融けるデザイン2020 #1
『融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』出版から5年。今回は5年を記念して、融けるデザインを著者なりに振り返りつつ、少しだけ融けるデザインその後を何回かに連載して書いていく。
「融けるデザイン」誕生
まずは、タイトルや装丁について振り返る。
2014年10月29日編集者の村田さんからデザイナー(岡本健さん)へのメール引用
タイトルは、『すべては体験に収束する』からがらっと変わって『融けるデザイン』というふうにしてみたいと考えています。サブタイトルはまだ未定。情報空間と物質空間がますます融け合い、既存の世界の変容がどんどん進む中、「インターフェイス」というもののデザインを考えるうえで、向こう10年通用する本になると捉えています。(村田)
タイトルが決まったのは、出版日の3〜4ヶ月くらい前だったと思う。最初は「身体、道具、環境に溶ける、溶け込むデザイン」こんなタイトル案が挙がっていた。
しかし議論のなかで、編集者の村田さんは、最初の部分、「身体、道具、環境に」は取ってしまってはどうかという言うのだ。ここで初めて「溶けるデザイン」が誕生する。さらに少し時間を置いて、知人に「溶けるデザインになりそうだ」という話をしたところ、『「溶ける」は少しダサくないか?』という意見が。そして「融ける」という漢字の置き換えが生まれた。こうして「融けるデザイン」は生まれた。
融けるデザインで伝わるのか?
もちろん「融けるデザイン」では何のことかわからない。そこで、サブタイトルで補うことが大事になる。「〜感覚 ✕ 物質 ✕ 情報のあいだのデザイン〜」みたいなものあったが、最終的には「ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論」となった。こうして「融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論」というタイトルが完成した。
「融ける」には、分野の境界が融けるといった意味でも使っており、いろいろな意味をもたせているが、このサブタイトルによって、「融ける」とは、ハード、ソフト、ネットというものが融け合う時代の設計であることが、とりあえずは理解できるようなタイトルになった。
理系向け?デザイナ向け? とにかく中庸でいく
融けるデザイン企画のなかで、これは理系向けなのか、文系向けなのか?ジャンルは何なのか?はよく議論した。
書籍づくりにといって、本のジャンルはどこの本棚に置かれるかが決まる重要な問題だ。売る点においては営業しやすい、書店が売りやすいことが重要となる。
しかしながら、融けるデザインの内容は、そのジャンルが融けあう新しい世界を書いたものだから、棚問題は保留になった。ジャンルを決めるというよりとにかく中庸でいくそれが全体的イメージであり、装丁などもそのイメージで企画が進んでいった。
こうして、理系でも文系でもないような、装丁デザイン、タイトル、サブタイトルが落ち着いた。
つまり「融けるデザイン」というタイトル自体は、人文書にも見えるが、サブタイトルに「ハード×ソフト×ネット」と入ることで、テクノロジー感、理系的な印象を与え、「設計論」というところで、やや実用方面への印象へと繋げた。個人的にはバランスが取れて、とてもしっくりしきた。
装丁デザインも中庸さを
装丁については、岡本健さん(アートディレクション)と和田昭一さんとでグラフィックデザインについて説明があった。理系文系中庸ということで、「融ける」は明朝体だが「デザイン」はゴシック体にした。各ページについては本文は明朝体を使うが、章番号やページ番号は比較的大きめのフォントサイズでゴシック体を利用したと。
こうして、融けるデザインは中庸性を保ったまま書店へと展開していった。結果的には、PC書籍とデザイン書籍の棚に置かれていることが多い。Amazonから購入が多いとはいえ、書店のPC書棚でたまにみかけると、なんとも言えない場違い感があるし、その場違い感がまた興味深かったりする。
次回は序章について
今回は、主に内容というより企画過程の話となった。次回以降は、もう少し具体的に内容に踏み込みながら、融けるデザインをメタに振り返っていこうと思う。