。
現在の山岳遭難は実に8割が携帯電話からの通報です。山は携帯電話が通じにくいのですが、どこも全く通じない山と、谷や斜面では通じないけど山頂や稜線では通じる山もあります。高尾山は全域で通じますが、奥多摩だと谷に降りると圏外になったりします。
遭難時に携帯が通じるかどうかで生死が分かれる場合もあります。慣れないうちは、人が多いメジャーな山を選んで下さい。メジャーな山なら通じる可能性が高いですし、人が通り掛かって助かる場合もあります。
生物
熊、イノシシ、スズメバチ、ブヨ、ヒルなど登山で想定されるリスクです。間違った山菜やキノコによる中毒もあり得ます。危険生物の出没は季節によって変化し、冬は遭遇リスクが下がります。
生物:対策
熊鈴や虫除け、虫刺されの薬やポイズンリムーバーを装備に入れてください。ただ、熊鈴は食事に夢中になっている熊には効果がないとされています。ひとけが少ない山では曲がり角やピークの手前でホイッスルを吹くとよいでしょう。または、犬の鳴き声を真似するなど、声を出すのも有効だそうです。
熊は明け方と夕方に行動するそうなのです。朝4時~7時、夕方5時~9時ころ。そのような時刻に行動する場合は、特にホイッスルや声で熊にこちらの存在を教えてあげて下さい。
スズメバチは、こちらから手を出さなければめったに襲ってきません。手で払うと反撃されます。無視して下さい。登山道から外れて歩くと巣を踏んでしまうことも考えられます。基本的には登山道を歩いて下さい(登山道の近くに巣があれば通行止めになったりします)。
リスクを減らす組み合わせを見出す
時間、気象、人間、山そのもの、生物などからリスクを考えてみましたが、それぞれは絡み合っており、組み合わせ次第でリスクが高くなったり低くなったりします。
単に熊との遭遇が危険と言ってしまえば山に入れません。熊に会わないための知識(季節、時刻、装備)があれば遭う可能性を減らせます。虫なら虫除けである程度避けられます。
必要な装備と技術を扱えるメンバー、適切なレベルの山とコース、天気などを検討して、リスクが低い状況を作れれば(比較的)安全に登れます。そのためには事前の検討、登山計画の作成が必須となります。だから登山計画を作りましょうと、みんなが口を酸っぱくして言うのです。
季節、時刻、最近の天気と当日の天気、メンバー、体調、装備、想定される路面、地形、植生、標高、動物、落下物などについて、登山の計画を作りながら検討して下さい。
不安な要素があるなら、それを取り除くように装備を変更します。必要なものは追加し、要らないものを無くして軽くします。メンバーの力量が計画に合っていないのなら、登る山を易しくしてメンバーの力量を確認したり、レベルを上げていく努力が必要になります。
天気予報が悪ければ延期や中止も考えて下さい。雨の山は緑が濃く、山にたなびく雲が美しいのですが、度を超えた悪天候はただ危険なだけです。
「かもしれない登山」のススメ
自動車の運転で「かもしれない運転」をしましょうと習うはずです。
曲がり角から子供が飛び出してくるかもしれない、交差点にいる右折車が曲がってくるかもしれない、前の車の積載物が落ちてくるかもしれない、前の車が急ブレーキを踏むかもしれないなどなど。かもしれない、と事故の可能性を想定することが安全運転に繋がります。
登山についても、同様に「かもしれない登山」をして下さい。
この地面は滑るかもしれない、あの人は岩を落とすかも知れない、雷鳴が聞こえたから落雷があるかもしれない、メンバーが食べ物や装備を忘れるかもしれない、怪我をして治療が必要になるかもしれない、雪山で滑って滑落するかもしれないなど、「かもしれない」と考えるクセを持ちましょう。
上記「かもしれない登山」の回答例
この地面は滑るかもしれない
→静荷重で静かに歩く。ストックやチェーンスパイクも有効。雪山ならピッケルとアイゼンを正しく使う
あの人は岩を落とすかも知れない
→間隔を空けて上に注意を向ける。動きが怪しかったら優しく注意する
雷鳴が聞こえたから落雷があるかもしれない
→登らず下山、または安全な場所に移動してやり過ごす。樹木から距離を取る
メンバーが食べ物や装備を忘れるかもしれない
→負担のない範囲で予備を持つ、事前にリストを渡すなど防止策を施す、出発前に持ち物を確認する
怪我をして治療が必要になるかもしれない
→ファーストエイドキットを持つ、セルフレスキューの講習を受ける、そういう事が起こり得ると覚悟する
雪山で滑って滑落するかもしれない
→すぐにピッケルで止められる様に覚悟しておく、滑落停止の練習をしておく、アイゼンを有効に使う
最後まで、家に帰るまで「かも知れない」を忘れない
登山の事故は明らかに危ない岩場より、一見なんてことなさそうな場所でよく起こります。普通のなだらかな道で、でもちょっと疲れていたり、天気が悪かったり、夕暮れで暗かったり、ちょっとペースが早かったりするだけで転倒や滑落することがよくあります。
特に登山の最後の最後、ゴールが見えてからが危ない。登山を終え、最後、家に帰るまで「転倒するかも知れない」と考えて慎重に歩くようにして下さい。駅の階段や家の前の道路だって、慌てていたり疲れてたりすればいつもと違うリスクが現れます。
遭難の兆候を見逃さないようにする
転倒の兆候はつまづきです。疲労で体と心にズレが出てくると、5cm上げたはずの足が4cmしか上がっていなくて木の根に引っかかったりします。つまづく程度ならいいのですが、それが続くと完全に転倒する場合もあります。
疲労が溜まってきたなら休憩を入れたり、屈伸などをして筋肉のコリをほぐしたりしましょう。急いでスピードが出ればそれだけ疲れますし、転倒時のダメージも増します。ゆっくり行動しても明るいうちに降りられる計画を作ることも大事です。
歩くのが遅くなる、おしゃべりの人が無口になる、ソワソワしているなどは、メンバーの不調を見つける兆候となります。リーダーは見逃さず、どういう状況なのか本人に聞いて下さい(大丈夫?と聞いても「大丈夫」と答えがちなので、とりあえず休憩を入れてみるなどして下さい)。
道迷いにも兆候があります。地面が柔らかくなれば、登山道から外れているかも知れません。木道や橋、道標が苔だらけで朽ちていたら、古い登山道に迷い込んだのかも知れません。
道に迷ってから地図を出しても手遅れです。紙の地図は現在地がある程度分かっている状況で使うものだからです。もし現在地が分からなくて、おそらく登山道を外れたなと思ったのなら来た道を戻って下さい。持っているならGPS端末やアプリで現在を確認するのもリカバリに有効です。
現在地が分からないまま勘を頼りに彷徨うと、道迷いだけでなく滑落や転倒のリスクが増します。道迷いは、出来るだけ早く対処して正しいコースに戻ることでダメージを最小に抑えられます。大抵の人は一瞬迷ってもすぐに復帰するために遭難にまで至りません。「戻る」を怠ると、本格的に遭難して、悪くすれば死んで行方不明となります。
雷は兆候=即落雷の危険があります。雷鳴が聞こえてきたならもう、いつ真上に落ちてきてもおかしくない。稜線やピークは非常に危険なので急いで標高を下げる必要があります。登っている途中で雷雲が近づいてくるなら、登山はそこで終了です。
落雷は、落ちてきてしまえば人間の力ではどうにもなりません。落ちない場所に移動するしかない。木から5m以内は側撃雷のリスクがあるので木からも離れるなど、雷に関する知識も必要です。
実際に落雷による遭難は数年に1回程度で頻度は低いのですが、それは多くの登山者が雷を避ける行動を取っているためと、人に当たる確率がそれほど高くないためでしょう。ただし、当たってしまえばほぼ死んでしまいます。雷に当たらない選択をして下さい。
冷たい風が吹く、急に暗くなった、遠くから雷鳴が聞こえてくる、ラジオにノイズが入るなどが落雷(ゲリラ豪雨)の兆候です。
「まぁいいか」と言ってないか?
なにか気になることがある、でも対処するのはめんどくさいという気持ちは「まぁいいか」という言葉になります。「まぁいいか」とつぶやいたら、本当にいいのかどうかよく考えて下さい。
面倒くさがらず、強い心を持って対処して下さい。特に雨の日は地図やGPSを見るのが億劫になり、視界も悪いため道迷い遭難が起きやすいです。滑りやすいので道迷いからの滑落も想定されます。
靴紐やザックのベルトの緩み、衣類の調整、道迷いの不安なども放置して勝手に良くなることはありません。面倒くさがらず、出来るだけ早く対処しましょう。暑い・寒いは我慢せず、すぐにウェアを調整して下さい。
かもしれない登山や兆候を見つけるために必要なもの=知識
同じ景色を見ても、登山のリスクについて知っている人と知らない人とでは、想定されるリスクが違います。雪山登山の経験があり、リスクが分かる人と、経験がなくてリスクが見えない人には差があります。
同じ斜面でも簡単と思う人もいれば自分には難しいと思う人もいるでしょう。リスクの発見と評価は、人によって違うものです。何も知らなければリスクの評価は出来ませんから、登山のリスクについて知る必要があります。
方法は3つ。本を読む、人から習う(山岳会、講習、友人など)、動画を見る。
本を読みましょう
最も安定して知識を多く得られるのは本です。それなりに実績がある著者が書いて編集者による編集が入った書籍、特に山と渓谷社の本は信用できます。下記に本を紹介したリンクを貼っておきます。
どういう遭難がある得るのか?遭難した人はどういう行動を取ったのかを知るには、羽根田治さんのドキュメント遭難シリーズがオススメです。
私は全部読みました。遭難した人は、こんな無茶な選択も平気でしてしまうのか…と、非常に多くの学びがあります。オススメです。読んでください。
講習を受けましょう
人から習うのも有効です。私は、東京都山岳連盟でおくたま登山学校という登山講習会を行っています。毎回違ったテーマについて、実際に登山をしながら指導しています。
モンベルやファイントラック、好日山荘など、登山用品を扱うお店やメーカーでも登山の講習が行われています。
講習は文章や動画からは得られない実感としての知識が手に入ります。頭だけでなく、体の動きとして身につくため登山技術の体得としては早道です。
ただし、お金と時間はそれなりに掛かりますし、得た知識や技術を活かせるかどうかは本人次第です。口を開けて情報を浴びているだけでは意味がなく、よく噛み砕いで飲み込む努力が必要です。
山岳会に入ったり、山に登っている友達に教えてもらうと言う手段もあります。
ただ、最近の山岳会は教育制度が無く「自分で勉強してね、またはある程度出来る人だけ入ってきてね」というところもあるため、必ずしも教えてもらえるわけではありません(普通は自分がやりたい山登りをしたくて山岳会に入るので、先生役はやりたくない)。
友人から習えばお金は掛かりません。ただし教えてもらった事が正しいのか判断が難しいし知識が偏ります。
そんな訳なので、ある程度のお金と時間を使って、複数の講師から習う事をお勧めします。講師によって言ってる事が違う事も多いので、気になったら理由を聞いてみましょう。
動画を見るのもいいでしょう
文字を読むのがしんどい(という人はここまで読んでない気もするが)という人は登山の動画を見るのもよいでしょう。私は動画をあまり見ないのですが、下記のチャンネルはよく見ています。
クライミング関係の動画が多いのですが、セルフレスキューに関する動画もあります。
上で紹介したバテない登山技術の著者、野中ガイドの動画もおすすめです。
動画は、見てなんとなく分かった気になってしまうのですが、間違った理解をしてしまうかも知れませんし、肝心な部分を見逃してしまうことがあります。本や講習の補足や復習として見ることをおすすめします。動画だけで全てが学べるわけではありません。
経験値アップのために登山をしましょう、ただしゆっくりと
最も経験を積めるのは、やはり登山です。自分で計画を作り、自分が主体となって実行する登山は経験値が大きく上がります。
ただし、山のレベルは慎重に上げていってください。天気がいい山ばかり経験すると、「意外とイケるじゃん」と難しい山にチャレンジしがちです。しかし、難しい山で初めて悪天候に当たってしまったら?山は標高が上がるほど、小さなトラブルが重大な結果を招きます。
夏の低山なら「雨でちょっと寒かったから次は防寒着を持とう」で済みますが、秋の3000m峰を同じノリで登ると、初回でいきなり低体温症になり死んでしまうかもれません。春や秋って下界は暑いけど山は冬なんですよね…。
若かったり体力があったりすると、はい雲取山、はい富士山、はい北岳、はい槍ヶ岳、剱岳なんて感じでどんどん難しい山かなり挑んだりもしがちです(条件が良くて体力があれば登れてしまいます)。
それはそれで、チャレンジングで楽しそうだと思います。しかし、トラブルの経験が少ないと想定リスクが甘かったり、リスクに気づかず突っ込んで死んでしまったりします。条件が悪くても行きて帰ってこられる、運否天賦ではない確実な安全登山を続けるのに必要なのが「かもしれない登山」であり、リスクの想定と管理です。
リスクの想定には知識や経験が必要で、この文章もそんな知識の一つとして書いています。
メジャーな高山にどんどん挑むのも楽しいとは思うのですが、何度か登って慣れている低山に、敢えて悪天候の日に登ってみるとか、自分とはレベルが違う(上でも下でも)仲間と登ってみるのもよいでしょう。同じ山でも季節や天候、メンバー次第で違った山として楽しめますし経験も積めます。
そういう経験が、難しい山で想定外のトラブルに遭ったとき役立つはずです。小さい失敗を積み重ねることで、大きな失敗を防ぐことができます。
※…早くレベルを上げる方法はあって、山岳ガイドや講習などでお金と時間をたくさん使うと高速道路として短期間でレベルを上げられます。山岳会に入るという手もありますが、こちらはお金があまり掛からない分人間関係を上手くこなす必要があります。会の雰囲気や嗜好にも左右されますし、偏った知識を与えられてしまう可能性もあります。様々な先生から習うのがオススメです。
臆病に、最悪の自体を考えて行動する
登山は臆病で慎重な方が長く続けられます。かくいう私も大変に臆病です。クラミングをしているので怖いもの知らずなのかと思われたりしますが、クライミングはロープなどである程度の安全を確保します。それでも登ってる最中は怖いので地面を見ません。
どうしても自信が持てないなら無理に突っ込んだりはしません。臆病のおかげか、今のところ登山やクライミングで大きな怪我はしていませんし生きています(死んでたらこれ書けないですね。未来は分からないけど)。
登山のときもクライミングのときも、今ここで最悪の事態が起きるとしたらどうなるだろう?と考えています。
特に、自分が登っている時はだいたいそのことを考えています。落ちるならどういう軌道でどこまで落ちて、ダメージはどのくらいか?地面まで落ちないから大丈夫かな?地面まで行っちゃうかな?ここでは絶対に落ちられないから、どんな手を使っても落ちないようにしよう…などと、ずっと考えています。
今最悪の事態が起きるとしたらなんだろう?起きたとき対処できるだろうか?対処できない事態が起こる"かもしれない"のなら、ここで行動を打ち切るべきでは?
「かもしれない登山」をすることで、起きうる事故を未然に防ぎ、明日も来週も来年も、楽しい登山を続けられます。一挙手一投足について、それで起こりうるリスクに思いを馳せて下さい。
まとめ
遭難する確率は低いが、遭ってしまうとひどい目にあう。
「かもしれない登山」でトラブルを想定しておく。
リスクは事前に想定して計画に反映させる。登山計画は必ず作る。
時間、気象、人間、山そのもの、生物などから想定されるリスクを洗い出していく。
自分やメンバーのレベルで対処可能なリスクの組み合わせを選ぶ。対処するための装備や技術を手に入れる。本、講習、動画などで学べます。
登山の経験を積みながら、ゆっくりレベルアップしていきましょう。
「まぁいいや」は禁句。
暑い・寒いは我慢せず速やかにウェアを調整する。
なんでもそうですが、ある程度臆病な方が安全に長く趣味を楽しめます。
勉強したりリスクを想定するのはめんどくさい?登山ってのは、とてもめんどくさい遊びなんですよ!😊
リスク想定練習
下の写真について、考えられるリスクを挙げてみて下さい。コメントに書いてもいいし、密かに自分でメモしてもいいです。考えてみることが大事。
時間、天候、人間、山そのもの、動物などについて順番に考えていくと想定しやすいと思います。
正解や不正解はありません。想像してみる経験が大事。
自分がここを登るならなにに注意するか?どういうリスクを想定して装備や計画を決めるか?
想定外のことは起こります。そのとき冷静に判断できるか?大抵は出来ません。それでも行動を選ばなくてはいけません。心の準備が必要です。
小さい失敗を積み重ねるのはよい経験になります。多少のトラブルが起きても対処できるレベルの山をたくさん登り、ゆっくり難しい山に挑戦して下さい。
登山の雑誌に載っている写真や、登山のテレビ番組、動画を見ている時もどんなリスクがあるのか?ここで起きうる最悪の事態はなにか?を考えてみましょう。
わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。