見出し画像

[無料]読図の本質は地図の言語化です

読図の講習を受けて地図記号や等高線の意味が分かって、コンパスの使い方も理解した、さて自分で読図をしてみようと思った時に何をしたらいいか分からない。そういう人がけっこういるなと感じています。

今回は、読図とはなにか?読図が出来る人は何をしているのかを解説します。


想定読者

等高線や地図記号、コンパスの簡単な使い方は分かったけど実際に読図ってどうやるのかよく分からない人。

なので、今回は等高線や地図記号についてはあまり説明しません。さっぱり分からない方は本などで勉強してください。

動画で学ぶのもおすすめです。

地図記号は分かるけど読図は出来ない?

等高線や地図記号の意味がわかるようになって、では実際に読図をして下さいと言うと詰まる人がいます。

なぜか?

手順は習ったけど目的と本質を習ってないから

です。

地図とは『上から見た地形や物を描いた絵』です。その絵を分かりやすくするための規格が地図記号や等高線です。

読図とは何かと言えば、『絵』として描かれた地図を言葉に変換する作業です。地図は言語化してはじめて人間が理解できる形になります。

人は図形をそのまま理解しているのではなく、言葉に変換して理解しています(そうじゃない人もいるかも知れないけど、一般的にということで)。

画像12

読図の本質は言語化です

人間は名付けや言葉によって情報を扱いやすくしています。そのため言語化しないと頭に入りませんし、人に伝えられません(絵や音も言語化可能です)。無意識に言語化している人が多いのであまり説明されませんが、

読図とは、地図を言語化する作業のことです。

  1. 地図を言語化してメモしたり頭に入れておく

  2. 言語化した情報を使って先の地形を予想しながら歩く

  3. 予想と違ったら読図か歩いてきたコースのどちらかが間違っている

  4. 現在地や地形を確認して修正する

読図は必ず山行前に行い、現地でもこれから歩くコースの地図を先読みします。

地図を読まずに山に入り、なんとなく歩いて適当な場所で地図を広げて今いるっぽい辺りの地図を「ふむふむ」と読んでもなにも分かりませんし、意味もありません。

先の地図を事前に読むから意味があるのです。

『先読み→ルート維持→現在地確認→(先読みに戻る)』が基本で、これをナビゲーションサイクルといいます。

今回は事前の読図、地図の言語化をやっていきます。現地での『先読み』は事前読図の再確認みたいなものです。

高尾山の地図で読図

関東近郊でない方は馴染みが無いかも知れませんが、関東、特に東京近郊の方にはおなじみの高尾山の地図を用意しました。

国土地理院の淡色地形図に陰影起伏図を薄く重ねて、その上にコースと注釈、矢印などを赤で重ねました。

画像1

この地図を使って読図をしていきましょう。なお、しばらく集中力を要する内容が続きます。飽きたら次の項目まで飛んでください。

大まかなコース説明

『駅近くのTAKAO599ミュージアムをスタートして稲荷山コースを登り、山頂を経て4号路に入って吊橋を渡り、1号路と合流してTAKAO599に戻る』

となります。登ったことがある人なら大体イメージできると思います。この地図には1から10まで、大雑把なポイントに番号を振ってあり、その間にアルファベットを振りました。多人数で同じ地図を見るとき、番号やアルファベットを振っておくと位置の説明がしやすいためです。

スタートから稲荷山までを読図

では読図していきましょう。スタートは右にある『1.TAKAO599』です。TAKAO599の標高は190mなので、気圧式の高度計を持っていたら高度を合わせておきます。

画像19

『北東に向かいTAKAO599を出たら左に曲がり、10の下にあるY字の分岐を左に進み清滝駅に向かいます。清滝駅の左側で左に曲がりつつ川を渡って徒歩道に入ります』

ここまでが、上の地図に書いてあるZ地点(清滝駅の辺り)までの言語化です。

川を渡ったら斜面を登り、北東に伸びる尾根の東から南を回り込みます。Aと書いたピークを回り込むと鞍部に出ます。

(スクロールが面倒だと思うので同じ地図を何回か載せます)

画像2

植生は、登りながら右側は針葉樹、左側は広葉樹なので春から初夏の昼間、天気が良ければ気持ちいい新緑を見られるでしょう。

Bにはおそらく隠れピーク(※)がありますが、ピークの南側を回り込む形で登り、標高310mくらいで359mの標高点(C)から出ている尾根に乗ります。尾根を登っていくと359mの標高点がありますがピークの南側を巻きます。

※…標高差が10mに満たないため等高線が丸く閉じてないけど、周りよりは高くてピークの形になっている地形を『隠れピーク』と言います。

画像3

その後等高線1本分(10m)下ると、D地点で圏央道の真上を通る鞍部になります。左に高尾山インターチェンジが見えるはずです。なお、等高線は1本ですが10m区切りなので最大で19mの下りになっている可能性があります。ビルだと5階分以上はある高低差です。

Dの先で上りとなり、等高線4本分の40m程度を登れば381mの標高点。先に進むとEのピークを避ける形で左寄りに曲がり、標高差30mを登ると稲荷山の山頂に着きます。山頂手前には左に進む巻道の分岐があるはずですがスルーします。

稲荷山の標高が400mでスタートが200mなので標高差は200m。普通のペースなら40分程度です。

と、いうのが『2.稲荷山』までの地図を読んで言語化した情報です。

稲荷山から高尾山の山頂まで

稲荷山から先の地図を見てみましょう。飽きたら次の項目まで飛んでください。

画像4

真ん中右寄りにある455mの標高点までは僅かなアップダウンが続きます。距離は500m程度で標高差もあまり無いので、登りの手前までは8分程度。そこから標高差30mの登りなので、5分程度。稲荷山から455mの標高点までは15分程度でしょう。

少しアップダウンがあり、大きく右にカーブする感じで尾根を登っていくと『3.6号路分岐』に着きます。455m標高点から10分~15分程度と思われます。

画像5

分岐を右に見送り、尾根の南西側(向かって左側)を巻く形で登っていくと標高550m地点(地図のビジターセンターの『ジ』の部分)で尾根を真正面から登るコースになります。

山頂までの標高差は等高線5本、50m程度。これまでよりは急な登りです。無理なく登るなら10分程度掛かります。

これで『4.山頂』に到着します。標高は599m。休憩の時間を入れない場合、ここまでの時間を合計すると80分、大体1時間半程度かかる計算になります。休憩を入れたら2時間弱でしょうか。

下山は4号路と1号路を使います

ここからは大雑把に書いてありますが、真面目にやるならもっと細かく読み取ってください。飽きたら次の項目まで飛んでください。

画像6

山頂からの下山は4号路を使います。4号路は徒歩道を表す破線ではなく『幅員3m未満の道路』を示す黒い実線として書かれています。

よく林道がこの線で書かれているので、もしかしたら舗装された道かも?と思うかも知れませんが、実際は徒歩道と大差ない登山道です。これは地図からは分かりません。

山頂から北東に伸びる尾根の北西側をトラバースしながら下るので、向かって左手は谷、右手に斜面(山)となります。途中で尾根に乗り、距離で150m程度進んだ先の『6.尾根を右に外れる』で尾根を外れて東側の斜面を下ります。典型的な道間違いポイントです。間違えずに尾根から斜面に移ってください。

ここから8までは尾根の東側なので、15時くらいでも薄暗く感じるでしょう。太陽は西に沈むので東側の斜面は13時過ぎから暗くなります。

画像6

降り切ると7に吊橋があり、渡って左に曲がり、トラバースを続けると『8.1号路と合流』で1号路と合流します。

その後は舗装路となりますが、地図ではまだ黒い実線なので実際に行ってみないと舗装路なのか登山道なのかは分かりません(行ったことがあるなら分かりますね)。

画像7

その先の『9.つづら折り』から2本線になるので幅が広くなって舗装されている道路であると分かります。『9.つづら折り』までは尾根沿いに東から北東方向に進みます。下山が14時や15時くらいなら太陽は背中の方にあるはずです。

進んでいる方位は時刻と太陽の位置からなんとなく分かります。午後、北東に降りているはずなのに太陽が正面にあったら間違っているということです。太陽の位置を意識してください。

『9.つづら折り』を降りると谷を南東に進みます。谷なのでGPSの測位精度は落ちます。時間が遅ければかなり暗くなります。どんな山でも、登山の際はヘッドライトを忘れずに持ちましょう。必須装備です。

山頂とゴールの標高差は400m、距離は4kmくらいです。下りはゆっくり歩いても1時間半くらいですかね。早ければ1時間くらいでしょう。

と、地図から読み取れるのはこんな感じになります。他にも地形や地図記号から読み取れることはたくさんあります。

事前に読図した内容をメモってください

読み取った内容を文章として紙に書いてもいいし、テキストにしてスマホに入れておいてもいいし、印刷した紙の地図に書き込んでも構いません。

画像9

読図は実際にやらないとわかりません。読図をあまりやったことがない方は、まず行き慣れている山の地図を見て言語化の練習をしてみてください。

事前に書いた言語化情報を見ながら登ってみて、足らなかったら反省し、慣れてきたらあまり行ったことがない山の地図を言語化してみてください。

言語化が正しかったか現地で確認する作業は面白いですよ。読み取った読図情報が正しかったか答え合わせをしながら登ってみてください。山をより深く理解できます。

時間は距離と標高差で計算できます

上の言語化でちょいちょい出てきた時間ですが、距離と標高差で計算しています。

1/25000地形図なら、1cmが250mなので4cmが1kmになります。2倍に拡大印刷をした1/12500地形図なら、1cmが125mなので8cmが1kmです。

『1/25000』なら『1/"250"00』の250を取って1cm=250m、4を掛けたら4cm=1kmです。『1/"125"00』なら125を取って、1cm=125mとなります。覚えやすいですね。

下の写真は、分岐から次のピークまで1/12500地形図上で6cmなのでおよそ750mとなります。

距離は簡単に分かります。細かく調べるなら標高差も加味して三平方の定理で斜辺の距離を計算すべきですが概算なら平面距離でいいでしょう。

画像14

標高差が少ない登山道なら1分で60m歩けると計算します。なだらかで舗装路の下りなら1分で80~90m歩けたりもします。1分60mはあくまで普通の登山道のペースです。

傾斜がある場合は、標高差で計算したほうが簡単です。上りなら1時間で300m登ると計算します。なので、高尾山の標高差400mは1時間20分~30分程度になるのですが、平坦な道もあり距離が長いので少し足して休憩込み2時間弱となります。

下りは1時間に500m下る計算ですが、高尾山はなだらかで距離が長い部分も多いので単純な標高差の計算よりは長くなります。標高差400mなので1時間掛からない計算ですが、実際は1時間半程度掛かります。

よく分からなかったら、ヤマレコのヤマプラを使うなどして楽をしましょう。

距離や標高差から時間を計算できると、行動中に山頂に着く時間や下山完了の時間を頭の中で計算できるようになって便利です。登りは1時間に標高差300m、下りは1時間に標高差500m、なだらかなら距離60mで1分程度と覚えておくと便利です。

(ペースは各自違うので、自分の標準を調べて覚えておくと更によいです)

地形は変化点を見る

地形を言語化する時のポイントですが、尾根や谷、斜面、山頂(ピーク)、鞍部(コル)など地形が変化する部分をよく見ます。

稜線を歩く場合、普通は上り下りがあってピークとコルが次々に出てきます。下の画像のように断面図を書くと、ピークとコルの波が見えます。

写真 2018-02-22 13 27 07

稜線を歩く場合は、ピークとコルによる縦の波を読み取ることになります。コルが波の底、ピークは波の頂点です。波の大きさや数を読み取ります。

斜面を横切るトラーバース道の場合は、尾根と谷による横波です。上から見ると下の画像の様になります。

写真 2018-02-22 13 24 51

横波の数や大きさからどこの尾根を通っているのか、どこの谷にいるのかを推定できます。波の方位も手がかりになります。

『波の変化点=地形の変化点』

縦の波と横の波を読み取り、縦波が横波に切り替わる部分(尾根を降りてトラーバース道に入る場所など)またはその逆のポイントも事前に読み取ります。

画像17

上で言語化した高尾山の地図だと、4号路の途中にある『6.尾根を右に外れる』の部分が良い例ですね。横波から一瞬縦波になり、また横波に戻ります。

こういう、地形による波の変化点を見逃さないのが地形を読み取る上では大事です。

ベアリング表を作っておくと現地で楽ができる

言語化以外の事前準備としてはベアリング表を作っておくのもよいでしょう。ポイントで次に目指す地点までの方位角を表にしたものを『ベアリング表』と言います。

画像10

地図上のポイントとなる地点にコンパスを合わせ、上の写真のように方位角を計って読み取ります。『日の出山』と書いてある地点から下る方位角を計ります。

画像11

この場合は70°で、日の出山からの下りは東北東だと分かります(東は90°、南は180°、西は270°です)。

当日は山頂で『地図とコンパスを合わせてリングを回して』という手順を踏まずいきなり70°に合わせて進むべき方位を知ることが出来ます。これを各ポイントに対して行い、表にまとめておきます(または紙の地図に書き込みます)。

一般的には雪山のホワイトアウト時を想定したナビゲーション方法とされていますが、そうでない無雪期の低山でコンパスナビゲーションを簡単にするために用意してもよいでしょう。

もっと、スマホのGPSアプリを使えばそんな手順もなく一瞬で方位が分かってしまうわけですが。

画像18

概念図でも地形図へのメモ書きでもなんでもいいので、事前に読図をしましょう

ちょっと横にそれましたが、紙の地図でもGPSアプリの地図でも、表示されるのは等高線と地図記号です。正しく使うには、正しく読図しなければいけません。

山に入る前に地図を見て言語化し、それを元に概念図を書いてもいいし標高グラフを作ってもいい。地形図にメモ書きをしてもいいし、ベアリング表を作ってもいい。単に文章にしても構いません。ガイドブックのコース解説は、実は地図を言語化したもの+現地で得た情報です。

大事なのは、事前に地図を見て概要を頭に入れておくことです。紙の地図でもGPSアプリでも、事前の読図こそ最も大事な準備です。

当日は事前読図の確認にすぎません。机上登山で1回登ったコースの再確認となります。

(だから拙作のジオグラフィカは講習の際に事前に地図表示させてキャッシュしながら読図してくださいと指導しています。一括キャッシュの機能もありますが読図を怠るので非推奨としています)

画像19

事前読図を詳しくやるのが面倒なら妥協案

事前に地図を詳しく読んでおきましょうと言っても、地形図を見慣れていないと億劫でしょう。それなら、事前の読図は大まかで構いません。登山口から出発して山頂などを経て下山する地点までをザッと確認する程度でも構いません(※)。

その上で、当日は紙の地図やGPSアプリを見て、行動しながら立ち止まって読図をしてください。これから行く地形がどうなっているか?登り?下り?急斜面?なだかな尾根?下る方角は北?南?など、地形や斜度、方位などを読み取ってから歩いてください。

事前に確認しておくことで、道を間違えた時の違和感に気づけます。そのくらいの読図はしてください。

※…計画は別で、きちんとヤマプラなどを使って時間など計算してください。それも面倒なら登山のガイドブックを参考にしてください。

画像20

まとめ

  • 地図は地形を上から見た絵です。

  • 読図の本質は、地図の言語化です。

  • 言語化した情報を地図に書いたり概念図、メモ、ベアリング表などにまとめましょう。地図はそういう情報をまとめるベースとなる資料です。

  • 行き慣れている山の地図を見て言語化の練習をしてみてください。

  • 読み取るポイントは地形の波の変化点です。ピーク、コル、尾根、谷、尾根からのトラバース、沢からのトラバース、トラバースからの尾根など変化する地点を見逃さないでください。

  • 必ず事前に読図し、当日は読図の結果が正しいか間違っていたかの確認となります。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。