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職人の弟子制度に思う「自然な働き方」

フジテレビの「ザ・ノンフィクション」という番組がある。テレビをあまり見ない自分が、ほぼ唯一定期的に視聴している番組だ。ライトな話から涙を誘う話まで様々あり、日曜の14時スタートということもあって、ジム終わりに昼食をとりながら妻とのんびり視聴するのは数少ない息抜きの時間だ。

そんなノンフィクションで、連続して類似したテーマ(に自分には思えた)が取り扱われた。師弟関係だ。

ボクらの丁稚物語2024 ~夢のはじまり 夢の終わり~

上京物語2024 ~シェフと父さんのケーキ~

いずれも、一流の職人になることを夢見て名門の扉をくぐる未来のホープたちの物語だ。うまくいかないことはあれど、それぞれの道で確かな軌跡を残していく。

ふと思ったことがある。よくある会社と会社員の関係、つまり一般の企業が社員の離職防止に腐心する一方で、職人の世界では弟子の独立を前提とした師弟関係が築かれている。
20年近く働いてきた今、実は後者の関係がとてもしっくり感じる、と。
ケーキ職人は言った。「もちろんウチに残ってくれれば嬉しいけどさ。みんな次が、帰るところがあるから。」そんな内容ではなかったろうか。

企業が社員の離職を懸念するのは、ノウハウや技術の流出を防ぎ、競争力を維持するためである。特に、高度な専門性を持つ社員の退職は大きな痛手となる。しかし、こうした防衛的な姿勢は、社員の成長意欲を削ぎ、組織の活力を損ねる恐れがあるどころか、真に社員のことを考えているとはとても思えない。

対して職人の世界では、弟子の独立を当たり前のものと考え、惜しみなく技を伝授する。家具職人やお菓子職人などに見られるこの師弟関係は、技術の継承と発展を促す仕組みだ。師匠と弟子の間には、技を通じて育まれる深い信頼関係がある。弟子は自らの成長を通じて師の教えを体現し、独り立ちした後もその技を磨き続ける。

多くの企業にその精神があるだろうか。

企業が社員の育成と定着を図るためには、職人の弟子制度に学ぶべき点は多い。教育の充実とキャリアパスの明確化により、社員の成長を後押しすること。上司と部下の関係を超えた、深い信頼関係を築くこと。そして何より、社員の自立を促し、その成長を組織の発展に生かしていく視点を持つこと。これらは、人材の長期的な育成と、組織の持続的な発展に欠かせない要素と言えるだろう。

加えて、経営者の姿勢も重要である。社員の声に耳を傾け、柔軟に対応する度量の大きさ。透明性の高い経営を通じて、社員との信頼関係を深めること。そうした経営者のリーダーシップが、社員のエンゲージメントを高め、イノベーションを促進する土壌となる。

「辞めないで」というのは単なる組織や経営者の甘えではないのか。

社員の成長と独立を支援し、その力を組織の発展に生かしていくこと。職人の弟子制度が示唆するこのあり方こそ、自然な働き方の姿なのではないだろうか。企業がこの視点を持ち、社員一人一人を尊重し、その可能性を引き出す環境を整えることで、人材と組織は共に成長を遂げられる。
変化の時代にあって、これからの企業経営に求められるのは、こうした人を活かす力とそれを支える柔軟な組織づくりかもしれない。

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