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教えないスキルの話

私は、野球派です。

中学・高校と野球部で過ごし、ふたりの息子たちもそれぞれ少年野球や野球部に属し、休みの日にはDAZNで野球中継をついつい見てしまいます。

サッカーについては、人並み程度にチーム名や有名選手を知っている程度で”3-5-2"やら"4-3-3"みたいなフォーメーション論を語るほどの知識はないので、つい「そんなダブルプレーありえんやろ」と脳内変換してしまいます。

そんな私ですが、おそらく人生で初めてサッカーに関する本を買いました。

著者の佐伯夕利子さんは、若き日本代表・久保建英(たけふさって読むんですね)選手が所属するビジャレアルで育成コーチをしており、過去にはスペイン3部リーグで女性初の監督を務めた経験もある方とのこと。

少し前、NHKのスポーツニュースで特集されていて思わずポチってしまいました。(Amazonでもしばらく在庫がなかったので、反響はあったんでしょうね)

ビジャレアルというクラブチームには、3歳からトップチームまで800名の選手が在籍し、佐伯さんを含むコーチは120人もいるらしいです。そこで2014年から行われてきた「指導改革」の内容が本書には書かれています。

ざっくりとまとめると「選手個人の主体性や思考力を引き出すための、言葉のかけ方や問いかけ方、場の作り方」がエッセンスとして散りばめられていて、とても興味深い内容でした。

・行動を直接指示することはしない(例:「右!」「シュート!」等)
・姿勢、態度、取り組み方がよくなければ、叱る
・適性、才能、スキルが足りなければ、応援したり別の方法を勧めたりする
・存在、ありようは、尊厳をリスペクトして守る

「主体性」か「マニュアル」か

こういった組織やチームのマネジメント手法と、マニュアルを用いた業務オペレーションの標準化の話は、一見すると真逆の考え方のように聞こえます。そして対立的な構造で「どちらがよいか?」という議論のされ方をします。

・「自主・思考型」がよいか、「マニュアル・管理型」がよいか?
・「ボトムアップ型」がよいか、「トップダウン型」がよいか?

実は、一番の落とし穴がそこにあります。

私自身も、マニュアルの重要性や有効性を大前提として、Teachme Bizを通じて世の業務マニュアルのあり方を変えたいと思っています。だからと言って、すべてをマニュアルに依存するようなガチガチに思考停止した組織が望ましいとは全く思いません。

組織の存在意義や求められること、時間軸によって答えは異なりますし、答えはひとつでなくても、組み合わせで考えてもよいのです。

クラブチームのように、長期的な教育や人間的成長を目的とした組織であれば、本書のような育成スタイルも正しいと思います。もちろん、そうではない、作戦や戦術を踏まえた組織的な勝ち方を目指すというチームがあってもいいと思います。

また、チェーンストアのように、短期的な業務運営を目的とした組織であれば、マニュアルを使った平準的な運営スタイルが望ましいと思います。と、同時に、長期的な視点では企業の中核を担える人材の育成も必要です。そこには本書のような主体性を醸成する考え方が参考になります。

長期的教育と短期的オペレーションは対立的なものではなく共存的なもの。「どちらがよいか?」をひとつに決める必要はない。そんなことをあらためて感じる一冊でした。

ちなみに、私はやっぱり野球派です。