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[無料]登山におけるリーダー心得を書いたら1万4千文字を超えてしまった

こんにちは、おくたま登山学校の松本です。ジオグラフィカというスマホアプリも作っています。

複数の人で登山をする場合(パーティー登山)、普通はリーダーを決めます。え?いつもリーダーを決めずに登山をしてるんですか?

ダメです。必ずリーダーを決めてください。

そして、リーダーはリーダーらしい振る舞いをしてください。

対象読者

・人を山に連れて行く事がある人、現にリーダーをやっている人
リーダーをやっていても、自分の行動がリーダーとして正しいのかどうか確認してください。この文章が絶対に正解とは言いませんが、中には有用な情報があるはずです(現役ガイドの人からしたら当たり前の事ばかりでしょうけど)。

・今後リーダーとなって人を山に連れていきたい人
いつまでも山に連れて行ってもらってるだけでいいんでしょうか?いや、まぁいいんだけど、それでも登山のスキルが上がれば自分や仲間の身を守ることが出来ます。生殺与奪の権を他人に握らせるな!って煉獄さんも言ってたじゃないですか。リーダーを目指してスキルアップを図るのはよいことです。

山岳会に入ってる人も、教えてもらうばかりではなく新しく入ってきた人を教育する側に回りましょう。山岳会は一方的に習うだけの学校じゃありません。受けた教育は次世代に伝えましょう。

・山に連れて行ってもらっている人も是非
メンバーがこの内容を知っているとリーダーはとても楽になります。そして、しっかりしたリーダーとダメなリーダーを見分けられるようになります。知識はあって困るものではありません。

リーダーがいないとどうなる?

・日程や計画が決まらずグダグダになります。
・当日の行動もバラバラになりやすく、パーティーが分散しがちです。
・トラブルが起きたときや条件が悪くなったときの行動を決められません。
・メンバー間のコミュニケーションが不足しがちになります。

長年の友達同士でも、トラブルが起きた時にどうなるかは分かりません。迅速に安全な判断をしてパーティーを危険に晒さないようリーダーを決めておきましょう。

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ネットで集まった、よく知らない人と登るリスク

ネットで参加者を募って初対面の人達と登山をしようというサービスもあります。全否定はしませんが、よく注意して利用してください。

・リーダーが決まっているか、しっかりしたリーダーなのか確認しましょう
初対面のメンバーでリーダーも決まっていない集団を烏合の衆と言います。リーダーが一定以上のスキルを持っていないとトラブルが起きた時に詰みます。リーダーの山歴紹介やヤマレコのリンクがあったら必ず読んで、変な山行をしていないか確認しましょう。

自分がリーダーをやるなら、自分がそのレベルなのかよく考えましょう。

・全員知らない人の場合は、まず1回は会いましょう
会って話せば登山のレベルや登山に関する考え方が分かります。分からなかったり合わなかったりしたら参加をやめましょう。トラブルが起きて真っ暗な山道で途方に暮れるよりはいいでしょう?

・事前に会えないなら簡単なコースでお試しをしましょう
いきなり知らない人とロープが必要なコースに行くのはハイリスクです。リーダーがプロガイドのような技術を持っていない限り難しいでしょう。簡単なコースでお試し山行をしましょう。

・リーダーになったら、言うべきことはきちんと伝えましょう
知らない人はなにをどう考えてどう行動するのか予想しづらいものです。メンバーの行動がおかしかったら(お願いを聞かないとか単独行動するとか)きちんと注意して、どうしてもダメなら事故が起こる前に山行を打ち切りましょう。

・オジサンは自重しましょう
若い女性が募集している山行にオジサンが参加申込みをしたら、普通に考えて警戒されるでしょう。そういうのはやめてあげてください。どうしても参加したいなら友達の同年代女性も誘うなどして、オジサン+若い女性の二人パーティーみたいなヤベー感じにならないように考えましょう。もしくはチンコを切るといいですよ。(どうですか、これがオジサンの冗談です)

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リーダーの人数とパーティー編成

通常はチーフリーダー(CL)とサブリーダー(SL)を決めます。SLはCLを補佐し、CLがいなくなった場合や正常に機能しなくなった時にCLの役割を代行します。

単独なら自分がCLです。2人ならCLを決めて(※)、3人以上ならCLとSLを決めましょう。10人以上など、パーティーの人数が増えたならSLを複数決めて5,6人の班で分けたほうがよいです。狭い登山道でも行動しやすい単位にします。

※…二人の場合は、計画だけは一人が作って行動中の立場は対等にする、または上下関係を作るなど、関係性によって運用が変わります。

人数が増えた場合、班の間で連絡を取りやすいようにトランシーバーを使うとよいでしょう。免許も登録も要らない特定小電力無線機はこんなのがあります。送信出力は10mWです。

尾根の向こうなど見通せない場所で距離が開くと通話できませんが、見通せるなら200m程度は離れていても普通に会話できます。このくらいの値段なら個人でも複数台買いやすいですね。

コチラは簡単な登録が必要ですが送信出力が2Wあります。10mWの200倍です。

持ってませんが山でもkm単位で会話できそうです。ただし、同パーティーでkm単位の距離が開いてしまう状況は避けましょう。トラブルが起きたときのリカバリや統率が難しくなります。

お値段も3倍くらいするので、個人で何台も揃えるのは躊躇しますね。

リーダーの役割

・自分やメンバーの力量から登る山やコースを決める、山行を企画する。
・日程や共同装備の手配、計画の作成などを行う。
・計画や装備分担などの情報を共有し、メンバーのコンセンサスを得る。
・計画の提出や(必要な場合は)下山連絡を行う。
・当日は山小屋やテント泊の受付を行う、または担当者を決めてやってもらう。山小屋などでの注意点をメンバーに伝える。
・メンバーの体調や天候、行程の進行から今後の行動を提案しメンバーの意見も加味して判断する。
・状況の先を読み、常に最善の行動を選択できるように考え続ける。
・メンバーが意見や提案を言いやすい雰囲気を作る。
・メンバー間で問題が起きたときは仲裁する。
・事故などトラブルが起きたら迅速に安全な判断をし行動する。
・CLが行動不能になったらSLがCLとしてパーティーを統率する。

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上記リーダーの役割を実行するためには、気象や運動生理学、自然、読図、ロープワークなど登山に関するさまざな知識が必要です。登山を学ぶ努力を継続してください。

リーダーの資質

通常は、パーティーメンバーの中で最も経験や技術が優れ、人格的にも『他人を思いやれる人』がリーダーになるべきです。実力があっても独善的や独裁的な人はリーダーに向きません。リーダーはメンバーが発言しやすい雰囲気を作りましょう。

技術か人間性か、どちらが重要かと言えば人間性のほうが重要です。リーダーの技術が足らなければコースを易しくすればいいのですが、人間性に問題があると易しいコースでも問題が出ます。人の話を聞かないとか、間違った判断を押し通す、気に入らない人を陥れたりする人はリーダーに向いていません。

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リーダーはメンバーに命令して強制的に動かす存在ではなく、メンバーの自主性も尊重し、導く存在です。メンバーを育成する気持ちを持ち、精神的に安定していることが重要です。徳の高さが必要です。

トラブルが起きそうなとき、起きたときは安全第一で迅速に判断して行動できる精神力と技術も求められます。

メンバーが原因でトラブルが起きても、事実のみに目を向け本人を責めず不機嫌にならず、事態の収束とリカバリーに頭を使わなくてはいけません。

最終的にはリーダーが決定するにしても、メンバーの好みや気持ち、状況からある程度民主的かつ客観的な判断を出来なければいけません。

が、そんな完璧な人はなかなかいません(私も同様です)。人間は完璧ではありませんが、そのようなリーダーを目指しましょう。そうすれば自分も少しずつ成長します。

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山行前にリーダーがやるべきこと

1.山行の企画とメンバーの募集
メンバーの希望や実力からコースを決めます。または、コースを決めてメンバーを募ります。普通は実力的に合う仲間やそのコースに行きたがっていた仲間に声を掛けてメンバーを決めます。広く声を掛ける場合は上限の人数も決めましょう。多くなりすぎると統率が難しくなります。

日程を決める時は調整さんが便利です。

もしレベルに合わないメンバーが参加を希望した場合は、コースを変更するか参加を断る(出来ればそうならないように条件やレベルを明示しましょう)、参加しても安全になるように装備やサポートメンバーを調整します。

どんなレベルか知っているメンバーでも、実は久しく山に登っていないとか、急に体重が増えて動きが鈍くなっていたとか体力が落ちたとか、記憶と実際にズレがあることも考えられます。しばらく会っていないメンバーには最近の調子も確認してください。

2.計画の作成
メンバーの力量から無理が出ないように余裕のある計画を作りましょう。行程の時間配分は遅刻や歩行の遅れ、休憩時間などを盛り込みます。エスケープルートやタイムリミット(目的のピークに着かなくても、この時刻までに下山を開始するなど)も決めておきます。悪天候時のコース変更も想定しておきましょう。

私はヤマレコのらくルートで計画を作っています。

日程、行動予定、個人装備、共同装備(テントや調理器具、ロープなどの緊急時装備)の担当も決めます。必要なら食事のメニューや担当者(通称食担)を決めてお願いします。

計画を作ったら然るべき組織(警察やコンパスなど)に提出してください。また、家族にも送っておきましょう。

家族に計画を残す場合は、帰宅がどの程度遅れたら捜索を依頼するかリミットを決めておいてください。でないと遭難時の捜索が遅れます(なので下山したら速やかに家族にも報告してください)。

3.当日までの連絡や調整
移動手段の手配(公共交通か自動車かなど)と調整、天気予報による開催の判断、注意事項の連絡を行います。今ならLINEやメッセンジャー、メールなどで密に連絡を取りましょう。

公共交通を使う場合は、乗り換えの注意点(※)を連絡しておいてください。例えば休日に奥多摩へ行く場合、ホリデー快速を使うことが多いですが途中で2つに別れて別々の終点へ行きます。乗り間違えないように指示しましょう。電車を降りたあとバスに乗るなら乗り場や発車時刻も調べておきましょう。

※…よくある乗り換えの間違えや、Suicaを使えるか、降りる駅でチャージできるかどうか(簡易な機械しかない駅ではチャージ出来ない事があります)など。

自動車で行くのならレンタカーなのか自家用車なのか?誰が車を出すのか?どの車に誰が乗るのか?などをメンバーと話し合って決めます。

天候の判断は難しいのですが、どの程度悪くなった場合は中止するか、このくらいなら決行するなどを決めておいてください。小雨なら決行なのか、少しでも降りそうなら中止なのか、天気に関わらずとりあえず登山口までは行くのか、天気が良い場所に転進するかなどはパーティー次第かと思います。安全寄りの基準を決めておきましょう。

天気の予測に関してはSCWが信用に値します。

気象庁のWebサイトも日々チェックします。

4.共同装備の確認
例えば共同装備のテントをメンバーが持っていくるなら、どういうテントか確認しておきましょう。

一口に『テント』と言っても登山用テントからデイキャンプ用のポップアップテントまで様々で、テントの認識がみな同じとは限りません。使い慣れたテントなのか初めて使うのか?張り綱はきちんと付いてるのか?大きさはどのくらいなのか?などを確認しましょう。

言わなくても分かるだろうというのは通用しません。テント場で広げて途方に暮れないように事前に確認してください。テント以外の装備も、個人装備や共同装備をよく確認しましょう。忘れ物がないように共同装備担当者にはよく確認してもらってください。

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テントの場合でよくあるトラブルとしては、
・テント自体を忘れた、テントと思ったら違う装備だった。
・張り綱を付けていない。
・フライシートやポール、ペグなど一部パーツを忘れた。
・複数のテントを持っている場合、組み合わせを間違って持ってきてしまった。
・3人用と言っていたが実は2,3人用で本当に3人で使うには狭かった。

などがよくあります。担当者は装備の組み合わせが正しいか確認してからパッキングしましょう。

最悪どうにかなるように各自がツエルトを個人で持つ、自動車移動ならバックアップテントを用意するなど、リスクヘッジも考えます。または小屋泊に切り替えるなど柔軟に対応してください。

他人のミスにその場でキレる人はリーダーに向いていません。リーダーは与えられた状況で冷静に最善の行動を考えて実行できなくてはいけません。

5.個人装備の確認
ザックや登山靴などは登山用のものか、壊れていないかを確認してもらいましょう。一口にザックと言ってもさまざまですし、登山靴も買ってから何年も履いている人、買ったばかりの人などいろいろです。

靴は靴箱にしまいっぱなしだと履いてなくても劣化します。そういう靴は山行前に近所を歩いてソールが剥がれていないか確認してもらいましょう。剥がれそうなら買い替えが必要です。確認は山行前日などではなく数日前までにしてもらいましょう。

雨具の認識も人によって違う可能性があります。「言わなくても分かるだろう」と思わず、どういう物が必要か、どういうチェックをすべきか伝えてください。

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リーダー装備

リーダーは、不測の事態が起きた時にメンバーを救うための装備を持つ必要があります。

・補助ロープ…8mmの30mロープなど。
・カラビナ、スリングなど…安全環付きカラビナやノーマルカラビナ、180cm、120cm、60cmなどのソウンスリング。
・アッセンダー、プルージックコード…シンプルアッセンダーやマイクロトラクション、タイブロックなど。
・ファーストエイドキット…消毒液、絆創膏、テーピング、三角巾など。
・ツエルト…今どきは個人装備ですが、メンバーが持っていないばあいでもリーダーは必ず持ちましょう。
・予備の水や食料…メンバーの水や食料が足らなくなったばあいの予備。

上記装備はただ持っているだけでなく、使い方を熟知しておく必要があります。これらを背負うための体力も必要ですが、SLと分散して持っても構いません。SLと二重化して持つのも良いでしょう。SLの成長にも役立ちます。

リーダーらしい振る舞いも重要です。パッキングや装備(例えばアイゼンやハーネスなど)の脱着でメンバーより手間取っていたらカッコ悪いと考えてください。

行動は速やかに、スマートに、効率の良いパッキングをし、装備の脱着は練習して速くしてください。アイゼンは1分以内に着脱出来るようにしましょう。

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当日のリーダーの行動

集合前から登山は始まっています
朝、メンバーが現地に向かっているかメッセンジャーなどで確認します。もし誰か来れなくなった場合、その人の担当がパーティーに影響を与えるかどうかを確認しましょう。集合時間になってテントが無いと知るのと、2時間前に知るのとでは時間的猶予が違います。

メンバーが遅刻しそうな場合は計画の検討が必要になります。出来れば多少の遅刻が問題にならない余裕を計画に盛り込んでください。

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誰かが遅刻したら
全員予定通り集合できればいいのですが、誰かが遅れたら基本的には待ちます。遅れた1人に追いかけてもらう選択は遭難リスクが増すのは出来れば避けます。

慣れないメンバーと行くときは、駅を降りたらすぐ歩けるコースなど、遅刻の影響が少ない計画を作ってください。移動にバスが入ると遅刻の影響が大きくなります。駅からタクシーに乗れるならタクシーの使用も選択肢に入りますが、山近くの駅は必ずタクシーがいるとは限りません。

集合したらメンバーの体調確認
集合したら体調を確認してください。大雑把に聞くのではなく、一人一人目を見て、調子が悪い人がいないか確認しましょう。人は「大丈夫?」と聞けば「大丈夫です」と答えるものです。言葉を鵜呑みにしてはいけません。

装備の故障、忘れ物のチェック
装備の忘れ物や故障をチェックしましょう。山頂に着いてから登山靴のソールが剥がれるよりは、出発時点で故障が分かったほうが安全です。致命的な故障があってリカバリ出来ないのなら該当者の参加や計画を見直すことになります。雨具など重要な装備を持ってこなかった場合も同様です。

本人だけ帰す、予備の靴や雨具があってサイズが合うならそれを使う、山行自体を中止するなどはパーティーの状況や考え方次第です。例えばリーダー的な存在で、抜けるとリスクが増すメンバーがいなくなるなら計画を見直すか中止することになります。

複数のメンバーや重要な共同装備に問題があり登山の実行が不可能なら中止にします(※)。そうならないように事前のチェックや意識の共有がとても大事です。

※…計画を大幅に簡単な内容に変更する選択肢もありえますが、計画の変更には時間がかかりますし、考えが足らないとリスクになります。変更でいいのか中止にするのかはよく話し合いましょう。

当然、リーダーは靴や雨具など装備が万全でなければいけません。家でよくチェックし、忘れ物や故障が無いようにしてください。

共同装備や共同食料も確認してください。テントは正しい組み合わせで必要な数があるか、ガスの量は適切か、食料担当が用意した食料は十分か、または多すぎないか。車移動の場合は街にいるうちに確認すると、足らない場合にリカバリしやすいです。

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行程や注意点の説明、集金など
その日に歩く行程や予定時刻を説明します。メンバーが『なんとなくリーダーに着いていくだけ』というのは危険です。全員がその日の行動や危険な箇所を分かっている状態にしましょう。

トイレの場所も重要です。事前に調べて把握し、どこにトイレがあってどれくらいの時間かかるのか説明できるようにしておきましょう(※)。

※…トイレなんてその辺ですればいいのだという考え方もありましょうが、昨今は自然保護やデリカシーの観点から、そのような考え方は避けられます。山域にとっては携行トイレの使用を義務付けられたりします。必ず事前に確認してください。

山小屋やテント場など、各自でお金を払う必要があるなら集めてしまいます。山小屋などの受付は代表者が行います。会計係を決めてお願いしても構いませんが、しっかりした人にお願いしましょう(雑な人に頼むとトラブルになります)。

準備体操や装備の支度
全員揃った、装備も体調も問題ないとなったら準備運動をしてください。いきなり体に負荷をかけると怪我をしやすくなります。リーダーが率先して準備運動をしましょう。

準備運動の際は、周りの状況をよく見て、他の登山者や一般の方に迷惑にならないように注意してください。登山で痛めやすい足首、膝、股関節、腰、肩などをよくほぐしてください。

準備運動が終わったら靴紐を締めてチェックしてもらい、衣類やストック、積雪期ならピッケルやアイゼンなど行動中に使う装備を装着するか、すぐ使える状態にしてもらいます。しばらくトイレがない場合はアイゼンを付ける前に声を掛けて行ってもらいましょう。

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衣類の調整
出来るだけ汗をかかないように、出発時点で少し涼しいくらいの衣類に調整します。

歩きだして20分程度経ったら体が温まります。その辺で衣類の再調整をして、暑ければ脱いでもらいます。その前でも暑そうだったら出来るだけ速やかに、危険がない安全な場所で止まって調整してもらいましょう。寒さや暑さを我慢させても良いことはありません。

逆に、風が強そうな稜線に出る前には上着を着てもらいます。雨や風、降雪の状況も考えて衣類の調整をしてもらいます。強風の中で上着を着るのは困難なので、そうなる前に着てもらいましょう。

先を読んで、この先どうなるかを常に考えてください。汗をかかせず、凍えさせないのが大事です。

リーダーの配置と並び順
登山では通常一列になって歩きます。先頭はSL、2番目はパーティー内で体力的に弱い人を配置します。SLがそのコースに疎い場合はCLが先頭に入っても構いませんが、一般的にはSLが先頭です。

2番目に歩くのが早い人を入れると、SLと2番目がどんどん先に行ってしまいがちです。遅い人を前に置くことで、パーティーの分断を防ぎます。2番目の人には、無理についてこなくていいと伝えましょう。もし歩きはじめてみたら2番目より3番目以降の人の方が遅かったら順番を入れ替えてください。

SLの前にメンバーは歩かせず、最後尾のCLの後ろもメンバーは歩かせないのが一般的です。パーティーの分裂やメンバーのロストを避けるためです。

メンバーとコース状況の観察
SLは2番目の人がバテてないか、それ以降の人もちゃんとついてきているか、後続の足音に注意しつつ、たまに後ろを見て確認してください。また、滑りやすい地面や頭をぶつけそうな木など、危険を発見したら後ろに伝えてください。

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先頭を歩くリーダー(SL)は、足元ばかり見ず周りの状況もよく見て、道を間違えないようにしましょう。しっかり登山道を歩き、標識や分岐を見落とさないようにしてください。

地面が柔らかかったり地形に違和感を感じたら現在地を確認し(GPSアプリを使ってもいいんですよ)、間違っていたら引き返してください。

ペース配分
登山の歩行速度は、メンバーが会話しながら無理なく歩けるペースにしてください。それ以上速いとバテやすく、汗も多くかきます。休憩を多く入れる必要も出ます。

速く歩いて多くの休憩をするより、ゆっくり歩いて休憩する時間を減らしたほうが、結果として早く目的地に着いたりします(もちろんケースバイケースですし山行スタイルにも依ります)。

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もし誰かがバテたり足の故障などでペースが落ちてしまった時は適切に休憩(糖や水分の補給やテーピング、サポーターの使用)をし、荷物を部分的または全部肩代わりします。つまり、リーダーはリーダー装備+数kgを背負っても平気なくらいの体力が必要です。

予定に沿って行程管理するが無理はさせない
メンバーの力に応じて計画を作っても、なかなか予定通りに進むわけではありません。体力やコース、各自の行動などで計画と実際にズレが出ます(そうならない計画を作るのがいいのですが難しい)。

計画から遅れたとき無理にペースアップで取り返そうとするとメンバーがバテたり怪我をしたりするリスクが上がります。焦らず無理がないペースで行動してください。

ただしどの程度遅れて、あとどれくらいで目的地に着くかは常に計算しましょう(標高差が+700mならあと2時間だなとか、概算を常に計算しましょう)。タイムマネジメントはリーダーの重要な役割の一つです。

また、スタートの遅れは1日の予定に響きます。朝の集合やスタート時刻は遅らせないように、リーダーもメンバーも努力しましょう。

メンバーを置き去りにしてはいけません
先頭を歩くリーダーが1人でどんどん行ってしまうのはよくありません。最後を歩くべきCLもSLも先行してメンバーだけが遠く離れてついてくるなどは、パーティーとしての体(てい)をなしていません。リーダーだけが先行することなく、きちんとメンバーを導きましょう。

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特に、悪い道やバリエーションルートで離れてしまえばルートファインディングや危険箇所の指示が届きません。置き去りにしないよう注意してください。置き去りにするといつの間にか滑落していなくなってしまったなんて事故が起こります。

適切にリーダー装備を使う
ロープやカラビナは単に持っているだけでなく、必要なシーンでは使えなくてはいけません。悪い場所があればフィックスロープを張ったり、誰かが滑落して可能なら引き上げたり(長さや斜度的に無理なら救助要請しましょう)。必要なシーンで適切な道具を速やかに使えるように訓練しておきましょう。

動画や書籍でもある程度学べますが、きちんとした人から実技講習で習うことをおすすめします。動画は実技で習った人が復習で見るものですね。

休憩の入れ方と注意点
ゆっくり歩いても水分補給やカロリー補給での休憩は適宜入れます(1時間に1回程度)。出来ればスタート時点や休憩を終えて歩き出す時に、次の休憩地点を予告してください。行動中も何分後に休憩するのか予告してください。いつ休憩するのか分からないと疲労感が増します。

つまり、リーダーは常にどこを歩いているのか、次の休憩地点までどのくらいの距離と時間なのか把握している必要があります。

次の休憩予定地点に着く前でも、メンバーがつらそうだったらペースを遅くしたり短い休憩を入れたり臨機応変に対応しましょう。

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休憩は広くなだらかな場所でするのが一般的です。崖下や谷、狭い登山道など落石や滑落のリスクがある場所は休憩に適していません。

斜面や崖に面した登山道で休憩をするばあいは、ザックや飲み物を落とさないように注意してください。例えば、ザックカバーを付けたザックの、カバー側を下にして雪の上に置くと(※)滑りやすいのでザックを失うリスクがあります。ザックの肩紐側を下にして置くと滑りにくいです。飲み物のボトルもよく滑ります。

※…そもそも雪山では一般的にザックカバーは付けません。が、地面は雪だけど降ってるのはみぞれ混じりや雨などで使うこともあります。ザックカバーを付けたザックは雪の上でよく滑るというのは頭に入れておきましょう。

まず休憩時間と出発時間を指示しましょう。「今15:24なので約5分間休憩して15:30に出発します」など。5分なら水分補給と行動食を食べる、10分なら軽い食事やストレッチなどが可能です。次に、上着を羽織るなどして体を冷やさないよう指示してください。

メンバーがきちんと水分や行動食を摂っているかも観察してください。山行終盤になると水が無くなってしまうメンバーが出ることがあります。水が無くなってしまったメンバーには水を分けてください。

そのためにリーダーは自分が飲むのとは別のペットボトルなどで500ml程度余分の水を持ちましょう(傷口の消毒などにも使えます)。遠慮する人が多いですが、脱水症状を起こすと大変なので水を飲んでもらいましょう。

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出発時には重ね着した分を脱いでザックにしまい、立ち去る際に最後を歩くCLが忘れ物がないかチェックしてください。メンバーにも忘れ物をしないように声も掛けましょう。

出発時には全員揃ったか確認しましょう。確認を怠ると、トイレに行って戻らない人を置いていってしまうなんて事が起こります。

道を譲るときの挙動
前から対向者が来たら、状況に応じて道を譲ります。譲る場合は、SLは後ろに譲るよう指示を出します。譲るほうが山側で動かずに待ってください。谷側で待つと滑落や転落の危険があります。

CLは後ろから全体をよく見て、問題が無いか常に気を配ります。後ろから歩くのが速い別パーティーや個人が来た場合、可能なら道を譲ってください。その場合は「xx人通してください。道が広いところの山側で止まって待ってください」などと指示を出します。

「ゆっくりだからいいですよ」なんて言う人もいますが、追いついているという事は追い抜けるスピードという事なので、譲ってしまったほうが気にすることが減って楽です。譲ってしまいましょう。

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撤退判断とその後の行動
天気の悪化やペースの遅れなどで予定を変更して撤退するならメンバーに状況を説明して撤退の判断をしましょう。条件が悪い場合の判断は安全寄りに行ってください。

悪天候で撤退したあと、少し降りたら天気がよくなることがあります。でも、一度撤退すると決めたら迷わず撤退してください。間違っても「やっぱ行けそうだな」とか言って戻らないようにしましょう。

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風や雨の状況は地形や時間の経過で目まぐるしく変わります。惑わされないようにしてください(※)。

※…とはいえ、毎回悪天候にビビっていては登れる山も登れません。八ヶ岳のこのくらいの風は普通だから耐風姿勢で乗り切れるな、問題ないだろうという判断もあり得ます。パーティーのレベルで判断は変わります(と言っても過信は禁物ですが)。

講習的なこともする、だから技術や経験は大事
シーズン初めの雪山では滑落停止やアイゼン、ピッケルの訓練をします。雪山経験があってもシーズン初めには訓練をしましょう。当然リーダーはメンバーより上手く出来なければいけません。メンバーの手本になるように実践できるように技術を身に着けておきましょう。

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メンバーの滑落停止やアイゼン歩行、ピッケルの扱いに問題があれば指摘してください。指摘するには技術と経験が必要です。勉強しましょう(講習を受けたり先輩に習ったりして、それを後輩に伝えましょう)。

自分が習ったときは、講師の言動をよく覚えておいて自分が教える際の参考にしてください。また、その時講師に不満を感じたら、それも自分が教える際に役立ててください。

指導するときは、『何を教えるためにこれから何をするか、どういう点に注意が必要か、なぜ注意が必要なのか』を説明してください。目的や理由が分からない指導はメンバーの中で言語化されないため学習効率が上がりません。言葉で説明するのがとても大事です。

雪上訓練だけでなく、ロープワークやハイキングレスキューも仲間に教えられるとよいでしょう。CL1人で難しいこともSLが複数いてみんなが技術を持っていれば安全度が上がります。パーティーみんなで成長するのことが大事です。

事故が起きたら
事故が起きたら、以降の山行計画は白紙としてレスキューに全力を尽くします。応急処置、必要なら救助要請、可能なら搬送など次々と判断してメンバーに指示を出し自分も手を動かします。

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平時であれば都岳連の遭難対策委員会が行っている講習がとても良いです。

セルフレスキューの本をスマホに入れておいて移動中などに読むのもいいと思います。

読むだけではなかなか身につかないので、読んだ上で講習を受けて、また復習で読むといいですよ。

ゴールに着いたら総括
無事登山が終了したら、全員が目的地に着いたか確認してください。誰かいないなんて事がないように人数を確認しましょう。

揃っていたら登山を総括して解散します。反省点があれば全員で共有し、次回の山行に生かしてください。

平時なら反省会として居酒屋で飲むこともありますが、2021年現在の世界ではやめておいた方がいいでしょう。

写真の共有
それぞれが撮った写真はGoogleフォトを使うと集約と共有が簡単です。

アルバムを作って、そこに各自写真や動画を追加すれば共有できます。共有リンクを送れば写真の追加やコメントの書き込みも出来ます。

完璧じゃなくてもいいですが反省はしましょう

以上のようにたくさん書いてきましたが、最初から完璧なリーダー的行動をとれる人はいません。

私も、失敗やみっともない行動をたくさん取ってきました。講習や個人山行でリーダーをすることがよくありますが、反省点がまったくない山行はありません。毎回反省だらけです。判断が遅れたり、最適な判断を出来なかったり焦ったり動揺したり。

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それでも続けていれば少しずつ上手く出来るようになるはずです。反省し、次回は良くしようと思うことが大事です。

リーダーの法的責任

なお、山行中にリーダーの判断ミスでメンバーが怪我をしたり死亡したりしたばあい、リーダーが法的責任を負う場合があります。自分は他人の命を預かっていると自覚しましょう。

何事もないのが一番ですが、個人賠償責任がある山岳保険に入っておくのもよいでしょう。私はヤマレコから『チーム安全登山』のエキスパート会員に入っています。

事故を起こさないように、メンバーのレベルとコースの難易度をよく検討する、天候やコース状況などをよく観察して判断をするなど、上記までに書いたリーダーとしてすべき責任を果たしましょう。

青天の霹靂のような避けようのない事故もあり得ますが、事故の確率を下げる努力はすべきです。

ここで考えてみましょう。ネットで知り合って初めて会う人達のリーダーになって事故があった時に法的責任を問われたらどうしよう?どう考えます?一緒に山に登る仲間についてはよく考えてください。

登山における法律の問題は、下記新書によくまとめられています。リーダーをやるような人は読んでおくとよいです。

メンバーの心得

以上のようにリーダーはとても大変です。メンバーはリーダーに連れて行ってもらうだけではなく、支えるように行動しましょう。

・リーダーがなにか伝えようとしていたら耳を傾ける。
・自分が出来ることは申し出る。
・装備に故障がないか、忘れ物がないかよく確認する。
・自分の装備や衣類を散らかさない。
・勝手な行動をしない、パーティーを離れる時は誰かに言う。
・行程や予定を頭に入れておく。
・遅刻しない、パッキングや身支度は短時間で終わらせる。
・無理をしない、バテたり行動不能になる前に不調や問題を申し出る。
・リーダーの判断や行動に疑問があったら意見を言う、リーダーも間違えることがあります。

メンバーの協力があればリーダーの負担が減ります。パーティー登山は全員の協力で成功します。

めんどくさいから単独で行きたい?

以上のようにリーダーはとてもたくさんの役割があります。ずっとメンバーや状況を観察し、最善の選択は何かを考え続けます。本当に大変です。

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だったらめんどくさいから単独でいいや、気楽だし、と思うかもしれません。単独は確かに気楽でいいのですが、全てを1人でやることになるのでリスクは増します。遭難したときの死亡・行方不明率はパーティー登山の3倍です。パーティー登山なら死なない怪我で死にます。

単独は単独で良いもので、私もたまに行います。だけど、たしかにパーティーの統率は大変だけど仲間と登る山もいいものです。

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パーティー登山も単独登山も、安全に注意してそれぞれ楽しめるといいのではないでしょうか。

まとめ

・パーティー登山をするなら必ずリーダーを決めましょう。
・リーダーはとても大変ですがやりがいもあるし自分の成長にも繋がります。
・リーダーはメンバーを思いやり、和を持ってパーティーを統率しましょう。メンバーを置き去りにして先行するなど論外です。
・リーダーは装備の使い方や経験、技術、人格などで優れていなくてはいけません。経験を積み尊敬されるような登山者を目指しましょう。
・山や地形、空、メンバーをよく観察して状況を把握し先を読んで行動しましょう。真面目にリーダーをやると山行中に頭が休まることはほとんどありません。
・岩や雪を経験するのも大事です。なぜなら、そこにはパーティーを安全に導くための技術があるからです。
・単独もいいけど、パーティー登山もいいものです。どちらも問題なく出来るようにスキルアップしていきましょう。

私が10人の仲間と運営しているおくたま登山学校では、さまざまな知識を伝えることで、人を山に連れていける人が育ったらいいなと思って講習会を開いてます。

『自立した登山者』とは『安全に人を山に連れていけて仲間の成長をサポートできる登山者』のことだと思っています。

2020年、21年は十分な講習を開けていませんが、今後も折りを見て講習会を開いていきます。興味がありましたらご参加ください。どうぞよろしくお願いいたします。

ありがとうございます、お疲れさまでした

最後まで読んでいただきありがとうございます。長かったでしょ?でも、これくらいの情報量がリーダーの行動には必要ですし、これを最後まで読む程度の根気がないと登山のリーダーをやるのは難しいのです(※)。

最後まで読めた方はリーダーをやるのに向いています。足らないものを自覚して成長を目指し、今後も仲間を引っ張っていける存在になれるようがんばってください。私もがんばります。

※…途中かなり端折った部分もあるので、本当に必要な知識は軽くこの10倍、15万文字分くらいはあります。この文章は学習のとっかりにすぎません。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。